第13話 呪われた龍
なんとか二人をベンチに座らせて、龍さんから事情を聞き出した。
侍女さん。そんな離れたところでずっと待たせててごめんね。一緒にベンチに座る? って目で聞いたら、ご遠慮しますって黙って笑顔で返された。
ほら、侍女さんとは言葉がなくてもこんなにやり取りできるぞ。相互不理解な君達は見習いなさい。
とはいえ、言葉が通じないのは仕方がないので、間に入って通訳しながら、少しずつ龍さんの話を聞いた。
彼は”龍”という、この世界の最上級の存在だが、魂が欠損しているらしい。その不完全さのために、ジワジワと苦しみが続き、それが許容量を超えると、気が狂って世界を滅ぼしてしまうという。
いくら世界最強種族ったって、1個体で世界を滅ぼせちゃうのはどうなの? ってこの世界の神様に問いただしたい気はする。てか、むしろ世界を救うためなら、直接、彼の苦境を救ってやれ、って思う。バグ修正はシステム管理者の仕事だろう。
しかし、神様には神様の事情や都合があるので、そこはツッコんじゃだめなところらしい。
というか、リナちゃん、最初にスカウトされたときに聞いてみたのね。自分なんかが行かなくても、神様の奇跡で解決できないのかって。そりゃそうか。
結局、神様はできないからリナちゃんやってとなったそうだ。偉い人は下請けに仕事振るのが世の常だから仕方がない。
とにかく龍さんにはタイムリミットがあって、しかもアホほど強いから、狂っちゃうと通常手段では対抗できない。ここまでは確定。
それでその解決策が、リナちゃん曰く、この世界と異界の男女が心を一つにして、愛のパワーで浄化する……という手段らしい。
「なんでそれで浄化できるの?」
「龍の魂は、この世界と異界の2つの世界に由来するのだ。だからこそ世界自体を揺るがすほどの力を持ち得るのだが、我が魂は欠損していて調和を欠いている。この不均衡を正すには、2つの世界に由来する調和した生命の力が必要なのだと思う」
ちなみに龍さん自身は、異界の者と結ばれれば、呪いが解けるか、少なくとも苦痛からは解放されると、占い師に教えられていたそうだ。
なるほど、本人がこっちの世界の男だから、異界の女の子と愛し合えば、2つの世界の男女に由来する愛のパワーが自力で調達できるのか。本当?
苦痛から解放されるって、死んで楽になるの意味じゃないよな。
「呪いによる痛みって相当つらい?」
「魂が欠けている喪失感と、足りないものを求める飢餓感に常に苛まれていて、日に日にそれが強くなっていく。正直、身体が傷ついた痛みよりも辛い。今は、異界の言葉を聞いて随分と癒やされているが……」
魂が異界のものを求めるというのはこういうことなのだなと実感したと、静かに答える龍さんの顔はとても穏やかだ。しかし、そういえばずっと握られたままの手は、最初は少し震えていた。
これ、丈夫で我慢強い人にありがちな、耐えられたからまだ平気だと思ってたけど、実は洒落にならない重症って奴なのでは?
「話しかけるだけでいいなら、自分でもできるけど」
龍さんは微笑んだ。
これはノーサンキューってことかな。
ヒロインの代わりができるとは流石に思っていないから、そりゃそうだよねって思うけど。自分にできることで、龍さんもリナちゃんも助かるなら、それにこしたことはないから。
……でも、龍さん的にはやっぱ、ないかぁ。
「ならばそなたが我が妻になってくれるか」
「はい???」
龍さんは重ねたままだった手を、ヒシと両手で握って、こちらに身を乗り出した。
近い、近い! 近いよ?!
隣でベンチから転がり落ちたリナちゃんが、慌てて起き上がって、しがみついて来て、龍さんから私を引き離そうとした。
「ダメです! トクムさんはあげません」
おう。オヤツの分配で使用頻度の高かった文だ。発音がいい。
でも、攻撃的に光るのは止してあげて。龍さんがなんか火傷したみたいに苦しそうに顔を背けたよ。
「待って、リナちゃん! 龍さん、大丈夫?」
やっぱり、リナちゃんのその光る力は、龍さんを殲滅する方の力っぽい。
なになに? 拒絶する意志が鋭い刃のように突き刺さってくる感じがする? 魂の力は、相手への感情が強く反映されるから、嫌悪感が痛い?
それは厳しい。
「龍さんは悪い人じゃなくて、先天性の障害……えーと生まれつきの病気で苦しんでいる人だから、酷いことしちゃダメだってば」
龍さんを背中に庇いながら、リナちゃんをなだめる。どうどう。落ち着け。
『でも、そいつがフザケたことを!』
「龍さん、なんで私? 私は異界生まれじゃないよ」
「でもなぜかは分からぬが、そなたに触れていると心地よい。乾きが満たされる思いだ」
あ、ちょっと。龍さん?
後ろから抱きついて、耳元で「あぁ、癒やされる」とか言うのやめて。リナちゃんの目が怖いよ。
なんだかすっぽり抱き込まれて、後頭部に頬を擦り寄せられていると、体から力が抜けていく。
うわぁ~、何、この感覚。ゾワゾワする。
ゾワゾワするけど、不快じゃない?
そっか。龍さんを癒やすために必要な、”2つの世界に由来する調和した生命の力”って、転生者である自分も条件満たしちゃってるのか。そりゃもうすっかり違和感なく融合しちゃってるもんな。あっちの僕とこっちの私。
異なる世界の
へー。女の身体に男の心っていう状態が役に立つこともあったわけだ。
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