第13話鳴き
「ねえ、鳴き教えてよ」
「ん? 急にどうした? まっすぐリーチ打てるように教えてきたろ? 鳴いたらリーチ出来ないのは知ってるはずだが」
「そうだけど、スピード負けすることが多くて……鳴いたら他の人たちのスピードに付いていけるかもって思ったから」
「私も教えてほしいです。私も速度負けをよくしますから鳴きを覚えたいです」
なるほど。部活でアガられまくってそういう思考になったわけか。あるあるだな。
「じゃあ、質問なんだけどプロでも鳴きまくる人と、全然鳴かない人がいる。そのどちらもプロとしてやっていけてる理由って何だと思う?」
「何その質問? 私は鳴きを教えてほしいだけなんだけど……」
「その質問の答えが、遠藤の今の悩みを解決するきっかけになるかもしれない」
「ん~、何だろ? どっちも一長一短あって優劣がつけづらいから?」
「もう答え出たじゃないか。門前で通用しないから鳴きを使用したいって、門前より鳴きの方が強いって言ってるようなもんだろ? 門前と鳴きは、プレイスタイルやシチュエーションで決めるものであり、本来どっちが優れてるとか、どっちが劣ってるとかの話ではないぞ?」
「確かにそうかも。じゃあ、これまで通り門前で戦った方がいいの?」
「いや、初心者のうちは門前でリーチを打つのを推奨しているが、二人はもう初心者卒業と言ってもいいだろ。さっきも言ったが、プレイスタイルやシチュエーションで鳴きを採用した方がいいこともあるからな。俺は基本門前派であまり鳴かないけど、俺のやり方でいいなら教えよう」
「そうなんだ? 今まで自分のことで精一杯だったから、清人がどういう麻雀打つか気にすることも出来なかったよ。プレイスタイルが門前派でも教えてほしい。清人、教えるの上手いから」
「わかった。じゃあ、鳴きのメリットとデメリットを整理しようか。まずはメリットは何だ、遠藤?」
「テンパイやアガるまでのスピードが上がる?」
「そうだな。他には?」
「ん~、他にあるかな……? 言われてみれば難しいかも」
「田所さんは?」
「えっと、鳴かれた方の立場からすると怖いです。危険牌が切りにくくなります。相手に威圧感を与えるとか?」
「そうだ。相手に恐怖心を与えて降ろしてしまう。三副露はリーチと同じように扱えという話もある。鳴かれた相手は安全牌しか切れなくなり、手が進まなくなる。それじゃあ、デメリットは? 遠藤」
「リーチが打てないので手が安くなる」
「そうだな。一発とか裏とかの偶発役が付かないので、打点が低くなりがちだ。田所さん、他には?」
「手牌が短くなるので、守備が心許ないです……いつリーチが来るかもってひやひやします」
「そうだな。切れる牌が少なくなるので守備力が下がる。じゃあ、鳴きのメリットとデメリットをまとめてみよう。速度が上がるのと、相手に威圧感を与えるのがメリットで、打点と守備力が下がるのがデメリットだ。威圧感に関しては人によって感じ方が変わるけど、速度、打点、守備力ってのは結構わかりやすいだろ? そうすると鳴きに関して感じ方が違ってこないか?」
「なんか鳴きって弱く感じてきた。リスクとリターンが見合ってないように思えるよ」
「いや、さっきも言った通り、門前と鳴きには優劣関係はない。シチュエーションで鳴きを採用した方がいい時もある」
「どういう時?」
「配牌時点で手にドラが沢山あって、一シャンテンとかですぐにアガれそうな時だ。わかりやすく言うと、打点が高くて手が早い時だな。わざわざリーチを打てるのを待ってるのは時間がもったいない」
「そんな都合のいいことってある?」
「めったにない。でも、そういうチャンスを逃さず手にして、配牌が悪い時はがっちり守る方が堅い。一番悪いのは、安くて遅い手で無理やりアガろうとしてリーチに捕まることだ。そういうことをしていれば、いつか必ず捕まるのが必然だ」
「じゃあ、鳴ける場面ってあんまりないの?」
「そうだな。鳴きと門前には優劣はないと言ったけど、門前の方が手堅いのは事実だ。鳴きはリスクと引き換えに速度を手に入れるって感じだな。俺は門前の方が好きだけど、鳴きの方が好きっていう人もいる。プレイスタイルってやつだな」
「どうしたら自分のプレイスタイルがわかるの?」
「色々試してみることだな。部活でやるのが怖いのなら、ネット麻雀で試せばいい」
「そっか。やってみる」
「それと基準を決めておくといい」
「基準?」
「遠い鳴きなら打点が子で三翻以上、親で二翻以上とか、かなり厳しくすると子で四翻以上、親で三翻以上とかかな。かなり厳しい基準だけど初心者の内はこれくらい厳しくても良いと思う。速い鳴きならもっと安くてもいい。それでもタンヤオのみとか、役牌のみとかの一翻だけで鳴くのは止めた方がいい。ノーテン罰符より安くなる可能性があるからな。速い鳴きでもドラが一枚以上あるか、タンヤオか役牌以外の役があるのが理想だ。鳴きにはそれだけリスクが伴うから、ある程度の基準は必要だからだ」
「それも色々試して決めた方がいいんだね?」
「ああ、そうだな。速度負けしてると言ったけど、麻雀は全局自分がアガるなんてことはない。安い手をアガられるのはある程度許容して、行ける時に牌効率で圧倒した方がいい。安くて遅い手で周りに速度を合わせて、捕まるのが一番悲惨だ。こっちは1000点の手なのに、親のリーチが来て12000点とか18000点とか振り込むかもしれないとか考えたら、押すも地獄、オリるも地獄だからな」
「確かに考えただけで怖いシチュエーションね……鳴きよりも、まずは牌効率の勉強だね」
「怖いです……」
「ああ、だからと言って全然鳴かないのも駄目だ。シチュエーション次第で、ここは絶対に鳴いた方がいい時はある。それを見極めるためにも沢山打つことは大事だ」
「ラジャー! 牌効率頑張る! 守備頑張る! 鳴き頑張る!」
「私も頑張ります!」
俺も麻雀始めたころは早くアガリたくて鳴きまくってたっけ。役もよくわかっていなかったのに、清老頭をアガっていた。
二人にも本当はそのくらい気楽に楽しく打ってほしいってのは本音だが、そんなことしていうると首になるかもしれない。
どうやって教えたらいいかわからなくなる時もあるけど、俺なりのやり方で二人を強くするんだ。
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麻雀基本ルール・用語解説
点数計算表
符計算と平和、七対子を除外した基本的な点数表。
子
面前ツモ
一翻 300/500
二翻 500/1000
三翻 1000/2000
四翻 2000/4000(切り上げ満貫ルールなしだと2000/3900)
○○/○○という表記は子/親からいくらもらうという意味。
例えば四翻なら子の二人から2000点ずつもらい、親から4000点もらう。
面前ロン
一翻 1300
二翻 2600
三翻 5200
四翻 8000
鳴きロン
一翻 1000
二翻 2000
三翻 3900
四翻 8000(切り上げ満貫なしルールだと7700点)
親
ロン
一翻 1500
二翻 2900
三翻 5800
四翻 12000(切り上げ満貫なしルールだと11600)
面前ツモ
一翻 500オール
二翻 1000オール
三翻 2000オール
四翻 4000オール(切り上げ満貫なしルールだと3900オール)
○○オールという表記は子の三人から表記の点数ずつもらえるという意味。
例えば四翻なら4000点ずつもらうことが出来る。
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