第19話 金庫の鍵を探す
「見つけた……?何をですか?」
萌音がきょとんとした。坂口は黒い瞳をぱちくりさせている。翔太だけがたどり着いた正解は、祖父のおかげだ。自分だけが真実に気が付いているこの状況。空気がおいしく感じる。さて、解決編へと移ろう。
「萌音ちゃん、枝豆持ってきて」
「え?さっきのですか」
ぱたぱたと駆け出す萌音を見送りながら、翔太は記憶の中にある祖父を思い浮かべる。そこに坂口が嬉々として声をかける。「解答の準備はいいですか」翔太は答える。「満点に違いないよ、これは」
そして萌音が十分ほど経った頃に、ほこりまみれになって例の枝豆を持ってきた。これが翔太の見つけた答えだ。
「一見鍵ではないものが鍵だったりする。そんな鍵が存在するんだ。魚の形とかね」
「そうなんですか!じゃあ、これも……」
「江戸時代の鍵は、松葉形のばねがひっかかって施錠の状態にする仕掛けだからね。穴に入れさえすれば大体いけるってわけだよ」
「うーんと……。難しいですね。よくわからないや」
「とにもかくにも、この枝豆さんが事件を紐解く鍵だというわけです」
開錠不可能、おばあちゃんの金庫事件。そんな安直な名前を坂口はつける。そして、得意げに翔太を見た。その腹が立つ視線を翔太は無視する。反応してはいけない。うまいことを言うな、とかフォローしてくれてありがとう、とかも飲み込め。ありったけ空気を吸い込んで、言葉と一緒に飲み込んだ。
「物知りなんですね」
萌音が尊敬の目で翔太を見ている。翔太は子供の頃の記憶を引っ張り出しながら言う。
「じいちゃんのおかげなんだよ」
「おじいちゃんの?」
「昔教えてもらってさ」
恥ずかしさから頭をかく。萌音をうまく見られなかった。すごいなあ。すごいなあ!萌音はずいぶんとご機嫌だ。
「さあ、開けてみよう」
「は、はい!」
金庫への足取りが全員軽い。爽やかだった。空の暗さなど意に介さない。金庫の前に座り込む。誰が開けるか少しもめて、翔太が開錠することになった。
「ここで失敗!とか、ないですよね」
「ないと思うけどなあ」
「あったら僕がなんとかします」
「お前にゃ無理だ」
緊張、好奇心、高揚感。鍵が刺さる。回す。がちゃん。音がした。やっと開いたのだ!萌音の気持ちを背負って。口角が勝手に上がる。そこで、背中をつつかれた。坂口だ。
「ご存じですか翔太さん」
これは駄目な坂口だ。逃げなければ。どこへ?翔太は冷や汗をかく。
「金庫の中に、呪いの人形が入っていたら、今すぐに逃げ出すべきです」
そんなの怖くない。怖くない。そのはずだ。翔太は扉を開いた。
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