第20話 金庫の鍵を探した

 さて、ここは病室。清潔感のある個室。一人の老人が写真を眺めていた。彼女はつい最近までたくさんの人に囲まれた素晴らしい日々を送っていた。しかし今の彼女は孤独で、腐った日々を送っている。退屈に老人はあくびをした。看護師がやってくる。「石井さん、面会です」

 少女が大きなリュックサックを背負って入ってきた。老人が愛するその顔は晴れやかだ。二人の男も入ってきた。

「おばあちゃん、調子はどうかな」

「ああ、萌音ちゃん。そのお二人さんはどなた」

 萌音は二人をじいっと見て、床を見て、そして照れ臭そうにはにかんだ。萌音の祖母が不思議に思っていると、萌音は答えた。

「お友達」

「怪しい人じゃないの」

「怪しくないよ。鍵屋さんだよ」

 鍵屋?不信感は募るばかり。すると、萌音が何かを取り出した。萌音の祖母は目を見開いた。知っている。私はこれを、あの子を、知っている。

 萌音が取り出したのは市松人形だった。祖母がつぶやく。お松ちゃん。「大事なものでしょ」萌音はすべてわかっている、という顔をして見せた。

「その子は、私の幼い頃のお友達。名前は、お松ちゃん。なんでそれがここにあるの」

「開かずの金庫あったでしょ。あれ、開けてもらったの」

 祖母は歳のせいで喋りにくい口を動かす。そんなことが、できるなんて。坂口がにやりとしている。してやったり、という表情だ。翔太は坂口の頭をはたいた。ぺちん。

「鍵を探してもらったの。これで開閉自由、ってね!」

「俺たちの独断です。すみません、勝手に」

 視界がうるんでゆがむのを祖母は体験した。ああ、久しぶりの涙だ。その涙は懐古によってできた、とても澄んだ涙だった。

「昔ね、おばあちゃんのおばあちゃんに言われたの。大切なものを、あの金庫にしまおうって」

 泣きながら微笑む顔を見て、萌音も瞳からしずくを流した。やったことは、まちがっていない。どうして萌音ちゃんが泣くのよ。その言葉に、萌音はわんわん泣き出してしまった。

「おばあちゃん、私ね。好きな人できちゃった」

 萌音が二人を見る。涙を拭いて、いたずらっぽくはにかんだ。こぶしを握って、勇気を出して。

「アピールしますから、覚悟しててくださいね」

 翔太は驚いた。萌音はピアスの似合いそうな男が好みなんだな。坂口を肘でつっつく。坂口は不可思議な、何とも言えない顔をした。色男はそんな姿も様になるんだろうな、こいつ顔は及第点だからな。翔太は若い二人の未来に思いをはせる。希望に満ち溢れているじゃないか。心の躍動は、帰ってからも続いた。

 二人がいなくなった病室で、祖母と孫二人きり。手をそっと握るだけでいい。

「あの金庫、今度は萌音ちゃんが使ってくれるかしら」

「うん、いいよ」

「大切なものを入れるのよ」

 あの頃の祖母と自分を重ね合わせているようだった。次は、萌音の番だ。

「ところで、好きな人のお名前はなんというの」

 萌音は笑顔で答える。

「あのね、翔太さんっていうの」

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