第2章〜宣伝的人間の研究〜④

 10月1日(水)


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 男バス部長に罷免勧告

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 クラブ連盟から異例の通知

 男子バスケ部は建て直し急務

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 僕らが、二宮高校の選挙情勢について語り合った翌日、約十日ぶりに行われる予定だった十条委員会を前に、驚くべき、クラブ連盟の会合で決議案が採択された。


 本来の予定では、10月1日の十条委員会で、部長の石塚いしづかと元副部長であった荏原えばらの2名に、バスケ部の凱旋パレードや部内イジメについて尋問が行われる予定だったんだけど……。

 十条委員会に出席する新しい証人が見込めないということで、今後、尋問される人物の証言内容に、変化はみられないだろう……ということから、クラブ連盟として、これ以上、問題を長引かせないために、男子バスケットボール部の部長である石塚雲照に部長職から退くことを求めたのだ。

 

 クラブ連盟は、自治生徒会規則第17条8項において、連盟に所属する代表メンバーの3分の2以上が出席する本会議において、4分の3以上が賛成すれば、問題のあるクラブの代表者に、その職務を退くように勧告することができるようになっている。

 9月最後の日に行われたクラブ連盟の会議において、「男子バスケットボール部・部長の不信任決議」が採択され、三十名の出席メンバーによる全会一致で、議案は採決された。


『決議 第3号』と記されたクラブ連盟から発表された決議案は、以下のものだ。


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 石塚雲照バスケットボール部部長の不信任決議


 これまでの告発文書問題調査特別委員会(十条委員会)の調査の中で、告発文書の内容に真実が存在し、文書が「嘘八百」のものでなく、告発者への対応が告発者探しや情報漏洩の疑いを指摘されるなど不適切と言わざるを得ないなことが明らかになったにもかかわらず、バスケットボール部部長は、「事実無根」「快く思っていない部員を貶めるニセの告発をするという卑劣な行為」として部の対応は、適切なものだったとしているが、生徒会顧問を担当する教諭からは、公益通報者保護の観点から「バスケ部は無法状態」と断じられている。現時点で詳細な要因はわかっていないが、元部員が自主退学におよんだ事実は大変重く、責任は大きい。


 さらに、告発文書への初動やその後において、対応が不適切、不十分であったことにより、校内の信頼を損ない、部員を動揺させ、クラブ連盟や自治生徒会を巻き込み、校内のクラブ運営に深刻な停滞と混乱をもたらしたことに対する責任は免れない。男子バスケットボール部や本校の誇りを失墜させてしまったいま、部員および全校生徒からの信頼回復はとうてい見込めず、石塚体制が、男子バスケットボール部の再建という難題に応えるのは困難な状況である。


 ここまで述べたとおり、石塚部長の責任は重大である。これ以上のクラブ活動の停滞と混乱、損失は許されるものではなく、男子バスケットボール部部員が安心して活動できる場を一日も早く取り戻し、今後の活動は新たに部員の信任を得た部長の下で行われるべきものである。


 よって、本クラブ連盟は、石塚雲照バスケットボール部部長を信任しない。


 以上、決議する。

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 このクラブの代表者の不信任決議の採決がおこなわれたことも、一宮いちのみや高校はじまって以来、初めてのことなのだが、もっと異様なことが、放送・新聞部の取材中に明らかになった。

 なんと、クラブ連盟の出席メンバーに確認すると、石塚部長の罷免を提案をしたのは、男子バスケ部の部員である古室正行こむろまさゆきだったという。


 部員として、石塚部長のこれ以上の横暴に耐えられなくなったのか、あるいは、問題視され続けている男子バスケットボール部の一員としての責任感なのか、それとも、他になにか考えがあってのことなのか……。

 古室の真意を探るべく、直接、取材をしようとしたんだけど、なかば予想どおりというか、クラブ連盟の会議が行われたあとから、彼は登校しなくなってしまった。


 一方、罷免勧告が採決されたということで、石塚部長は、自ら部長の役職を辞するか、30日後に自動的に部長の役職を失職することになる。


 これで、石塚雲照いしづかうんしょうは、いよいよ進退が極まったという感じになったけど、同時に、告発文書への対応の問題、凱旋パレードの資金の出所、部内イジメの問題、業者からの物品の受け取りなど数々の問題は、うやむやになってしまう可能性がある。


 これらの問題の結論が出るまで、十条委員会は継続して開催されるということだが、他校に続いて、僕らの一宮高校も、生徒会選挙の準備に入る時期に差し掛かっていた。


「バスケ部問題の結論は、生徒会選挙が終わるまで持ち越しだな〜。ウインターカップの出場は、どうなるんだ?」


 体育会系のクラブの活躍を楽しみにしているトシオが、心配そうにつぶやいた。

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