第4話 箱の鍵を開ける
「名前と仏頂面がのっていたのでわかったんです。仲村翔太さん。現在は三十二歳。ブログ開設当時は二十七歳。血液型はO型。趣味は……」
「ちょっと待ってくれ」
仏頂面、と言われて腹が立ったのも束の間、今度は恐怖を浴びせられた。あまりのことに翔太の中から言葉が姿を消した。坂口は答え合わせを求めることもなく。ただ淡々と翔太について言葉を並べていった。事実を並べるだけ。並べられたプロフィールは大正解、満点だった。翔太としては赤点を取ってもらった方が嬉しかった。
「なぜそこまで知っているんだ」
「言ったじゃないですか。ホームページやブログを見た、と」
坂口と対面していると地球にいるという感覚がしなくなる。ラムネを噛む音をさせた後、坂口は何をするわけでもなくただ翔太を見た。翔太はその目つきが気になった。坂口には人間を見下しているような節があるような気がした。坂口だけ違う生き物で、宙に浮いて翔太たち人間を見下ろしている、そんな気がした。
「たいていの人間はそこまで覚えちゃいない」
ああ、と坂口が表情を変えた。なんだか馬鹿にしているようだったが、本人にその意図がないことは周知の事実、絶対的なことである。馬鹿にされた、という気持ちとそんなことはない、という事実が同居する気持ち悪さがあった。
「僕、記憶力が少しだけ優れているんですよ。昔見た人形劇の内容から、悪趣味なバラエティまで。可愛らしい街のニュースから陰惨な事件まで。幅広く取り揃えております」
また坂口が菓子を取る。鷲掴み。気がつけば皿のパステルピンクの面積の方が菓子より多くなっていた。坂口という人間は口に菓子を含んでいる間は静かになるようだ。ただ口内から甘ったるいそれが消えるのが常人より格段に速いのでよく口が回る。翔太にとっては面倒なことだった。面倒ごとというのは、翔太が嫌うものの一つだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます