輝く王子様の重要性
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
いつだって、
君は私の救世主で、
私の永遠の王子様。
きっと、一生、一生変わらない。
詩織
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
ガラガラッ!バン!!!!
すごい音を立てて、保健室の扉が開いた。
ここはカーテンで囲われていて、外がまるで見えない。
「柾木! あんたもうちょっと静かに開けなさいよ。寝てる子いるんだから。それより、あんた授業はどうしたのよ」
柾木。
ナツくんだ、きっと。
カーテンがシャッと音を立てて、開かれて、少し息の切らしたナツくんが目に入る。
「詩織。はぁ……良かった。……大丈夫?」
私の元に寄って、ベッドの横に置かれている椅子に腰かける。
「大丈夫だよ。頭痛いだけってお兄ちゃんから聞かなかったの?」
くすくす笑いながら、ナツくんをちらりと見る。
ナツくんはバツの悪そうな顔をして、こっちを気まずげに眺めてくる。
「だって、俺ずっと寝てて、目覚ましたら、涼から詩織が保健室にいるって聞いて、慌てて走ってきちゃった」
ああ、心配してきてくれたんだ。
胸がキュンと音を立てる。
「ありがとうナツくん。授業抜けてきてくれたんだね」
「別にいい。詩織が無事なら、かまわない」
ナツくんをじっと見ると、向こうもこっちを見ていて、何だか恥ずかしくなる。
平気な顔で甘いセリフを吐くナツくんにドギマギしてしまう。
それにナツくんはこんな事私にしか言わないから。
余計にそれが胸をくすぐる。
「授業戻らなくていいの?」
「帰ってほしいの?」
「そういうわけじゃないけど」
「ならいいじゃん」
「…………うん」
ナツくんといると、素直に甘える事が出来る。
「詩織泣いたの?」
寝転んでいる私の目のふちをなぞってくる。
「えぇー泣いてないよ。目にゴミ入っただけだって」
「……そう? 聞かないけど、何かあるんなら言いなよ。俺はいつだって、味方なんだから」
「うん。ありがとうナツくん」
微笑んで、ナツくんを少し眺めて、目を閉じた。
チャイムが鳴って、目を覚ますとナツくんはいなかった。
6時間目の終了のチャイムで、学校が終わるチャイム。
それにベッドから降りて、カーテンを開ける。
「先生ありがとうございました。帰ります」
「はいはい。またいつでもおいで。担任の先生には頭痛だって言っておいてあげたから」
先生に深く頭を下げて、保健室を後にする。
廊下をまっすぐ歩くと、1年の教室にたどりつく。
でも、その距離がひどく長く感じる。
嫌だなぁ。
あの子たちいるんだろうな。
教室にどういう顔して、入ろう。
怖い。
怖いなぁ。
今は教室に春香がいるから大丈夫かな。
何度目か分からない溜息を吐き終えると、教室のドアの前になった。
閉められているドアでは、向こうからざわざわとした声が聞こえる。
前のドアは開かれていて、何人かはもう帰って行っている。
でも、ドアの向こうから、芳川さんたちの甲高い笑い声が聞こえてくる。
どうしよう、怖い。
でも、行かなきゃ。
ガラガラと引くタイプの扉を開くと、女の子たちが一斉にこっちを見た。
芳川さんたち以外にもこそこそと話す女の子たちまでいて、目線を下にして、素早く机に行く。
机で鞄の中身を整理していると、芳川さんたちが何だかこっちに近づいてくるのが分かる。
何の用……?
春香は何だか見当たらないし、トイレにでも行ってるのかな。
もう十分色んな事言ったじゃん。
まだ何を言う事あるのよ。
泣きそうな気持ちで、鞄の中に教科書を詰めていると、前のドアの方から歓声が上がった。
パッと顔を上げて、扉の方をとっさに見た。
巧だった。
制服も着ないで、細身のジーパンにカーディガン姿の巧がドアを押さえて、立っていた。
「しお!」
巧?
今日学校に来てなかったのに、なんで?
しかも、私服?
