第2章〜宣伝的人間の研究〜⑤
10月10日(金)
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光石さん 会長選立候補へ
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吹奏楽部所属
坂木原現会長が後継者に指名
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僕(と放送・新聞部)は、一ヶ月以上前に本人から、生徒会選挙に立候補するという情報を得ていたので、彼女が出馬宣言する当日の朝に、一宮新聞は、大見出しの記事を校内掲示板に貼り出した(もちろん、本人の許可は得ている)。
「やっぱり、光石さんは生徒会選挙に出るのか〜。ウチのクラスのクラス委員もしてるし、いまの生徒会長と同じ吹奏楽部だもんな〜。彼女が、今年の会長選挙の最有力の候補なんだろ?」
教室に入ると、そんな風に塩谷が声をかけてきた。
「公正な報道を義務付けられている放送・新聞部の立場からは、誰が有力とかは言えないんだ。ゴメンね」
微苦笑を浮かべながら、そう答えると、クラスメートは、
「本人の発表前に記事にしてるのに、なにが『公正な報道』だよ?」
と、笑いながら僕の肩を軽く小突いた。
その日の放課後、放送室では、
一宮高校の生徒会選挙では、立候補者が自身の公約や生徒会運営に関する見解を述べる動画を収録できることになっている。
収録された内容は、選挙期間となる公示日から投票日前日まで、YourTubeの『一宮高校放送・新聞部公式チャンネル』で、いつでも視聴することができるため、スマホで動画の視聴が手軽に行えるようになってからは、この放送にチカラを入れる候補者も多い。
放送室の収録ブースで、真っ直ぐにカメラを見据えたクラスメートは、ハキハキとした口調で、
「ぜひ、あなたの声を一緒に生徒会に届けましょう。自治生徒会会長選挙候補者の
と、最後の言葉を発して、政見放送を締めくくった。
「はい、オッケーで〜す!」
撮影係のトシオが、すぐに記録された映像を確認して、問題がないことを告げる。
「お疲れさま。なかなか良かったんじゃない?」
自分の後継者として指名した後輩のようすを確認に来た、現生徒会長の
「ありがとうございます。先輩の後を継ぐことができるよう、がんばります!」
「そうね……選挙戦は、来週からが本番だから、シッカリね」
後継者に指名した後輩女子の返答を受けて微笑む
「コト、がんばって行こうね! 私たちもサポートするから!」
生徒会長と同じく、政見放送の収録のようすを見学しに来ている吹奏楽部のメンバーが、光石に声をかけると、彼女は、「うん! 来週から、よろしくね」と笑顔で答えている。
そんな中、普段はそれほど彼女と親しく会話をしていない女子生徒が、「光石さん、ちょっとイイかな?」と、語りかけた。
「どうしたの、
光石琴に声をかけたのは、僕らと同じクラスの
「いや、お話しの内容は素敵だったと思うよ。
彼女は、動画でも学校生活でも、一人称にボクを使っているんだけど……そうした、ことは置いておいて、
「スゴイ! michiさんが、協力してくれるなら、SNSの発信もスゴイことになりそう!」
放送・新聞部所属なのに、スゴイを連呼して、
「
光石が声をかけると、放送室の片隅にたたずんでいた1年生が、彼女のもとに寄ってくる。
「文芸部1年の天野友梨です。去年、ウチの妹が小学校からの帰りに、光石さんに助けてもらったことがあって……それで、自分も光石さんのお役に立てないか、と思って、SNSの担当に立候補させてもらいました。でも、有名なmichiさんが担当してくれるのであれば、私は――――――」
そう言って、自分の役割を辞退しようとする言葉を口にしかけた下級生を立候補者が制した。
「ううん……天野さん、私はあなたにSNSの担当をしてもらいたいと思っているの。一緒にがんばってくれる?」
「あ、ありがとうございます! 精一杯がんばります」
言いながら、何度も頭を下げる天野さん。そのようすを眺めつつ、申し訳なさそうな表情で、光石は、礼儀正しく、気を配りながら、
「今回は、天野さんと一緒に進めようと思うから……せっかく、申し出てくれたのに、ゴメンナサイ、
と、カリスマ的人気を誇る同級生の申し出をやんわりと断る。
「そうか……残念だけど、なにか、ボクにできることがあれば、遠慮せずに言ってね」
と返答するmichiの表情は、少し寂し気だった。
一方、見知らぬ1年生の女子生徒が、あのとき、一緒に助けた女の子の姉だった、という事実は、光石琴が生徒会長に当選したとき、良いエピソードの1つになりそうだ……と僕は考えていた。
対するミコちゃんは、
「michiさんにも協力してもらえばイイのに……」
と、やや不満げだ。
ただ、そんな後輩女子の言葉が的中することになるとは、このときの僕には思いもよらなかった。
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