第14話 アイとウエは区別しろ
女の身体で男の心って、色々、難儀になりがちなハズだけど、親も周囲の人達もめっちゃ理解があったから、特に困難もなく育った。
ちなみに働きやすいから男物の服を着ているが男装の麗人と言われたことはない。
男装の麗人というのは、元が麗しい女性だとなるのであって、自分のような父親似の地味顔が男装すると、普通に違和感なく男に見えるんだよね。
地元ではともかく、王城では自分は男だと思われていたんじゃないかな。
というわけで、男とも女ともさっぱり恋愛する機会がなく、ハグなんて子供の頃から全然されたことも、させたこともなかったんだけど。
さっきから龍さんの抱擁がハンパない。なんかガッツリ抱き込まれて、密着されている。
こ、これは……なんというか……。
目の前でリナちゃんが顔を真っ赤にしている。それを見たら急に自分も顔と耳が熱くなった。ぐわっ。恥ずかし!
今、自分、どんな顔してた?
「そなたの愛で我が心を満たしてくれ」
龍さーん。耳に直接口付けて重低音でささやくのやめてーっ!
ああ、くそっ。今まで性癖的には侍女さんみたいな女性が好みだと思って、将来的に男と結婚する必要があることについては、問題を棚上げしていたんだけど。……やばい。なんかこっちの世界側の女性な私が反応してる? それともあっちの世界の僕が新しい扉開いちゃった?
ああ、もうわかんない。あっちもこっちもなくて自分は1つだから。
見上げると、至近距離で龍さんがトロンとした金色の目でこちらを見つめていた。それはもう気持ちよさそうに。
たしか魂の力は、相手への感情が強く反映されるんでしたよね。ええ。わかりますよ。こんちくしょう。
ろくに知らない初対面の男にべったり抱きつかれているってのに、ミリも嫌悪感ないですよ。
むしろ、欠損しているっていうそっちの魂にめっちゃ心惹かれて、吸い寄せられている気がするほどですよ。
しかも、奥底で繋がっちゃった感じが、じわじわ気持ちいいんですよ。さっきから! やっばーっ。
でも、これだけは言わしてもらおう。
「アホタレ〜っ! 順番が違うだろ!! まずはそっちがこっちを愛する気があるのかどうかはっきりしてから、妻だの愛してくれだの言えーっ。単に呪い解除が目的なら、そんな惚れた女を相手にするみたいな紛らわしいマネすんな~」
ちょっと涙目になっちゃったのは大目に見て欲しい。都合のいい充電器になってあげても構わないんだけどね。そこははっきりしておいてくれないと、勝手に一人で勘違いして盛り上がって、小っ恥ずかしいことになりそうで怖い。
『トクムさん、真っ赤。カワイイ』
やめて、リナちゃん。カワイイとか言わないでー。こちとら数えで17、来年前厄やぞ。日本ならまだしも、こっちではとっくに成人した大人なんだから。
わたわたしている私を抱きかかえ直し、龍さんは正面からうっとりとこちらを見つめながら、引き寄せた私の手の甲に口付けを落とした。
「生涯、愛すると誓おう。もはや、そなたなしでは生きられない」
早い。重い。生涯ってどれだけだ。
「……龍の寿命ってどれだけ?」
「ない。愛する人が死んだときが我が寿命が尽きるときだ」
「重いわーっ!! それならそれで、相手はもっと慎重に決めろぉっ!」
「心のすべてがそなたを欲しているのに」
「それはただの飢餓感。食欲とかと同じで、単に足りていなかったものを補給できる相手を、愛していると誤認しているだけ」
「拒まないでくれ。そなたの魂はこんなにも我に優しいのに」
手に頬擦りするなー。
おや、ひょっとしてちょっと肌に鱗みがある?もう夜なのにヒゲが伸びてなくて、代わりになんだか人じゃない肌触りがするよ。
……うっ。なんだかもう一枚、知らなかった性癖の扉が見えたぞ。そんなことある?
いやいや今は、それどころじゃないな。
「拒まない。拒まないから、もうちょっと慎重に考えてくれ。例えば、龍さんの魂の欠けたところが治ってから、まともな状態で、もう一度良く考え直してみるとか。もちろん。欠けたところを治すのに協力は惜しまない」
「そうか。ならば、存分にそなたを愛でさせてもらおう」
あれ? なんかアカン言質取られた?
龍さんは、がばりと真正面から抱きついてきた。ふおっ。胸筋に顔が埋まって、息ができない。
後ろからリナちゃんが怒る声がする。
でも、もうツッコむ元気がない。流石にギブアップだ。色々起こりすぎて刺激が強すぎた。
龍さんのこれは、疲れたサラリーマンが猫を吸うみたいなものなのだろうか。吸われる側の猫ってそれなりに大変なんだなぁ。飼うなら三食昼寝付きでお願いします。
ボンヤリしてきた頭と、力の抜けた体を、がっしり支えてくれている相手に丸投げする。いいのかな? まあいいや。
すみません。いったんオチまーす。
起きたら、夢オチだったとか、ないかな……と思ってみたけど、そんなことはなかった。
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