第23話 謎の鍵を取り付ける
「そういえば、謎が一つできた」
坂口がいつものようにずれた眼鏡を直しながら近づいてくる。その目は夏であるというのにクリスマスプレゼントを見つけた子供のようで、きらきら、そして爛々としていた。
「なんですかその謎とは早く教えてくださいよねえ翔太さんってば聞いていますか」
「早い、うるさい。謎って言ってもたいしたことないぞ。ただ……」
「ただ?お化けでも見ましたか。僕の足に足のない女がくっついているとか」
「お化けというか、お前が歩く時に音がしないのが気になってしょうがない。いるのかいないのか、時々心配になるんだよな」
片足をぶらぶらさせながら坂口は笑う。このへたくそな笑いにも慣れてきた。米田はスマートフォンに夢中だ。なぜだか知らないが鶏の鳴き声がスマートフォンから流れた。
「僕、昔から忍びの者になりたかったんですよ。いや、なりたかったでござる」
「なんだよそれは」
「側溝を踏まない遊びで己を鍛えたり、音を立てないことで防音になるか試してみたり、ですよ」
坂口は翔太に音を立てずに歩く方法を教えた。聞いてもいないのに。翔太の頭に余計な記憶が増えてしまった。頭のメモリの容量が圧迫されている。早く容量をあけてください、と脳内で通知音が鳴る。米田がメモアプリの使い方を聞いてきたところでこの話題は流れた。米田に説明していると、自動ドアが開いた。
「あのう。電話した浦田といいますが」
客であった。翔太はすぐに笑顔を作る。商売人の顔だ。坂口も指で口角をあげた。ふざけてなどいない。彼なりのカスタマーファーストである。
「浦田さん、ですね。ご来店ありがとうございます」
「車で持って来たんだけど、錠前をつけてほしいものがありまして」
平和な日常。やりがいがあるのかないのか微妙な仕事。翔太は機嫌がいい。すぐに浦田の車までついていった。
そこにあったのは、おびただしい数の小さな檻だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます