魔法を唱えるスマホの使い方

ちびまるフォイ

スマホの使い道

「君にこのスマホをあげよう」


「なんだこれは! 見たこと無いアプリが!!」


「魔法スマホ。ストアから魔法をインストールすると、

 スマホを通して君が魔法を使えるしろものだ」


「現代的なのかファンタジーなのかわからない!」


「これで世界の果てにいる魔王を倒してほしい」


「もちろんです! 任せてください!

 最後にひとつだけいいですか?」


「なにかな」


「この催眠アプリというのは」


「ごめん消し忘れ。アンインストールしといて」


かくしてスマホ勇者は冒険の旅に出た!


悪しき魔王を滅ぼすため、旅の道中で様々な人と出会い。

催眠アプリで命をかけた旅へと同行させる。


しかし嘆かわしいのは彼らについて語ることがもうないこと。


駅前のコンビニよりも短い時間で、

スマホ勇者は世界を混沌に陥れた魔王のもとへと到着した!


「よくきたなスマホ勇者。ずいぶんと早いので驚いたぞ」


「電車が遅延してなければもっと早かったさ」


「貴様を招いたのもお前という希望をへし折り

 ふたたび人間ども絶望へ叩き込むのが目的だったのだ」


「それはどうかな。魔王、お前はまだこのスマホを知らないだろう」


「なに!? なんだその見たこと無い機種は!?」


「これは魔法スマホ! お前と戦うために、

 伝説の鍛冶屋が命をかけて、ショップで契約したものだ!」


「なんて強そうなんだ! どこに命をかけるポイントが!?」


「鍛冶屋がスマホケースに金剛石を使ってめっちゃ硬くしたのさ!!

 これでどんな場所で落としても魔法は使える!!!」


「ぐっ! そんなものが! 私の魔法耐性の低さを知っていたとは!」


「魔王、今から見せてやる! これが人間の文明の力だ!!

 くらえ!! スマホ・カルヴァド・グランド・フレア!!!」


「う、うああああ!!」


勇者は炎属性のアプリをタッチした。

今まさに魔王が黒焦げにーー。





>アプリの最新版があります。最新のアップデートをしてください。





黒焦げにならなかった。


「というのは冗談で! 氷漬けにしてやる!!

 スマホ・グレイシャルヴェルグラース!!!」


「ひいいい!!!」



>アプリの最新版があります。最新のアップデートをしてください。




「……」


「……」


勇者と魔王は顔を見合わせた。


「ふは、ふははは!! 愚かなり勇者よ!!!

 アプリのアップデートを怠っていたとは!!!」


「し、しまった! こんなことになるとは……!」


「ぬかったな! ではここで死んでゆけ!!」


そのとき! 絶体絶命の勇者の脳内に不思議な声が聞こえた。



(勇者ああああ よ聞こえますか……)



「こ、この声は!?」



(スマホに最初から入っている魔法アプリを使うのです)


「あなたはいったい!?」


(私はスマホの精霊。

 たまに身に覚えのないスクリーンショットを

 撮ったりする人です)


「そうだったんですね!」


(最初から入ってるアプリはアップデート不要です。すぐ使えます)


「そっ! その手があったか!!」


デカめの独り言を終えた勇者は魔王に向き直る。

その表情は、先ほどまでプールでパンツを忘れたような絶望の顔から一転。


自信満々で勇者たりえるような表情に切り替わっていた。


「魔王、お前もここまでだ!」


「なに!? まだ使える魔法があったのか!?」


「ああそうさ! くらえ! 雷スマホ魔法! 『インドラグナ・ヴォルト』!!」


勇者はアプリをタップした。

もうインストールの指示は出ない。


神の雷鎚がいまにも魔王を襲う!!!




>スマホのシステムソフトウェアのアップデート中です




襲ってきたのは無慈悲なプッシュ通知だけだった。



なんやかんやあって、勇者は魔王を倒して世界を救った。めでたしめでたし。


「魔法スマホ、ありがとうございます。これお返しします」


「ああ。やはり君に託してよかった。魔王を倒してくれたんだね」


「はい。これがなかったら勝てませんでした」


「力になれてよかったよ。聞かせてくれ、どうやって魔王を倒したんだ?」


勇者はにこやかに答えた。




「金剛石のスマホケースでぶん殴りました」

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