第15話成長

 二人が部活動をしている時間、俺は図書室で勉強をしている。麻雀を再開したけれど、医学部受験生ということは変わらないからな。数人で麻雀をワイワイ打っている時も好きだけど、落ち着いた空間で一人勉強するのも嫌いではない。


「お、捗ってるかね? 若人」

「何キャラなんだよ? お前も若人だろ。もう部活は終わったのか?」

「うん。まだ勉強続ける?」

「いや、きりがいいので、ここらで帰ることにする」

「そっか、じゃあ一緒に帰ろ」

「ああ」


 大体毎日この様なスケジュールで動いている。放課後になったら俺は勉強し、二人は部活。一緒に帰り、飯を食う。麻雀を打ち、二人が帰ると俺は深夜まで勉強。

 二人とも、親が用意した夕飯を食わなくなったので、最初は心配されていたらしいが、事情を話したら納得したらしい。特に遠藤とは家族ぐるみの関係なので、話は伝わっていたらしい。

 二人の最近の状況が気になったので、帰りながら聞いてみることにした。


「部活の状況はどうなんだ? 前みたいに勝てなくて悩んでる状況が続いてるのか?」

「そう思うかね?」

「ふふふ」

「何だよ? 気持ち悪いな」

「見たまえ、牌譜だ。心して見るがよい」


 遠藤は俺にスマホを差し出してきた。改めてスマホで全牌譜を取っているのは、超強豪校って思う。

 そんな超強豪校部員との牌譜を見るのは少し怖かった。初心者二人が打ちのめされているかもしれないからだ。


「え? 何だこれ? 本当か?」


 そこには信じられない記録が残っている。俄かには信じがたい。


「え? 何が? 何か変なことでもあった?」

「いや、おかしいだろ。麻雀ってのは勝ったり負けたりを繰り返すのが普通だ。運の要素が強い競技だからな。なのに、二人とも全然負けずに勝ってるじゃないか? こんな牌譜見たことないぞ」

「ふふん、凡人には天才の気持ちなんてのはわからんだろう。てのは冗談で、清人が教えてくれたおかげだよ。清人の教えを守ってたらここまでやれたんだよ。本当にありがと」

「風間君、ありがとうございます。麻雀って勝てるとここまで楽しいって気付かせていただきました。まあ、私の場合、運で勝てたのがほとんどですけど」

「私もそうだって。配牌もツモがよくなかったらここまで勝てなかったよ」


 俺は二人の牌譜を見返した。確かに配牌はいい時もあったけど、そうでない時もあった。配牌が良い時はしっかりものにし、良くない時は守備的に打って失点を避けている。

 勝てない時は、配牌が良くてもアガれなくて、配牌が悪い時に焦って攻撃的になり、振り込んでしまうパターンが多い。

 シンプルな麻雀を打てるっていうのは強い。焦って難しいことをしようとすると、どんどん泥沼にはまってしまうからな。


「上手く打ててると思う。ここまで上達してたなんて」

「優秀な先生がいてくれたおかげだよ。ランキングも18位まで上がったよ」

「私は25位です。同級生から、どうしたらそんなに強くなれるのって質問がきて困ってます」

「部員が100人以上いる部活で、そこまでごぼう抜きしたら誰だってびっくりするだろ。俺だったら改造手術受けたって思うぞ」

「もうすぐ全国大会の予選があるんだけど、そこで上位7人に入れたらいいなって思ってるの。レギュラーメンバーは5人だけど、控え枠が二つあるから。全国大会で打つってどんな気分なんだろ。大勢の人が見てるよね」

「私は今年、応援席だろうな。まだ実力不足を感じてるから。じっくり実力をつけて来年以降レギュラーを狙っていきたいな」

「何言ってるの、和葉? 今年よ、今年。目の前までチャンスがやって来てるんだから」

「そうなのかな? 確かにこの調子でいけばレギュラーは見えてくるけど。調子に乗ると足下すくわれそうだし」

「待て待て、全国大会? 何でそんな話になってる? ちょっと前まで部活首になるかもしれないから麻雀教えてくれとか言ってたよな? 俺、話から置いていかれてないか?」

「言うの忘れてたんだよね。いつも麻雀教えてもらうばかりだったし。聞かれてもいなかったから。でも、何か都合の悪いことでもあるの?」

「最悪だ。こんな最高のことを早く知れなかったなんて。お前たちがここまで上達してるなんて最高だろ? 教え子の成長は早く知りたいんだよ」

「まだまだ成長するよ、私たちは。びしばし鍛えてよね」

「もう免許皆伝だ。お前たちはもう巣立っていいぞ」

「え? もう教えてくれないの? それは困る。まだまだ頑張りたいのに」

「冗談だ。一回言ってみたかったんだ、免許皆伝って。でも、そのくらい充実した気分なんだ、今は」

「ちょっと……焦ったじゃない……認めてくれているのは嬉しいけど」

「私もまだまだ教えてほしいです」

「仕方ない、ここまで来たら行くとこまで行くか。レギュラーメンバー入り目指して頑張るぞ」

「そうこなくっちゃ」

「怖いけど……頑張ります」


 ここまで言ったけど、俺の教えられることは大体教えたと思う。ここからは自分たちの気付きの方が大事になってくる。俺はそれをサポートするだ。

 というか、俺より強くなるんじゃね? って思ってしまった。俺も学びなおすいい機会なのかもしれない。


 _____________________________


 麻雀基本ルール・用語解説


 符計算を除外した七対子点数(子)

 ツモ

 一翻 七対子は二翻役なので一翻はなし

 二翻 七対子と面前ツモで三翻なので二翻もなし

 三翻 800/1600

 四翻 1600/3200

 五翻 2000/4000

 ロン

 一翻 なし

 二翻 1600

 三翻 3200

 四翻 6400

 五翻 8000

(親)

 ツモ

 一翻 なし

 二翻 なし

 三翻 1600オール

 四翻 3200オール

 五翻 4000オール

 ロン

 一翻 なし

 二翻 2400

 三翻 4800

 四翻 9600

 五翻 12000

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