第11話壁
「やばっ……現物もスジもない……どうしよ……」
「ロン。8000」
「あ~、また振り込んじゃった。スジ覚えて防御力が上がったと思ったのに……」
「じゃあ、壁の話をするか?」
「壁?」
「さっき河に三萬が四枚切られてただろ?」
「うん。それがどうしたの?」
「そうすると作れない両面がないか?」
「えっと、二萬三萬を持ってて一萬四萬を待つ両面と、三萬四萬を持ってて二萬五萬を待つ両面が作れないよ。そこから何がわかるの?」
「その状態だと一萬と二萬が比較的安全だ。一四待ちの両面と二五待ちの両面が否定されるからな」
「そっか、それはわかった。でも、一四待ちと二五待ちが否定されるってことは、四と五は安全じゃないの?」
「安全じゃないな。四七待ちと、五八待ちが否定されていない。当たる危険性はかなりあるんだ」
「なるほど。それが壁って言うのね?」
「ああ。河に四枚切れている状態がノーチャンス、三枚切れている状態がワンチャンスという。それらを総称して壁と呼んでいるんだ」
「ノーチャンス? ワンチャンス? どう違うの?」
「ノーチャンスは河に四枚切れているので、その牌を使った両面、この状況なら三萬を使った両面が否定される。比較的安全界の中の比較的安全だ。逆にワンチャンスは誰か一枚持っている可能性がある以上、その牌を使った両面が完全に否定されたわけではない。比較的安全界の中で比較的危険か、かなり危険の部類に入るんだ」
「比較的安全界の中で比較的危険か、かなり危険ってまたややこしい表現ね。ワンチャンスは結構危ないってのはわかったけど、ノーチャンスってどうなの? 言葉の印象から、完全無欠で絶対に当たらない様に聞こえるんだけど」
「確かにノーチャンスって言われると絶対に安全な牌のように聞こえてくるけど、現物の様に絶対に安全な牌ではないんだ。壁もスジと同じく両面を否定するだけのものだから、単騎やシャンポンには普通に当たる。スジ一九と同じようなものだ」
「なるほど、現物の次くらいに安全なんだ」
「そうだな。それと今回は三を例に出したが、二が四枚切れていれば一が、七が切れていれば八と九が、八が切れていれば九が比較的安全だ」
「そんなに短時間で見れるかな……ネット麻雀て制限時間短いから焦るんだよね。現物とか、字牌が何枚切れてるとか、スジとかだけでも大変なのに今度は壁か……間に合う自信ない……」
「いきなり初心者が全部見れなくてもしょうがない。まずは現物とかスジの確認をすることに集中すればいいだけだ。最初の内は心の隅に留めておいて、現物もスジもなくなった時に思い出せばいい」
「うん。やってみる。ところで、今まで安全牌の話をしてきたよね? 危険牌ってのもあるの?」
「ああ、ある。だが、守備に関しては、危険牌より安全牌を知っておくほうが大事だ。何故なら安全牌と危険牌は表裏一体で、安全牌を切っておけば、危険牌を切ることもない。それに危険牌さえ避ければ大丈夫という思考は危険だ。俗に危険牌と言われている場所が当たり牌とは限らないからだ。単騎、シャンポン、ペンチャン、カンチャンといった愚形に当たる可能性があるからだ。それでも参考程度には話せるが、どうする?」
「一応、参考までに聞いておこうかな」
「じゃあ、質問だが、相手が河に四を捨てている場合ってどういう場合だ? というか、相手はどんな手牌になっていると思う?」
「え? 私、手牌読みなんて出来ないよ……」
「そんなに難しいことじゃない。基本に立ち返ればいい」
「えっと……基本か。四は孤立している場合捨てる」
「そうだ、正解。それと他にないか?」
「え? 他に? 何だろ? やっぱり手牌読み出来ないと無理なんじゃない?」
「読みというより想像力だな。例えば四四五と持っていて三六待ちする場合、四は必要か? 既に他に雀頭があって、五を切って四四といった形にする必要がない場合」
「あ……確かに。もう他にブロックが完成しているのなら必要ない。四切るかも」
