第23話大金星

「それじゃあ、私はもう行くわね。まだ部活は続いているから」

「はい。七瀬先輩、ありがとうございました」

「七瀬さん、ありがとう」


 七瀬先輩は行ってしまった。

 優しい人だけど、急にぶっこんでくるな。


「卓が使えるようになったし、麻雀打つかい?」

「やった! 麻雀が打てる!」

「やっとか……長かったな……」


 困難な状況は続いたけれど、やっと麻雀が打てるようになった。

 先輩たちは感慨もひとしおだろう。





「ロン、8000.ロン、12000。ロン、18000」

「手厳しいな……風間君」

「強いね、風間君」

「おい、風間! 手加減しろよ!」

「はは、点棒ごちそうさまです」


 鬼頭コーチとの対局に続いてバカヅキまくっている。

 麻雀には流れなんてないという人がいるが、俺はあると思う。

 勝てる時は異常に勝てる。

 逆に酷い時は本当に酷いことが起こる。


「ふう、やっぱり実力差が出たね。一半荘終わったし、今日はここまでにしようか?」

「ええ。それに気になる対局がやってますし」


 近くで遠藤、田所姉、氷崎先輩が同卓していた。

 学生麻雀界で女帝の座に君臨する氷崎先輩に、遠藤の実力がどこまで通用するのか気になるところではある。


「なるほどね。確かに気になる対戦カードだ」

「和葉……」


 田所弟は姉の様子が気になるのだろう。

 心配そうに見つめている。

 俺たちは遠藤たちの対局を観戦することにした。


「リーチ!」


 氷崎先輩の猛攻が続いている。

 だが、二人は振り込まないように耐えていた。

 俺の目には二人は冷静に打てているように見える。


「鬼頭コーチ……」


 逆に氷崎先輩は攻めているはずなのに焦りが見える。

 鬼頭コーチが負けたことを引きずっているのだろう、心ここにあらずといった感じだ。


「ロン、32000!」

「く……」


 そこを遠藤は逃さなかった。

 逆襲に出て、氷崎先輩から大量の点棒を奪った。

 そして、そのリードを奪ったままオーラスが終了するのであった。


「勝った……の? 私? 勝てたんだ、氷崎先輩に……」

「やったね、芽衣!」


 女子部のランキングが表示されているディスプレイに俺は目を向ける。

 負けた氷崎先輩は累積ポイントがあったので、一位の座から陥落しなかったが、遠藤は三位までランキングが上昇していた。

 別卓の七瀬先輩が勝利したので、そこから順位は動かなかったが大金星と言えるだろう。




「そろそろ僕たちも帰ろうか」


 女子部が終わって帰る時間がやってきた。

 男子部も帰る流れになった。


「ちょっと、清人、来なさいよ!」

「おい、何だ、遠藤!?」


 遠藤が俺を部室の外に連れ出した。


「遠藤、おめでとう。ランキング三位だな」

「ありがとう……じゃなくて、あんた何やってるのよ! 急に鬼頭コーチに宣戦布告して! こっちはひやひやしてたんだからね!」

「悪い、心配させたな。でも、しょうがなかったんだ、流れ的に」

「勝てたからよかったけど、負けてたら大変なことになってたわよ!」

「俺が負けるとでも?」

「う……確かに清人が負けるところなんて想像できないわね。でも、心配したんだよ!」

「だから謝ってるだろ? それしか方法がなかったとはいえ、やり方が無茶苦茶だったからな」

「でも、ちょっとスカッとしたかも。あ……こんなこと鬼頭コーチや他の部員に聞かれたら大変だよ!」

「はは」


 遠藤が女子麻雀部に染まり切ってなくて安心した。

 女子部は鬼頭コーチ信者が多い中で、遠藤は違う価値観で生きているようだ。


「さっきの対局よかったよ。耐えて耐えて、氷崎先輩の一瞬の隙を逃さなかった。あんな麻雀が打てるようになったんだな」

「本当? 我ながら凄い集中力だったと思う。でも、奇跡だったと思う。あんな打ちまわしはそうそうできないから」

「自信持っていいと思うぞ。前に言っただろ? 俺たちはもう対等だって」

「そっか、そうだよね。私、やったんだよね!」

「ああ、いいもの見せてもらった。感動したよ」


 最初は鬼頭コーチとの対局で気が張っていた。

 そこから偶然遠藤の対局を見ることになり、目を見張る打牌を見せてもらった。

 最初はルールを覚えているのかさえ怪しかったが、ここまでの打牌ができるようになっていたとはな。

 つくづく人は成長する生き物なんだと思う。

 ここまで教えてきてよかった。

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