第13話 金庫の鍵を探す

 女子学生は制服を着ているが、どこの学校かまでは翔太には判別できなかった。坂口に聞いてみたが、坂口は首を横に振った。なぜか自然と坂口ならなんでも知っていると翔太は思い込んでいたようだ。恥ずかしさのような感情が胸を打つ。ごめん、どうかしてた。そう坂口に謝った。坂口は唇を噛んで悔しそうにしている。そこで背後から声がした。驚いて翔太は飛び上がる。米田だった。どうも、近所の高校生らしい。

 女子学生が決意を秘めた顔でこちらに向かってくる。米田が言う。「菓子はいるやろうか、翔太」指名された翔太を遮って坂口が言う。「そりゃあ必要でしょう」

翔太は二人に聞こえるように息を吐く。湿気で重たい空気にそれは溶けていった。今どきの学生など翔太とは無縁だと思っていた。女子高生の対応も、マニュアルが欲しいところだ。そんな翔太をよそに、二人はいそいそと準備を始めた。

女子高生は自動ドアの前で一礼してから入店してきた。緊張しているらしく、顔がこわばっていた。高校生が鍵屋に何の用なのだろう。翔太は考えた。家から閉め出されてし

まったのだろうか。家の鍵が壊れた、という客が来るのはよくあることである。

「ようこそ。驚くべきことにここはコンビニではありませんよ。歴史が素敵な鍵屋さんです」

歴史が素敵、と坂口らしい言いぶりで褒められて悪い気はしなかったが、前半翔太への敬意の感じられないことを言ったものだから、罰として翔太はわき腹をつねってやった。贅肉が最近悩ましい翔太は、余分な肉のない坂口が純粋にうらやましく思った。女子高生に愛想よく翔太が笑いかけると、不器用に坂口も真似をした。

「あの、うちにある、おばあちゃんの金庫についてなんですけれど」

 慣れないのであろう大人相手に必死になって女子高生は言葉を紡ぐ。座るよう促すと素直に座った。清純で青春の雰囲気をまとう、非常に好感の持てる少女だ。米田がチョコレート菓子を持ってくる。坂口にも渡すのはいつものことだ。翔太は突っ込む気力もない。

「もしかしてだけど、開かないの。その、おばあちゃんの金庫ってやつ」

「そうなんです、さすが鍵屋さんって感じ」

 ふふ、と坂口が笑い声を漏らした。いつの間にか皆の目を盗んでずれている眼鏡を直す。

「餅は餅屋、鍵は鍵屋、ミルクティーならコンビニへ。本職に任せるのが一番です」

「コンビニに関しては本職じゃないだろ」

 そのやりとりに、女子高生が吹き出した。あはは、と面白おかしさに笑った。緊張は解けたようだ。だが、申し訳ないことに翔太としては帰ってもらいたい。もうじき帰るだろう。そう思っているから笑う余裕がある。一つ策があるのだ。

「金庫って、持ち出せるかな」

「いいえ、難しいです。大きいから」

 しめた。翔太は肩の荷を下ろした。

「となると、出張料がかかるね」

 ぴょこんと女子高生の肩が揺れる。鍵屋に依頼するということは、金がかかるということなのだ。仲村錠前店は良心的なお値段でやらせてもらっているが、ぼったくりと言われる店だってある。女子高生に出張料が払えるとは、翔太の知識から言うと到底思えなかった。

「だから申し訳ないけれど」

「金銭については大丈夫です!これでも私、お年玉とか貯めてて、その額なんと十万円超えてるんですよ」

 帰ってもらってもいいかな、という前に自信ありげに女子高生が言った。最近の女子高生はブルジョワらしい。翔太は自分の知識が信じられなくなった。

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