第17話対等な立場
「二人とも、麻雀打ってみるか? 二人の実力が知りたい」
「さっき牌譜見ただろ? もう実力はわかったんじゃないか? 流石に元プロ相手は早すぎないか?」
「いや、実力を知りたいというのは口実だ。単に二人と麻雀が打ってみたいだけだ」
そういえば俺も二人と打ってきたが、勝負というより教えることがメインだった。
勝ち負けなんて気にしてなかったから、この機会に打ってみるのも楽しそうだ。
「元プロの智史さん相手にどこまで通用するか試したいです。今までやってきたことが間違いじゃなかったって信じたい」
「私もお願いします。胸を借りるつもりです」
「ああ、よろしく。元プロの実力を見せてやろう」
「兄貴、死亡フラグ立てるなよ。二人とも、手加減するなよ」
「当たり前」
「そんな余裕ないです」
さて、二人の実力がどこまで通用するのか。
元プロと、一応全中チャンピオン相手に。
「リーチ! 覚悟しなさい」
「リーチです。アガれるといいな」
「おいおい……二軒リーチはレギュレーション違反だろ!」
「本当だよ。どうするんだ、これ?」
手加減するなとは言ったけど、ここまでしろとは言っていない。
ガチで忖度なしで向かってきている。
「安牌ないぞ。これは通るか?」
「ロン! 8000。智史さん、点棒ごちそうさまです」
「あちゃ~、無理か。二軒リーチはえぐいな……」
「確かにな。二軒リーチは犯罪だぞ」
「忖度してる余裕なんてないからね。まだまだ行かせてもらうよ」
「私もまだまだ頑張りたいです!」
「その心意気はよし。今度こそ元プロの実力を見せてやろう」
「兄貴、余裕こいてる場合か? 内心焦ってるだろ?」
「当たり前だ。ここまでやるなんて聞いてない。お前はどうなんだ?」
「教師としていいところを見せたいと言いたいところだが、そんなこと言ってる場合でもない。本気でやらないと飛ばされるぞ」
「二人を本気にさせたなんてワクワクするよ。まだまだ行きたい!」
「怖いですけど、私も頑張ります」
まあ、最初から本気だったんだが。
速度がえぐすぎて若干引いてる。
「リーチ! もう一回アガらせてもらうよ」
「私もリーチです。今度は私がアガりたいです」
「おいおい、またか。と、言いたいところだが、今度は安牌がある。何とか凌げそうだ」
「ロン! 12000。その西は通りません」
「二枚切れの西が通らない? それに河も七対子ぽくないし」
「真ん中の牌を切ってるとばれるので、迷彩を施しました。運よくテンパイできて良かったです。二枚切れの西待ちでリーチしたら出てくると思ってやってみましたけど、その通りになって良かったです」
字牌は西で待てという格言が麻雀にはある。
教えてないのに迷彩とかいう言葉も使いだしてるし。
「『字牌は西で待て』って、俺、教えたか? 七対子ぽくない河にするのも」
「待ちとして良さそうだったから。七対子ってばれたらアガれなそうだから、河にも気を付けてたんだ」
教えてないのに、どうすればアガりやすいか考えられるようになった。
成長する時期っていうのは恐ろしいもんだ。
「おいおい、清人。とんでもないバケモノ育てたな。ちょっと前までルールも知らなかったとは思えないぞ」
「俺も驚いてる。ここまで急速に成長してるとは。教えてないことを勝手にやりだしてるし」
「まずかった?」
「ああ。俺の勝ちが遠のいた。まあ、それでも勝ちを譲る気はないが」
まだ終わったわけではない。
それに教師だから負けてやるというのも違う気がする。
「清人にそこまで言わせるなんて、成長見せられたんじゃないかな? まだまだだと思うけど」
「何を悠長なことを言ってるんだ? もう、俺はお前を対等な存在と認めてるんだぞ。本気で倒す気で来い!」
「わかった」
最初の攻勢は配牌とツモが良かったのか、二人のスピードは落ちて行った。
