第27話 謎の鍵を取り付ける

「坂口、お前はバラエティー番組の見過ぎだ」

 面倒くさいことが始まったぞ。翔太は頭をかく。米田は一心不乱にナンを食べている。お気楽だ。翔太はお苦楽だ。

「ガサ入れってお前、警察にでもなるのか」

「なれるならなってみたいですね。警視総監がいいです」

「そうじゃなくて。一体、どこをガサ入れるんだ」

 ガサ入れ、とは動詞になりえる単語なのかどうか翔太にはわからないが、そんなことより坂口の行動が心配である。手綱をしっかり握っておかなければ。何をしでかすかわからない。

「浦田さんのペットショップ」

 案の定、坂口はそう言った。どうしてもあの好青年が気になるらしい。どこがお気に召さないのか翔太にはわからない。そもそも、坂口は浦田のことを嫌っているわけではなく、謎やら事件やらを作り出したいだけに思える。翔太にはそう見える。坂口は度が過ぎていると思った。

 カレーのルーを息で冷ましてナンを口に入れる。これが結構うまい。坂口がこのうまさで浦田のことを忘れればいいのに。もちろん、インドカレーにそんな効力はないのを翔太は知っている。

「あの檻は絶対犬さんを監禁するためのものですよ」

「犬なんぞ監禁しても仕方がないだろう」

「今、犬なんぞって言いましたね!ひどい!人間の心を置いてきたんですか!」

「どこに置く場所があるんだよ」

 米田は黙々とカレーを味わい続ける。翔太は坂口を睨む。こういうのは牽制が大切なのだと坂口と接してわかった。しばらくその時間は続いた。膠着状態。坂口はいつもの瞳とまなざし。

「……まあ、仕事はしますよ」

 翔太の勝利だ。カレーはうまい具合に冷めてきた。勝利の味はおいしい。カレーのスパイシーさを存分に味わった。

 さて、店に戻って仕事である。浦田から預かった檻を眺めてみる。犬を入れるにしては細かい網目状になっていて、これでは子犬が見えない。第一、大型犬であったら入りそうにない。

 いつも坂口は正しい。コーヒーか紅茶か選ぶ時も正しいし、人生の道は外れているように思えるが、本人がこの世界を楽しんでいるので坂口視点では正しいのだと思う。クイズ番組も見ているといつも正解を選ぶ。だが、浦田についてはどうだろうか。翔太はわからなくなってきた。ただ、浦田の方を信じたいと思った。どうも、坂口を信用しきれない。あのぎょろっとした目玉がどうにも恐ろしさを掻き立てるのだ。

 だが、翔太は坂口のことを嫌いになれない。

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