第7話 箱の鍵を開ける

 人が仲村錠前店の前に立ちすくんでいる。スマートフォン片手にきょろきょろあたりを見回しながら、困り眉で立ちすくんでいる。翔太は頭痛がした。頭がずきずきという痛みで体が訴える。気にしてはいけない。好奇心がどくどくという心臓の鼓動で体が訴える。気になる、気になる。翔太は自分に言い聞かせた。昨日痛いほど思い知ったではないか。店の前に立ちすくんでいる人間にろくなやつはいないと。しかし、鼓動は高鳴るばかりだ。どくどく、どくどく。ずり、と音がする。いつのまにかつま先が自動ドアの方を向いている。どくどく、どくどく。様子をうかがう。男の動きは、警察がいたら職務質問待ったなし、といった動きだ。不思議なスワイプの仕方だ。上下にスワイプして、ぐるぐると指を回す。そして、スマートフォンを振る。どくどく、どくん。怪しい奴じゃないか。どくどく、どくり。ついに重い口が動いた。

「……坂口くん」

「はい、精一杯頑張ります」

「違う、違う。視線に期待を込めるな。……お願いだから椅子に座ってじっとしていてくれ。頼むから何もするなよ」

 お人よしだな。翔太は自分にため息をついた。店から出て立ちすくんでいる挙動不審な男に声をかける。大丈夫ですか、となんとか絞り出した。男は温厚そうな、無害そうな顔をしていた。翔太と同年代の男はリュックのショルダーストラップをぎゅうと握っている。迷いが体から溢れている。何に迷っているのだろうか。人生だとか言われたら、翔太はもうお手上げだ。

「道にでも迷いましたか?」

「いえ、ええと。ここ、鍵屋さんで合っていますか」

 どうやら客のようだった。看板の仲村錠前店、という少し洒落っ気に欠けるロゴを指さして確認してきた。コンビニの影が濃い店に迷いが生じたのだな、と翔太は納得した。最初は通報を考えたが、そんな短絡的なことをしなくて本当によかったと自身の行動を自画自賛した。すぐさま気のいい店主の顔をする。手慣れた名俳優は優しげに店内に男を案内した。

「私、藤沢というのですが、ここは鍵を開けることはやっていますか」

 家に入れなくなったか、車が入れてくれなくなったか。大体の客はそんな困り事を抱えてくる。そんな困り事を、鍵を開けて解決するのが翔太の生業である。藤沢は何か下手なジェスチャーをしながらおどおどとしていた。

「坂口くん、お菓子好きだろ。米田さん、お願い」

 まだ見ぬ菓子に目を輝かせる坂口。その隙に藤沢を歴史を感じさせる椅子に案内する。

「鍵屋さんが金庫を開けるのをテレビで見たものですから、ここに来たんです。いやあ、あれは素晴らしい技術ですね」

「はは、そう言われると照れくさいですね。ところで、もしや金庫ですか」

 藤沢は首を横に振った。彼がリュックから取り出したのは小さな鍵付きの箱だった。木製で、どこか可愛らしさがある。

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