君と食べたい昼ご飯

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°

君と違う世界にいる時の自分は、

君のことばかり思い出しては、

君の事ばかり考えているよ。

ほんとなんだ。

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°



そのあとすぐに鳴り響いたチャイムで、教室の騒ぎはおさまった。

次の休み時間になって、すぐに春香が飛んできた。


「巧来たじゃん! ビックリしたよ! 詩織に会いに来たんじゃないの?」

「違うよ~絶対違う。どうせいつもの気まぐれだよ」

「えぇーそんな事言っても嬉しいくせに。素直に嬉しいって言いなさい」

「ふふっうん嬉しい。すっごく嬉しい」

「そっか。良かったね。よしよし」


春香が私の髪を撫でてくれる。


「食堂は行くの?」

「うん行く。行きたい」

「あんた巧への愛だけは尊敬するよ」

「だけはって何よ~」


春香が呆れたように笑ってくれる。

同い年だけど、妹のように可愛がってくれる春香は、私よりも大人でしっかりしてる。

昔から、かっこよくて1人で立っている春香は私の憧れなの。



昼休みになって、すぐに食堂に行った。

食堂はいつもたくさんの人で溢れているけど、広い敷地のせいでそんなに混んでいるイメージはない。

でも、今日は明らかに混んでいる。

ブラックが揃っているから。


春香とお弁当を持って、注目の的のブラックをきょろきょろと探す。


「あっナツ兄! 涼ちん!」


春香がナツくんを発見したみたいで、ぶんぶんお弁当を振り回しながら、手を振っている。

その視線の先を辿って行くと、お兄ちゃんとナツくんと巧が3人でご飯を囲んでいた。

春香の声に気付いたのか、私たちを3人が一斉にこっちに振り向く。


「詩織! 一緒に食べよ」


お兄ちゃんが手を招いて、私を呼んでくれる。

隣には女の子たちがたくさん座っているけど、お得意の口説きで巧が女の子たちを移動させている。


「一緒に食べてもいい?」


近くに行って、話しかけると、ナツくんはこくりと頷いて、席を開けてくれた。


「おっ。しお。お前小さいのによく来たな。ここおいで」


巧が自分の横の椅子をパンパンと払って座らせてくれる。

春香はお兄ちゃんの隣に腰掛けていて、並びとしては、巧、私、ナツくん。

その向かいに春香とお兄ちゃん。


私が入学してから、巧が学校に来たのはまだ3回目。

だから食堂を訪れるのも3回目になる。

お兄ちゃんと同じオムライスを食べる。

付属のケチャップをオムライスにかけて、スプーンで。

オムライスだけで十分なのに、ウインナーやから揚げなどのおかずも入っていて、やっぱりお母さんのお弁当はいつも凝っている。


可愛い爪楊枝なども入っていて、彩りも可愛い。

私もいつかこんな風にお弁当を毎朝作って、旦那さんに持たせてあげたいな。

旦那さんは絶対巧がいいけど。


巧はカレーを食べながら、私のお弁当箱をのぞき込み、トマトを1つ親指と人差し指でつまんでパクっと口に入れた。


「うまっ」


トマトなんてどれでも味なんて同じなのにな、と思いながらも、そんな行為さえも嬉しい。


「結局今日マルゴ行くのって巧以外?」


お兄ちゃんがオムライスを食べながら、誰とは言わずみんなに話しかけている。


「ごめんな。ちょっと銀竜に顔出しとくわ」

「俺らがマルゴばっかにいるから幹部不在だもんな。しゃあねぇ」


巧たちが銀竜に入る前、もう3年前くらいになるけど、その時は、みんな絶対毎日マルゴに集まっていた。

全員が中学生の時だ。

でも、銀竜に入ると夜に抜けられない事も多いし、お兄ちゃんとナツくんが幹部になって、巧が総長になった時点で、5人で集まれることは少なくなった。


ブラックの3人に違う世界ができて、少し遠くなった。


今何しているのか分からない事も多いし、やっぱりこの理由は歳の差もあるのかもしれない。

春香はいいな。

お兄ちゃんと付き合ってるから、離れていても気持ちが通じ合ってるんだし。


「詩織。親子丼いる?」

「いるっ」

ナツくんからスプーンを渡されて、親子丼を食べる。


「おいしいー!」


ナツくんが食べている私を、頬杖ついてじーっと見ている。


「あんまり見ないでよー。食べにくいから」

「ごめんね。だって食べてる詩織可愛いもん」


その一言で顔がかあっと赤くなるのが分かる。

ナツくんは本当に天然で甘い言葉をぽろっと零す。

巧も同じように甘い言葉を吐くんだけど、全然違うんだよね。


天然と計算の大きな違い。

それに、ナツくんやお兄ちゃんがいる時は、巧は私に甘い言葉をあんまり吐かない。

理由があるのかどうかは知らないけど、どうせ聞いてもはぐらかしてしまうんだろう。


「詩織。迎えに行くから、学校から先に帰るんじゃねぇぞ」

「うん分かった。春香と教室で待ってるね」


お兄ちゃんはナツくんや巧とは違って、少しぶっきらぼうでクールで、だけど優しくて。

お兄ちゃんが小さい頃から大好き。

すっごくお似合いの春香とずっと幸せになってくれたらいい。


「ナツくんオムライスも食べたら? ママが作ってくれたんだよ」

「うん食べる」


ナツくんにお弁当をスライドさせて、スプーンを渡す。


「やっぱ百合香さんの料理はおいしいな。うちの母親なんかお菓子ばっかだし」

「えぇーでもお菓子すっごくおいしいのうらやましいよぉ」


ナツくんときゃっきゃと騒ぎながら、ご飯を終えて教室に帰る時になった。

案の定ナツくんと2人で話し続けていた私は、巧の事を少しの間忘れて楽しい会話をしていた。


階段の前に到着して、3年のブラックとはここでお別れ。


「じゃあまた放課後ねー」


3人に手を振って、春香と一緒に1年の廊下を歩こうと後ろを向く。

その瞬間、右手をぐっと掴まれて、前に足を踏み出していたところだったから、前に少しつんのめる。

後ろをとっさに振り返ると、巧が少し寂しそうな顔で私の腕を掴んでいた。


「……な、何?」


声が上ずって、ちゃんと喋れてない。

春香もナツくんもお兄ちゃんもすでにここにはいなかった。

それでも、周りにはたくさんの人が行き交っているのに、2人だけ違う空間にいるように、スローに感じた。




「ナツとばっか喋ってて寂しかった」


それだけ言うと、腕を放して、両手をズボンのポケットに突っ込んで、階段を一段飛ばしで、優雅に上がって行ってしまった。


な、なに……。


「~~~っ~~…」


真っ赤になった顔を両手で隠して、廊下のど真ん中でしゃがみこんでしまった。

巧が言うんだからいつもの事なのに、心が全然慣れてくれない。


嘘つき巧。

思わせぶり巧。

女たらし巧。


だけど、だけど、……だからこそ。

巧の本音がどこかに隠されてないかって一言一言に敏感になる。


「また巧にいつもの調子で何か言われたんでしょー」


春香がついてこない私に、道を引き返して戻ってきてくれた。

しゃがみ込んでいる私に手を差し伸べて、微笑んでくれる春香。


その手を掴んで、歩きだすけど、今は何も話す事ができなかった。


胸がいっぱいすぎて、何も考える事も喋る事もできなくて、机に着いた途端、ぼーっと窓の外を眺めた。


大好き。

やっぱりどうしても大好き。

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