第22話こんなん断れんやろ!
「鬼頭コーチ、約束は守ってもらいますよ」
「ああ、勝手にしろ。だが、一卓だけだ。それ以上は使わせん。女子部の人数的にも限界なんだ」
「それで結構です。男子部は人数そんなにいませんから」
色々あったが、約束だけは守ってくれるようだ。
実際、対局だけでなくどう状況が転ぶかわからなかったので、良い結果で終わってよかった。
「風間君、やったね! かっこよかったよ!」
「風間君、僕の引退を伸ばしてくれてありがとう。それに悲願だった麻雀が打てる!」
「風間、お前は変わった奴だな。お前みたいな奴は初めてだ、ふふ」
男子麻雀部のみんなは喜んで入れているようだ。
だが、女子部の様子はと言うと……。
「鬼頭コーチが負けた……元プロの……」
「そんな……なにかの間違いよ……」
いつの間にか俺たちの対局を見守るギャラリーで一杯になっていた。
鬼頭コーチが負けたショックが大きいようだ。
遠藤と田所さんも心配そうにしている。
「それと……」
「何です?」
「私は男子麻雀部の顧問を辞めさせてもらう」
「ちょっと待ってください! 顧問がいなくなった部活は活動できなくなるって学校の規約にあるんですよ! 負けた腹いせにそれは酷すぎます!」
「いや、対局の結果は関係ない。女子部だけでも見られていないのに、男子部の面倒は見ることが出来ない。以前から男子部の顧問は辞めようと思っていたんだ」
確かに鬼頭コーチの言っていることは間違っていない。
遠藤が俺に麻雀を教えてほしいと言ってきたのは、鬼頭コーチが女子部の全員を見られないことから端を発している。
状況的には負けた腹いせとも言えるが、男子部を見る余裕がないのも事実だ。
「顧問がいなくなったからといって即廃部になるわけではない。一定期間内に顧問を見つければ活動は続けられる」
「後任は鬼頭コーチが見つけてくれるんですか?」
「それはお前たちで見つけてほしい。私は女子部を指導するだけで手一杯だ」
「学生の僕たちにですか?」
「風間君、もう大丈夫だ。君はよくやってくれた。麻雀卓が使えるようになっただけでよしとしようじゃないか。新しい顧問はまた見つければいい」
「北川部長……」
「七瀬、使わせる卓を選んでやれ」
「はい、鬼頭コーチ」
「この卓を使ってね」
俺たちは七瀬先輩の案内で男子部の物になった卓のところまでやってきた。
「やった! これで毎日麻雀が打てる!」
「そうだね、田所君。存分に打とう」
鬼頭コーチの男子部顧問辞任という事態は起こったが、麻雀卓を手に入れることは出来た。
顧問についても一定期間内に探せばよいということなので、焦ってもしょうがないだろう。
「ごめんね、風間君、北川君」
七瀬先輩は申し訳なさそうにしている。
「何で七瀬先輩が謝るんですか?」
「男子部のことは気になっていたの。何卓かは男子部の物なのに鬼頭コーチが取り上げて、女子部で使うことになった。おかしいことだとは思っていたけど、女子部が強くなるためにはしょうがないって自分に言い聞かせてたの。自分勝手よね? 勝手に他人の権利を奪うことは出来ないはずだもの……」
「七瀬先輩……鬼頭コーチがしたことだから、七瀬先輩が謝ることじゃないですよ」
「風間君の言う通りだ、七瀬さん、君は何も悪くない」
「風間君……北川君……」
七瀬先輩は珍しい人だ。
鬼頭コーチのやり方に染まり切ってなくて、思いやりの心を忘れていない。
女子麻雀部はみんな目が鋭くなって、周りが見えなくなっている人ばかりに俺は見えた。
まあ、鬼頭コーチのやり方に染まり切ってない者が別に二名いるが。
「ありがとう。それと、ちょっと気になることがあるんだけど」
「何でしょう?」
「君は麻雀部に入るの? 気になっていたのよね」
この流れからその質問がくるか? 完全に油断していた。
女子部の七瀬先輩から。
いい感じのところで解散するものとばかり思っていた。
「僕も気になっていたよ。君は入部すると言ってたよね? この耳で聞いたよ、僕は」
確かに言った……言ったんだけど……あれは流れ的にああ言うしかなかったんだ。
「風間くんは絶対に高校の大会に出てくると思ってたのよね。ふふ、私の直感よ」
「風間君が入部してくれたら嬉しいな、有名人と打てる。それに一年は僕だけだったから、仲間が増えたら嬉しいよ」
「風間、お前が入部したら退屈しないですみそうだ、毎日が」
完全に入部するものだと思われている。
男子部だけでなく、女子部の七瀬先輩にまで。
期待されすぎだろ!
これはなんと答えたら正解なんだ?
「どうするの、風間君?」
「どうする、風間君?」
「どうするんだい、風間君」
「どうする、風間?」
「……にゅ、入部します」
こんなん断れる奴いるんかい!
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