初デートの場所再び
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
君があまりにも幸せそうに笑っていると、
それでいいかなんて思うくせに、
いつになっても、君を好きでいることを
やめられない。
矛盾してるね。
夏樹
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
「ねぇ巧どこ行くの?」
「んー? どこか行きたいとこは? お姫様」
「ふふふっ」
手は繋いでくれない。
でも、いつも手首を柔らかく掴んで歩くのは巧の癖だ。
これを色んな人にしているのかは知らないけど、いつも絶対に車道側を歩いてくれる気遣いのできる巧はいつも私の右手首を掴む。
それをぶらぶらと2人で揺らしながら、学校裏のバイクを置いている裏道へと入る。
「巧、今日はヘルメットある?」
「あるよ。しお専用メット」
そう言って、バイクのシートの下から、黒くて、後頭部に大きく白いハートのシールが貼ってあるヘルメットを取り出して、渡してくれる。
巧がバイクの免許を取った時に、私が後ろに乗りたいって言うと、買ってきてくれた。
私の宝物の1つ。
それを巧は私にスポッとかぶせて、カチッと締めてくれる。
「よしっ行くか。パンツ見えないようにしろよ」
「あっはい!」
巧の後ろにスカートを押さえながら跨って、ジャケットの裾をピッと掴む。
巧がチラッと振り返って、眩しいくらいに、意地悪ににまっと笑って、こっちを見つめてくる。
「ちゃんと掴んで。危ないし……それに」
「それに何?」
言われるがままに、腰に大きく腕を回して、頬を背中にピタッとくっつける。
「しおを背中で感じてたいから。ねっ。じゃあ出発」
顔がぼっと火を持った。
口が開くくらいに、想像もつかない事を言われて本当に心臓が口から飛び出るかと思った。
呼吸がちゃんとできなくて、胸の疼きが止まらない。
細いのに、私よりも随分大きな背中に体を預けるのが、何だかあの一言で余計にドキドキしてしまった。
「巧のばか……」
走ってるだろうから聞こえない巧の背中でぼそっと呟く。
いつだって私をドキドキさせる巧の言葉は、麻薬のようだ。
癖になって、抜け出す事ができない。
「巧どこに向かってるの?」
信号待ちで停まっている巧に、少し大きな声で話しかける。
「ん? 特にリクエストはないんだよな?」
「うん。巧とならどこでもいいよ。どこ向かってるの?」
「嬉しい事言ってくれるなぁ、しお。可愛い」
ほら、こうやっていつもはぐらかす。
聞かれたくない事はいつもはぐらかしてしまう。
巧には、いつも勝てないよ。
もう何度聞いても教えてくれないだろうから、黙って巧に任せる事にした。
巧に連れて行かれて、20分ほどが経った。
バイクが停車し、巧がこっちにくるりと振り向いた。
「ここって……」
「小さい頃、5人で遊びに来た植物園だよ」
うん知ってる。
よく知ってる。
毎日マルゴで遊んでいた私たちは、冒険したい年頃で。
マンションから抜け出して、5人で自転車に乗って遠出をしたの。
初めて自分たちの意志で辿りついた場所がこの植物園。
200円で見学できるここに、お小遣いをありったけつぎこんで5人で入場した。
色とりどりの花が広がっているそこは、夢のようで。
5人で初めて辿りついたそこは、もう楽園のようで、こんな世界もあるんだとここに広い世界を感じたのを覚えている。
あの後、それぞれ両親にこてんぱんに叱られて、それから親を心配させちゃダメだと反省して、こういう事をしなくなった。
すっごく怒られたから、何だかみんな後ろめたく思っていたのか、あれ以来行ったことはなかった。
「ここ。久しぶりだぁ。10年ぶりぐらいだね」
「しおは花好きだろ。来たかったんじゃないかと思って」
「うんっ。巧ありがとう」
巧にいつもの調子で手首を掴まれて、入場券を買いに受付に行く。
「お姉さん。高校生2枚ね」
「お2人で1000円になります」
1000円。
200円で入場できたここが、1人500円。
私たちも大人になったなぁ。
何だか懐かしい気持ちになって、お金を払っている巧をぼーっと見ていた。
そんな私は、巧にまた手首を掴まれて、植物園の入口へと歩きだした。
「あっ巧。お金っ! 500円ならあるよ」
「いいよ、しお。今日すぐ駆けつけてやれなくてごめんな。お詫び」
私を見て儚く笑って見せた巧は、植物園の自動ドアをくぐって行く。
巧に引っ張られて、小走りで着いて行く。
「巧。ありがとう!」
「ああ、いいよ」
巧が何だか嬉しそうに笑うから、私まで嬉しくなってしまう。
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