第14話押し引き

「守備について学んできたんだけど、つい熱くなって押しすぎちゃうのよね。終わってみたら全然手牌に価値がないのに押して放銃しちゃうよ。どうしたらいいかな?」

「あるあるだな。つい感情的になって押しすぎてしまう。まあ、最初に言っておくが、放銃は絶対悪ではない」

「そうなの? 放銃しないことのほうが良さそうだけど」

「理想を言えばそうだな。でも、自分の手に価値があるのなら勝負してもいい。というか、勝負しないと駄目だ。そうでないと麻雀にならない。価値のある手で勝負して負けるのならしょうがないと思うしかない。捲りあいは運の要素が強いから。ちゃんと価値のある手で勝負して負けたのならその時の自分を褒めてやると良い。勇気を出して前に進んだんだから。逆に手牌に価値がないのなら勝負したら駄目だ。勇敢と無謀ははき違えたらいけない。そういう場合で放銃したのならちゃんと反省しないといけない」

「手牌に価値があるのなら勝負する。価値がないのなら降りる。うん、やってみる。手牌に価値がない時につい熱くなって押しすぎるのは何か解決策がある?」

「ああ、あるぞ。自分の心の中でセルフツッコミをいれるんだ。『ワイ、こんなゴミ手で押そうとしてるんかい! やめとき!』ってな。『あちらさんはバカ高い手かもしれへんで。命が惜しいならやめとき!』ってな」

「何で関西弁? でも、心の中でツッコミをいれるのはいいかも。自分を冷静にさせるためにも」

「あ、あの……私は降りすぎてしまうんですよね。高い手を張っても先制リーチを受けていたら降りてしまう。どうしたらいいですか?」

「その場合もセルフツッコミが有効だ。『こないなどえらい手、一生こんとちゃうか? ここで降りてたら一生後悔するで!』ってな」

「凄い極端なツッコミです。でも、確かにチャンスはそうやってくるものではないですもんね。少ないからこそ大事にしたいと思います」

「ああ。押し引きに関しても常にどうしたらいいということはない。状況を常に冷静に見守らなくてはいけない。その上で最善の選択を選ぶようにするといいと思う。基本に立ち返るのならテンパイなら押し、二シャンテンなら降りだ」

「一シャンテンなら?」

「それこそ状況次第だ。打点があるのなら押し、ないのなら降り。今まで言ったのは基本で点棒やどこまで局が進んだとかもある」

「オーラスの戦い方? 難しいのよね。南三局とかオーラスはリーチしない方がいいと言う人もいれば、してもいいと言う人もいる。どっちが正しいんだろ?」

「これも状況次第だ。特に一番怖いのはトップ目で、追っかけリーチに放銃してラスに落ちることだ。別にリーチをしてもいいけど、追っかけられて順位が落ちる覚悟がないのならやめたほうがいい。それだけオーラスでリーチをするのは危険が伴う。局が進むにつれてリーチ判断は慎重にした方がいい。点棒に余裕があるのならダマテンや降りを考えながら打ってもいい。逆にラス目は絶対に降りたら駄目だ。素点とか飛ぶかもしれないとか考える必要もない。一つでも順位が上がるような高い手を作って勝負するしかない。三軒リーチが来ても押し返すしかない。覚悟を決めることだな」

「オーラスのトップ目は慎重に、ラス目は絶対に降りない。ふむふむ」

「私はオーラスでどきどきしてしまいます。自分の打牌一つで順位が変わってしまう。中々冷静になれません」

「確かに最初のうちは中々冷静になれない。慣れても冷静になれないことがある。そういう時は役になり切るんだ」

「役……ですか?」

「ああ。トップ目の時は絶対にこの立場を渡さないという大御所俳優になり切るんだ。逆にラス目の時は絶対に主役をもぎ取ってみせるという新人俳優になり切るんだ」

「わかりました。トップ目の時はどっしりと構えて、ラス目の時は貪欲に行きたいと思います」

「最初のうちは色々噛み合わないことが多いと思う。経験を重ねていくしかない。何百局、何千局打ちに学ぶこともあると思う」

「もっと麻雀打ちたいって思ったよ。押すときは押す、降りる時は降りる。沢山打って判断できるようになりたい」

「ああ。中途半端が一番駄目だ。邪な気持ちが顔を出して中途半端な降りで放銃するような。降りるのならしっかりと降りる。押すときはしっかりと押す」

 

 俺も昔は全然降りずに押すだけだった。降りることは負けることだと思っていたんだ。

 勇敢と無謀をはき違えていた。

 降りることを覚えてからは成績がめきめきと向上した。

 でも、降りることを知らなかった最初の頃もそれはそれで楽しかったと思うのである。


 _____________________________


 麻雀基本ルール・用語解説


 符計算を除外した平和点数


 平和(子)

 ツモ

 一翻 ピンフと面前ツモで二翻なので、一翻はなし

 二翻 400/700

 三翻 700/1300

 四翻 1300/2600

 五翻 2000/4000


 ロン 

 一翻 1000

 二翻 2000

 三翻 3900

 四翻 8000(切り上げ満貫なしルールだと7700)


(親)

 ツモ

 一翻 子と同じくなし

 二翻 700オール

 三翻 1300オール

 四翻 2600オール

 五翻 4000オール(切り上げ満貫なしルールだと3900オール)

 ロン

 一翻 1500

 二翻 2900

 三翻 5800

 四翻 12000(切り上げ満貫なしルールだと11600)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る