そこを俺は逃さない。
「リーチ!」
「来たね。清人に今まで教えてもらった守備で降りてみせるよ」
「振り込みたくないです。ベタオリ、ベタオリ」
二人は丁寧にベタオリをしている。
リーチをしてから、他家の捨て牌を見ているとその守備力が露呈する。
中途半端な降りをしていると、この場で振り込まなくても、いつか振り込み続ける時が来るんだろうと思う。
二人はそんな様子を微塵も感じさせることなく、安全に降りている。
ただ、降りが完璧でもどうしようもないことはある。
それは……。
「ツモ、8000」
ロンされないでも、ツモだけはどうしようもない。
ロンよりは痛みは少ないけれど、ツモられ続けるとその痛みはかすり傷から大怪我になる。
「ツモ、8000。ツモ、12000。ツモ8000」
三人もアガることがあって飛びはないが、それでも俺はツモり続けて突き放していく。
「中々苦しいな。ロンされないでもツモで削られ続けてる。こういう場合どうしたらいの?」
「どうすることも出来ない。ツモだけは防ぎようがないから。強いて言えば先にアガって潰すしかない」
結局俺はそのリードを守り、一位で終わった。
大人気ないかもしれないが、負けるのは嫌だから。
どれだけ振り込まなくても、ツモられ続けたら麻雀は負けてしまう。
高速リーチからの一発ツモを連発されて何も出来ないまま終わってしまうことも稀にある。
運の要素が強い麻雀の怖いところだ。
今回はその運が俺に向いたようだ。
「う~ん、流石にまだまだ清人には勝てないか。もっと練習しないとね」
「いや、上出来過ぎだ。結構焦ったぞ。今回は運が俺に向いたから良かったけど、次はどうなるかわからない。もう免許皆伝だ」
「っていう冗談で、まだまだ教えてくれるんでしょ?」
「いや、今回は本当だ。もう教師と生徒という立場でなく、今後は対等な立場でいいと思う。もちろん、気付いたことがあったら今後も指摘していくけど、もう基本的に教えるべきことは教えたと思う。逆に今後は二人から俺の打牌に疑問があったらどんどん指摘してほしい。俺も完璧でないから間違うこともある。遠慮せずに言ってくれ」
「清人に私が指摘するの? そこまでのレベルには達してないと思うけど」
「同じく。まだまだ私には無理です」
「自信持っていいよ、二人とも。元プロの俺に勝利したんだ、二人は。もう免許皆伝だ」
「兄貴は何もしてないだろ? 勝手に免許皆伝とか言うなよ。教えたのは俺だぞ」
「清人に教えたのが俺だ。その清人が二人に教えたんだから、俺が二人に教えたのも同然だ」
「そうなのか……? 違う気もするけど、あながち間違っているとも言えない……いや、やっぱり間違ってる気がする……どうなんだ……?」
「まあ、どっちでもいいじゃないか。二人がここまで成長できたんだし」
「確かに。二人とも、強くなった。本当に自信を持っていいと思う」
「嬉しいよ。ここまで頑張ってきてよかった」
「本当……嬉しいです……」
「それと……」
「何?」
「二人のレギュラー入り、都大会優勝、全国大会優勝を願ってる。頑張ってくれ」
「うん、ありがとう。レギュラー入り目指して頑張るよ!」
「はい、ありがとうございます。私も頑張ります」
最初はどう教えるべきか不安だった。
二人の首がかかっていたから。
ここまで俺の教えに付いてきてくれて良かった。
今後も二人は成長し続けるだろう。
その行方を見守っていきたい。
第一部 元天才麻雀少年、麻雀を教える 完
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麻雀基本ルール・用語解説
麻雀を打つ目的
楽しむこと(作者の願い)
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