川崎巧にふわふわ病
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
小さい頃から温め続けてきた恋は、
もう行き場すらなくて、
いつか壊してしまいそうになる。
夏樹
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
春香とお兄ちゃんのカップルが余計私とナツくんに恋愛を意識させる。
いつもは楽しい通学路も、たまにこうやって気まずくなってしまう。
「ナツくんは今日マルゴ来るの?」
「行くよ。学校終わったら詩織と一緒行く」
「あっ今日は銀竜に行かなくていいんだ。じゃあ、4人で一緒に帰ろうね」
「コンビニ寄ってチョコレート買ってってやるよ。何がいい?」
「あっほんと!? じゃあね、中が苺になってるやつ」
「りょーかい」
ナツくんと今日のおやつの話をしながら、学校の正門をくぐる。
マンションから学校までは徒歩5分。
その距離にある学校なのに、周りには女の子がいっぱい。
それに男の子までなぜかむらがって、渋滞を起こしているように思える。
正門をくぐると、歓声と人だかりでいつも圧倒されてしまう。
私たちは妹だってみんな知ってるから、そんなに怒らずに迎えてくれるけど、きっと彼女なんて言ったら終わりだろうな。
親衛隊だか、ファンクラブに焼き殺されちゃうかもしれない。
だから春香とお兄ちゃんが付き合ってるのも、内緒。
お兄ちゃんが言いだしたんだけど、本当にそうして正解かもしれない。
春香を危ない目に遭わせたくないっていうお兄ちゃんの愛なのかもしれない。
お兄ちゃんたちと靴箱で別れて、春香と教室に向かう。
「春香。今日巧来るんだって!」
「ああ、さっき涼ちんから聞いた。それでそんなにウキウキしてんだね」
「え? 私ウキウキしてるかな? 巧に今日会えるかなぁ。会いたいなぁ」
「会えるんじゃない? どうせお昼休みに食堂にいるよ」
「うん! 春香今日は一緒にお昼食堂行こうね」
「もう私たち2人ともお弁当なのに食堂行く意味全くないのに。でも、詩織が可愛いから行ってあげる」
「ほんと!? ありがとう! 春香大好きー」
春香と同じクラスの1-Aの教室に入る。
これも巧のパパが融通してくれたみたいで、春香とは3年間同じクラスに内緒でしてくれるみたい。
ブラックの3人も3年間同じクラスだし、みんなには怪しいと思われていると思うけど。
1時間目の現代文が終わって、2時間目の休み時間に、次の数学の宿題のプリントを手にとって眺めていた。
答えが合っているかもう一度再確認。
春香は違う友達と話しているし、机に座って一人でプリントに集中していた。
今日当たるもんなぁ……。
一つの事に没頭していると、他の事が遮断されてしまう私は、教室で起こっているざわめきに気付けなかった。
「しお、おはよ」
その言葉と同時に、ふわっと後ろから香ってきた甘い香りに、泣きそうになった。
一瞬で巧だと分かる自分が悔しい。
後ろから伸びてきた手が視界に入った瞬間、息が止まった。
そのまま数学のプリントを手に取った巧は、チラッとプリントを見て、私の机に置いた。
なんで、巧が1年の教室にいるの?
こんな事初めてで、それが嬉しくて、どうしようもない。
私の背中に覆いかぶさるようにして、手を伸ばしている巧が触れる後ろの方が熱い。
「巧……。何しに来たの?」
「んーお前に会いに」
巧のばか。
涙がじわっと浮かんで、必死にまばたきをしてごまかす。
そんなわけないのに。
平気でそんな嘘をつく巧が、愛しくて、憎らしくて、どうしよう。
でも、やっぱり本当は隠しきれないくらい、嬉しい。
「……ほんとは何しに来たの?」
「ん? マルゴに今日行けないから伝えとこうと思って。でも、しおを見に来たのが一番の理由だよ」
きっとマルゴに行けない事を伝えようとしてきてくれたに違いない。
でも、携帯を持っているのに、メールでも伝えられるような内容なのに、教室まで来てくれるのは、本当に私に会いに来たと勘違いしてしまいそうになる。
でもそんなわけないの。
勘違いしたらだめ。
いつも、昔からずっとこんな事を繰り返してきたんだから。
「どした? 黙りこくってたら、ちゅーすんぞ」
「あっ……えと、今日は来ないんだね。分かった。明日は待ってるね」
「ははっ、明日は行けるよ。しおに会いに行くよ」
私のキャラメル色の頭をくしゃっと撫でると、後ろからいなくなってしまった。
背中の体温は無くなってしまったのに、まだまだそこの火照りは消えそうになくて。
パッと振り返ると、キャラメル色の髪をキラキラ輝かせて、教室の出口に歩いて行く巧。
後姿しか見る事ができなかった。
巧の顔は見る事ができなかったけど、それでよかった。
きっと顔を合わせたら、顔が真っ赤になっているのがバレてしまうから。
女の子たちがむらがるように、巧の後を追っている。
教室まで来たのは初めてだし、私と2人で喋っているのも初めて見ただろう生徒たちは、睨むように私を見ている。
ああ、きっとこれはいじめられるな。
中学からブラック3人のせいで、色んな嫌がらせを受けてきたから、容易に想像がつく。
春香がにこっとこっちを見ていて、それに向かってにんまり微笑む。
春香は私が今すごく幸せなことに気付いているんだろう。
巧を見ると、ついてきた女の子と快く会話をしている。
「巧さん今度遊んでくださいよ~銀竜に遊びに行っていいですか?」
「私みかです! 覚えてください。また話しかけますっ」
色んな女の子が口々に巧を口説こうと、声をかけている。
「銀竜は危ないから来ちゃダメだよ。君が怪我しちゃったら俺悲しいし。みかちゃんね。ほっぺが赤くて可愛いから、もう忘れないよ。じゃあみんなまた会おうね」
そう言って、巧は優雅に歩いて教室から消えた。
さっき話しかけていた女の子たちは、立ち止まって隣にいた友達たちにきゃー! と叫んで飛びついている。
一種のお祭り騒ぎとなった教室は、少しの間私の存在を無視してくれた。
また泣きたい気分になった、さっきとは違う意味で。
こんな状況は今までに数えられないくらいあった。
もう何百回も見てきただろうあの光景に、いつだって慣れそうもない。
巧の視界に女の子が写るだけでも嫌なのに、挨拶のように簡単に甘い言葉が口から零れる巧を思いっきりひっぱたきたくなる。
もちろん、私の彼氏じゃないんだし、巧が何を言おうが自由なんだけど。
あれが巧の女の子のかわし方なのかもしれないけど、実際に遊んでいるのも知っている。
それを見て私が辛い思いを何度もしているのを、お兄ちゃんたちは知っている。
巧を除いて、みんな知っていること。
だから、お兄ちゃんは巧の事を反対するの。
嘘つきで女たらしの男に、妹はやれないって口癖のように言うの。
私だけに優しいナツくんが、好きだって言ってくれる。
分かってる。
分かってるけど、それでも好きなのをやめられないんだから。
どうしようもない。
巧は私が好きだって言ったら何て言うだろうか。
きっと、困る顔さえ見せずに、俺も好きだよって言って頭を撫でてくれるんだろう。
子供のように扱われるんだろう。
いっそのこと困ってくれたらいいのに。
私は巧を動揺させることさえできない。
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