元天才麻雀少年麻雀部に入部する

第18話田所弟

「風間君、ちょっと相談があるんですけど……」


 田所さんから急に呼び出された。

 相談ってなんだ? 麻雀のことなら相談に乗れるけど、それ以外ならあまり期待しないでほしい。

 俺は生粋の麻雀馬鹿だからな。


「弟のことなんですけど……」


 家族のことか。

 それ系の相談なんて受けたことないな。

 というか、麻雀以外のことで俺に相談しようとする奴なんていない。


「何? 俺で良ければ話は聞くけど」

「実は……」


 田所さんから聞かされた話。

 田所さんの双子の弟は麻雀部に所属しているのだが、全然麻雀を打てていないらしい。

 男子部の顧問を女子部のコーチが兼任しているらしいのだが、弱小男子部に卓を使わせるのはもったいないと言い張り、頑なに使用を拒んでいるとのことだった。

 そういえば、遠藤が俺に麻雀を教えてほしいと言ってきたのは、その女子部のコーチが全然麻雀を教えてくれないので俺に助けを求めてきたのだった。

 確かにその方針なら男子部に麻雀を打たせないのもうなずける。


「そうか……それは残念だけど、俺にできることはあるかな?」

「難しいですよね……でも、なんとか弟に麻雀を打たせてあげたくて……」


 田所さんらしいな。

 弟が困っていたら助けてあげたい。

 生粋のお人好しだ。

 俺なりの案でも出してみるか。


「じゃあ、俺の家で打つ? 丁度四人になるし」

「それはありがたい話です。でも、弟は部活で打ちたいらしいです。私のレギュラー入りが近くなって、弟もやる気になったみたいです。自分も大会に出たいとのことです。その願いが叶うと良いんですが……」


 遠藤から最近の活動について聞いている。

 遠藤がランキング8位になったこと、田所さんは12位になったこと。

 喜ばしいことではあるが、姉としては複雑だろう。


「ちょっと今はいい案が思い浮かばないな。ごめん」

「いいんです。そうですよね、急にこんな話をしてこちらこそごめんなさい。あ……そうだ、弟を紹介しても大丈夫ですか? 解決策は一旦置いておくとして、紹介だけでもしておこうと思いまして」

「ああ、別に構わない。今度連れてきて」

「実は……もういるんです」

「え……?」

「こちら、弟の和希です」


 近くに外をみながら黄昏ている生徒がいるのは目に入っていた。

 関係ない人間だし、別に話くらい聞かれてもいいと思って話を続けていた。

 もう近くにいたとはな。


「やあ、よろしく……姉がいつも世話になっているようだね。姉と言っても双子なんだけど」


 田所さんと瓜二つの男子生徒がそこにいた。

 姉と同じく気弱で人見知りそうな感じだ。


「ああ、よろしく。話は聞かせてもらった。大会に出たいのか?」

「うん。和葉が超強豪の翆玲館女子麻雀部のレギュラー入りが近くなって、僕もやる気がでてきて。でも、どうしたらいいかわからないんだ。鬼頭コーチに麻雀卓を使わせてもらうように頼む勇気もないし……情けないよね、やる気になったっていうのに……」


 遠藤が麻雀を教えてもらえないという話を聞いて俺は女子部のコーチのことを調べてみた。

 鬼頭樹里亜。元MJリーガー。

 現役時代は浅野さんとライバル関係だったとネット記事で見た。

 本人たちもどちらが女流ナンバーワンなのかばちばちだったらしい。

 真偽のほどはわからないが。

 当時、電撃的にMJリーガーを辞め、翆玲館の女子部のコーチに就任した。

 一説によると多額の給与を提示さたことが要因だったと噂されている。

 こちらも真偽はわからないが。

 MJリーガー時代の対局を見たことがあるが、鬼気迫る迫力があった。

 動画で見ただけで気圧される迫力があるというのに、実際に会ったら震えあがってしまいそうだ。

 一生徒が軽々しく話せるような相手ではない。

 恐怖を覚えても仕方ないだろう。


「まあ、しょうがないんじゃないか。鬼コーチって言われてるし」

「しっ! 風間さん、声が大きいです!」


 田所さんは相当焦っている。

 彼女も鬼頭コーチに相当恐怖心を抱いているのだろう。


「情けないけど、何か良い案はないかな?」

「難しいな。技術的なことは教えられるけど、政治的なことは俺にはわからない。鬼コーチを納得させられるだけの材料でもあればいいんだが」

「風間君、君恐れ知らずだね……鬼なんて言ってるのが本人にばれたら……」

「ああ、そんなことか。それより何かいい案がないかな……」

「そんなこと……」


 色々考えを巡らせているが、いい案が思いつかない。

 でも、関係ないと切り捨てることもできない。

 遠藤の時もそうだったけど、困難な場面に遭遇するとどうにか解決したいと思うんだよな。

 親切心だけでなく、困難を解決したら充実感が凄いんだろうなと思うからだ。


「そうだ、潜入捜査でもしてみるか」

「潜入捜査?」

「ああ、敵を知るには懐に飛び込まねば。放課後、麻雀部に潜入してみようと思う」

「潜入って女装でもする気?」

「そんなわけないだろ。男子部って女子部と同じフロアにあるんだろ? そこから女子部の様子は見えるのか?」

「見えるけど。本当にやるの? 見つかったら怖いことになりそうだけど……」

「別に見学することは悪いことじゃないだろ? 堂々としていればいい」

「風間君、楽しんでますよね……?」

「ああ、そうかもな。まあ、見つかっても見学してただけって言えばいいし、悪いことにはならないだろ。田所、放課後男子部に連れて行ってくれ」

「いいけど。結構な惨状だよ、男子部は。女子部の様子を想定していると面食らうかもしれないよ」

「ああ、構わない。むしろ楽しみだ」

「楽しみって……」


 惨状か。

 中々興味深い。

 さて、どうなることやら。

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