救いようのない馬鹿

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°

いつだって、

いいところを見せるのは俺じゃない。

気持ちが膨れすぎて、

君さえ憎らしいくらいだ。

夏樹

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°


学校に行くと、だんだん色んな人の視線がきつくなった。

特にクラスメートが。

ただ、教科書を隠されたり、トイレに閉じ込められたり、それくらいなら我慢できる。

多分……。


だって、現在トイレの個室の中。

クラスメートの女の子たちに全然誰も来ない西校舎のトイレにまで連れてこられて、1つの女子トイレに閉じ込められた。

これはここ最近の日課かもしれない。

それから、モップとかでドアをバシバシ叩かれている。

中は、ドアのすごい衝撃でビクビクと体が震える。

使われてないトイレは、臭いというか何だか変わった匂いがする。


「調子乗んじゃねぇよ!!」


調子になんか乗ってない。

私が一番巧を想っても叶わないことを知ってる。


「どうせ巧さんの真似してその色にしたんだろ! 似合ってねぇよ、ばーか」


巧と同じ髪の色にして何が悪いの……。

近くにいるのに、勝手に真似する事でしか巧に近づいた気持ちになれない私の辛い気持ちなんて、あなたたちには分からない。


同じ色にした時、巧は一瞬戸惑った表情を見せてから、すぐにいつもの笑顔になった。

その戸惑った表情が頭から消えなくて、その場から逃げだしたい気分になった。

自分でも痛いくらいに分かってるんだから、もうこれ以上言わないで。


「幼なじみなんて妹みたいなもんだろうが」


やめて……。

やめて……。


「お前みたいな近い位置なんかより、うちらの方が見込みあんじゃね?」


やめて。

お願い、もうこれ以上言わないで。


「お前なんて、一生ついてまわる事くらいしかできねぇよ。ばーか」


やめて!!!!!!!!!!!!!!


「うぅぅぅ~……! 帰って……お願い。うぅっ……これ以上言わないで……!!!!!!」


両耳を手できつく塞いで、ありったけの大声で叫び散らす。

3つしか個室のない狭い閉め切られたトイレには、痛く響いて耳がわんわんと鳴る。


「なんだ、お前。きもちわりっ」

「調子に乗んな、ばーか! 次巧さんと喋ってるとこ見たら、ただじゃおかねぇからな」


女の子たち4人組は、捨て台詞を吐くと、ドアを乱暴に開けて帰って行ってしまった。

トイレの個室のドアを開けようとするけど、全然開かなくて、力いっぱい押すと、何か物が置かれている事に気付いた。


両手できつくドアノブを握って押しだすと、ドアの前に置いてあったらしい水の満タンに入っていたバケツが倒れて、スリッパと靴下が濡れてしまった。

何だかそれが悲しくて。

惨めで。


「うぅ、ふぅ~……うぅー……うわーん!!!うぅ~!!!」


言われなくても分かってる!

だから、これ以上、私の心を傷つけないで……。

トイレの壁にもたれて、しゃがみ込んで、一時間泣き続けた。

永遠泣き続けると、目は赤くなって腫れあがって、到底人に見せられる顔じゃなかったから、保健室に来た。


「まぁまぁ。どうしたの?」

「ちょっと……あって。放課後までここにいさせてくれませんか?」

「それはかまわないけど。何かあったのなら聞くからいつでも話しなさいね」

「ありがとうございます。ちょっと休みます」


保健室にしては、ふかふかのベッドにもぐって携帯を確認する。

携帯のディスプレイが明るくなって確認すると、春香からのメール。


『授業来ないけどどしたぁ!!!??? 何かあった!? 心配!!!』


ああー、1時間ずっとトイレにいたから、何通も来てる。

何も言わないで教室出て行っちゃったからだ。

多分、これはお兄ちゃんとかナツくんにも連絡行ってるなぁ。

早く返事を返さないと。


『ごっめーん! ちょっと頭痛くなったから保健室で眠ってた~このまま放課後まで2時間眠ってます。あとで教室戻りますっ』


携帯でメッセージを返し終わると、携帯を枕元に置いて目を閉じる。

先生がひんやりしたタオルを目の上に乗せてくれたから、それにお礼を言って、目を閉じる。

そのまま、浅い眠りに落ちた。

目が覚めたのは、心配した春香たちが来たからだった。


「詩織寝てるよぉ。起こすのやめとかない? 何で目にタオル乗せてんのかは謎だけど」

「でも、もしまじでしんどいなら連れて帰んなきゃなんねぇだろうが」

「そうだけど……」

「おい、詩織。詩織起きれるか?」


肩を軽く揺さぶられて、目を開ける。

タオルを目からどかして、眩しい視界に慣れてくると、心配そうにこっちを見ている春香とお兄ちゃんが目に入った。


「あっごめん。心配してきてくれたの? あっ、えっと今休み時間かぁ。ほんとちょっと頭痛くなっただけなんだけど、ごめんね」

「俺らの事は別にいいけど、大丈夫なのかよ。無理なら連れて帰るけど」


そう言って、おでこを優しく撫でてくれるお兄ちゃんに思わず気持ち良くて目を閉じる。


「うん大丈夫だよー全然」

「でも、詩織目赤いけど、大丈夫?」

「あっこれ? 目にゴミ入っただけ。もしかしたら、花粉かな。ふふふ」


努めて明るく話す。

そうじゃないと、絶対気付かれるから。


「そうか? じゃあいつものように教室迎えに行くから、放課後に教室戻ってこいな」

「分かった。ありがとう春香もお兄ちゃんも」

「しんどかったら、連絡してくれたらいいからね」


春香とお兄ちゃんが2人で心配そうにこっちを振り返りながら、帰って行った。


「ふぅー……」


思わずため息を吐く。

なんで、こんなに息苦しいんだろう。

きっと、私がみんなに頼れないからだ。

きっと、巧を好きでいることに、色んな人への後ろめたさがあるからだ。

ぬるくなったタオルを目の上に置いて、また目を閉じる。


保健室にも、6時間目が始まるチャイムの音が鳴り響く。

巧は、今日も学校来てないなぁ。

次、いつ来るんだろう。

マルゴで会えるからいいし、むしろ学校で会ったらまずいかも。

あの子たち、巧と喋ってるとこ見たら、ただじゃおかないって言ってたし。


「はぁ……」


もう、どうしたらいいか分かんないよ。

眠りにつかずに、少しの間憂鬱な気分で考えていた。

色んな事を。

ナツくんのこと、巧のこと、春香やお兄ちゃんのこと、クラスメートのいじめのこと。


色んな事が重なり合って、また涙が出そうになった。

私と巧を応援してくれる人は、きっと1人もいない。

パパもママも春香もお兄ちゃんもきっと、ナツくんとくっつけばいいって思ってる。


それが一番私のためだと思ってくれている。

その重圧に押しつぶされそうだった。

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