「これがまたぎスジってやつだ。まあ、俺は用語で覚えるんじゃなくて、形を想像してほしいからあまり○○スジって用語を使いたくないけど、説明の便宜上な。じゃあ、この場合、何が危険になる可能性があるんだ?」
「三と六?」
「それだけか?」
「え? 他にある?」
「三四四から四を切ったらどうだ?」
「あ……二と五だ」
「そうだ。でも、全然関係ないところが待ちになっていることも多々ある。だから俺は危険牌を過信してほしくないんだ。ただ、安全牌がなくなったら危険牌をさけるという考え方もある。覚えおいて損はない」
「わかった。でも、相手の手を想像するのも面白いね」
「そうだな。だけど、最初のうちは無理に読もうとしないでもいい。思い込みで事故ることがあるからな。あくまでも基本に忠実にだ」
「わかった。じゃあ、もう危険牌の話はいいんだ?」
「いや、参考までに話しておくか。知っておけばいつか役に立つかもしれないし。四を捨てるパターンがもう一個ある。その場合、相手はどんな手牌になっていると思う?」
「まだあるんだ? う~ん……考えたけど、出てこないよ」
「四六七という形ならどうだ? 他に面子が完成していて四が浮いている場合は?」
「あ……確かに要らないかも」
「その場合、何が危険なんだ?」
「五と八?」
「正解。これが裏スジってやつだ。用語は覚えても覚えなくてもいいけど、形を想像するようにしてほしい。後は、間四軒なんてのもあるけど、今は覚えなくても大丈夫だろ」
「形、形ね。難しいけどやってみる」
「後は、ドラとドラ表示牌周りだな。ドラはみんな打点を上げたくて集めるし、ドラを使うためにその周りも集める傾向にある。終盤切ると危険になるから、使わないのなら早めに切るか、使うつもりなら一生切らずに心中するつもりで持ち続けるかだな」
「心中って……でも、ドラって持ってると嬉しいだけのものかと思ってたら、危険になることもあるんだね。そんなこと全然考えたことなかった」
「ああ、ドラは諸刃の刃だ。持っていると嬉しいっていう人と、怖いっていう人がいる。どちらの感覚も大事だ」
「凄いですね……」
「え? 何が? 田所さん?」
「今まで攻撃や守備のことを教えていただきましたけど、これら全てを意識していつも打っているのですか? 凄すぎます」
「慣れだって。長くやってる奴らは大体このくらい出来る。二人も続けていけば必ず出来るようになる。俺が保証するから」
「わかりました。焦って少し弱気になってました。すみません」
「別にいいって。俺も最初は全然出来なかったし、気長にやっていけばいい」
初心者にどこまで教えたらいいのかって難しいな。急に色々教えられたら頭がパンクしてしまうから、ある程度のところで止めておこうって思ってても、つい知っていることを話してしまう。
二人も焦りから今は色々情報を詰め込みたい時期だろう。本人たちが望んだこととはいえ、短期間で結果を残さないといけないのは想像以上にきついだろうな。
俺も出来るだけ力になりたいと思う。
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麻雀基本ルール・用語解説
途中流局 ある一定の行動を取るとその局は流れ、配牌からやり直しになる。
九種九牌 配牌時に一九牌と字牌が九種類以上含まれると、九種九牌を宣言し配牌からやり直すことが出来る。基本的には手牌がバラバラなので宣言するが、任意なので宣言しなくても良い。国士無双を狙う場合は宣言しない方が良い。
四風連打 第一巡目に四人のプレイヤーが同じ風牌を捨てると途中流局になる。
四家立直 一局の中で四人全員のプレイヤーがリーチをすると途中流局になる。成立するには四人目のプレイヤーのリーチ宣言牌がロンされないという条件がある
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