「巧……」
ぽろりと零れた独り言のような声を、巧が聞き取れたのかは分からないけど、私だけをじっと見ながら、私の机まで歩いてくる。
「しお、大丈夫か?」
私のおでこに手を当てて、熱を測るような仕草をする。
熱なんて全くないのに。
それでも、この重苦しい教室で、今から芳川さんたちに何をされるか分からなかった恐怖から救ってくれたのは、巧だった。
本当に、巧は、いつだって私のポイントをぐっと稼ぐ。
タイミングが良すぎる。
「ど、どうしたの巧。今日学校来てなかったのに」
「どうしたって、お前が保健室にいるって春香からグループチャットで、俺とナツと涼に送られてきたから」
「そうなんだ。知ってたんだ……どうして私服なの?」
「ん? 銀竜にいたから、そのままバイク飛ばして来た。メッセージ見たのがもっと早かったら良かったんだけどな」
「じゃあ、私を心配して来てくれたの?」
「それ以外何があんの?」
そう言って、立っている私の後ろから腕が2本ふわっと出てきたかと思うと、きゅっとお腹に手が回る。
巧が後ろに密着してる。
「ああーほんと心配した。で、結局何が理由で保健室?」
「えっと、頭痛?い や、んー…花粉?」
「なんだそれ」
けらけら笑う巧は、笑うたびに、胸が少し上下して、それが背中で感じられるためにドキドキして仕方ない。
それにしても、教室でなんでこんな体勢になってんだろう。
クラスの人たちは悲鳴をあげてるし、きっと芳川さんたちにも明日怒られるんだろうなぁ。
それでも、巧が来てくれた事が嬉しくて、そんな事さえ耐えられる私は馬鹿以外の何者でもないんだろう。
「巧……」
「どした?」
「今日バイクで送ってくれる?」
「ああ。花粉が大丈夫なら、ドライブでも行くか」
いまだ花粉の事でけらけら笑っている巧の腕をパンっと叩いて、体を離す。
私よりも30センチほど身長の高い巧を、見上げてみると、こっちを見て甘い笑顔で微笑んでいて、それだけでキュンっと胸が高鳴って殺されそうになる。
「しお、そんな上目遣いで見られたら可愛すぎてぎゅーってしたくなるよ」
じーっと見すぎていた私の頭をポンと叩くように撫でて、机に置いてあって鞄を持ってくれる。
さっきまで後ろから教室のど真ん中でぎゅーってしてたくせに。ばか。
「帰ろ、しお」
そう言って、スタスタと歩いて行く巧の後ろをちょこちょこと歩く。
教室から出ると、いつもの3人がいた。
「あれ? 巧? なんでお前ここ来てんの? 私服だし」
「んーちょっと。用事ついでに、しお拾ったから、体調悪そうだし連れて帰るな。春香はナツか涼に送ってもらってな」
ついでに拾った?
巧って、どうしてみんなの前じゃ私には興味ないって振りするんだろう。
本当に興味ないのかもしれないけど、なんだかそれだけじゃないような。
うーん分かんないけど。
「みんな心配してくれてありがとう。先に帰るね。マルゴには9時には行きます」
巧の私服姿を見て、唖然としている3人に手を振って、先にいる巧を追いかける。
巧は私をチラッと振り返って、ついてきているのを確認するとくすくす笑って前を向いてしまった。
その様子が気になって、巧の隣に小走りで近づいて行く。
「なんで今笑ったの?」
「えぇー、しおがあんまり可愛いから。いつ見ても小動物みたいで可愛い」
隣にいる私を見下ろして笑う巧は、もう凶器なくらい美しい。
見るだけで涙が出そうになるくらい、綺麗で、かっこいい。
やっぱり、私はどうしても巧が好きで、巧が隣にいるだけで、お姫様になったような気分になる。
それがどれほど叶わない恋でも、どれだけ思わせぶりな態度をとられても、隣にいないよりよっぽどいい。
こんなに好きな巧が、一日の中で、少しでも私を考えてくれる時間があるだけで、十分なんだ。
今日もただ私を迎えに来るためだけに、私服で急いで学校に来てくれた巧に、胸が高鳴って殺す気じゃないかと思った。
本当にそれだけで十分なんだ。
私のばか。
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