第10話牌効率
「この場合、何を切ればいいですか?」
田所さんから牌効率に関する質問が来た。攻撃の意識が高まっていることは良いことだ。
「じゃあ、牌効率の基礎からやっていこうか」
「はい。お願いします」
「最初は孤立した字牌や一九牌から切っていく。どっちからというのは人によるが、プレイスタイルが定まるまでは字牌からでいいと思う。三枚重ねて役牌を狙ったり、守備を考えるのなら字牌を残すし、一九牌の方が受け入れの種類が多いので、それを狙うのなら一九牌を残す。田所さんは一九牌の受け入れは何があるかわかる?」
「えっと、二と三ですね。それと七と八ですかね?」
「それに加えて一と九がある。二枚目が来れば雀頭になるし、三枚目が来れば面子になる。一と九の受け入れは三種類だ」
「そうでした。見逃してました」
「それから孤立した二と八を切る。それもなければ孤立した四五六を切る。それからペンチャン、カンチャン、リャンカンといったふうに切っていく。そうすると必然両面が残っていく。以前も言ったが、麻雀は両面が強いからな。遠藤、何でカンチャンはペンチャンより強い?」
「私? ん~と、ペンチャンってのは一二と持ってて三を待ってる形でしょ? カンチャンってのは二四って持ってて三を待ってる形でしょ? どっちも一枚くれば嬉しいってことは変わらないけど……」
「本当にそうか?」
「え?」
「一二を持ってて三がきて嬉しいのはわかるよな? 二四って持ってて三がきたら嬉しいっていうのも大丈夫だと思う。でも、三だけなのか?」
「ちょっと待ってて……五が来ても嬉しいかも」
「正解。五がきたら二四五の形になって面子が完成するわけではないけれど、次のツモに六がきても嬉しい形になる」
「そっか、カンチャンは両面に進化するんだね。てことは、カンチャンの方がペンチャンよりも強いんだね。納得」
「そう、カンチャンは進化モンスターだ。逆にペンチャンは三とか七を引いて面子にならない限り進化しない不変モンスターだ。カンチャンとペンチャンがあるのならカンチャンを残そう。ただし、なんでもかんでもペンチャンを落とせばいいというわけでもない。序盤はブロックが足りないからむやみやたらに切らないほうがいい。最初に言った通り孤立牌から切っていく」
「わかった。リャンカンは三五七みたいな形だよね? これはどのくらいの強さ?」
「カンチャンよりは強いけど、両面よりは弱い。両面は両隣の二種類がきたら嬉しいけど、リャンカンは穴ぼこが埋まるよう形の二種類がきたら嬉しい。二種類がきたら嬉しいっていうのは同じだけど、リャンカンは三枚分使ってしまう。二枚でいい両面の方が優秀だ」
「なるほどね。じゃあ、今言った通りの手順で進めていけばいいんだよね? 意外と簡単そうでやれそうな気がしてきた」
「ところがそう簡単にいかない」
「そうなの?」
「田所さんの質問に戻るが、五の孤立牌と一二のペンチャンどっちを切ればいいのかという質問がきてた。これは難しい」
「え? さっきの理論でいくと五を切ればいいんでしょ?」
「次のツモで四とか六引いてきたらどうする? 目も当てられないぞ? 三六待ちの両面か、四七待ちの両面が出来ていたはずなのに」
「じゃ、じゃあ、ペンチャン落とす?」
「次に三ツモってきたら? これも目が当てられないぞ。面子が出来ていたはずなのに」
「う~、じゃあ、どうすればいいのよ?」
「これは麻雀あるあるなんだけど、ペンチャン落とせば次に三ツモってくることが多いし、真ん中の孤立牌切ればその隣の牌をツモってくることもある。裏目って奴だな。山読みって奴もあるけど、絶対ではない。でも、どっちを残した場合のメリット、デメリットって奴がある。状況とか、その人の価値観次第なところだな」
「知りたい」
「まずペンチャンを残した場合のメリットだけど、一シャンテンなら三とか七を次にツモってきたら即リーチが打てる。それと守備力が高い。一九牌は四五六といった牌より当たるパターンが少ないから守備力は高くなりがちだ。デメリットは安い手になりがちだ。ペンチャンを残しているとタンヤオが絶対に付かないからな。一と九を使うとタンヤオが付かないのは覚えているだろ? 平和も付きづらい。平和はアガリの待ちが両面でないと付かないから、最後の待ちがペンチャン待ちになると平和が付かない。そうなってくるとリーチのみになりやすい。一通や三色を揃えるのは中々難しいからな。リーチのみだとノーテン罰符より安くなることがあってしょっぱい」
「真ん中の孤立牌を残した場合は?」
「真ん中の孤立牌を残した場合のメリットは、ペンチャンを残した場合のデメリットと逆だが、タンヤオと平和が付きやすい。一九牌と字牌を切っていくとタンヤオは付くし、面子がすべて順子で、最後の待ちが両面だと平和が付くからな。デメリットはこれもペンチャンの場合と逆になるんだが、即リーチが打てないことだな。五を持ってて、四とか六をツモってくるのは嬉しいが、面子が完成したわけではないので、ペンチャンを残した場合に比べて速度で負ける可能性がある。それと、守備力が低くなりがちだ。端の牌の方が当たるパターンが少ないので、真ん中の牌が多くなればなるほど守備力は低くなる」
「う~、確かにどっちも一長一短あって選びにくいよ……どうすればいいの?」
「打ちながら自分の価値観を決めていくしかない。守備力と速さを求めるのならペンチャンを残した方がいいし、打点と形の良さを見るなら孤立した真ん中の牌を残す方がいい。言うなれば即戦力のペンチャンと、将来有望の真ん中の牌だ」
「で、田所さんの質問に答えるとすれば」
「お願いします」
「え? 答えあるの?」
「ペンチャンを残した方がいいと思う。個人的には孤立した真ん中の牌を残す方が好きだが、守備力が下がるのが嫌な田所さんには合ってると思う。確かに、以前不要な安牌は持たないで真っすぐリーチに向かってほしいと言ったが、ペンチャンはちゃんと手牌に組み込めているので、不要ではないからな。手牌に組み込みつつも、先制リーチを受けたら、その牌を使ってオリることが出来るというわけだ」
「確かに真ん中の牌が集まっていると不安になります……リーチを受けた時に……私のプレイスタイルに合っているかもしれません」
「もちろん、プレイスタイルよりシチュエーションが優先されるべきで、どの場合でもこっちを選んだ方がいいということもないんだけど、最初の内は瞬時にどっちを選んだらいいかわからないと思う。当面は好みで選んでもいいと思う」
「はい。早く判断できるようになりたいです」
「それと、ここまでは河に何を捨ててあるか無視して話してきたが、河に何を捨ててあるのかを見るのも重要だ」
「河?」
「ああ、一二と持ってて、三が河に四枚捨ててあったら、その一と二はほぼ死んでるだろ? 一か二をどちらか引いてきて雀頭にするか、同じのを三枚引いてくるしかないだろ? 麻雀は同じ牌を集めるのは難しい。だから、横に横に広げていく。三が四枚捨てられてたら素直にその一と二は切った方がいい」
「確かにそうだよね。同じ牌をツモってくることってほとんどない。河の状況よく見なくっちゃ」
「ああ。遠藤、お前は手牌に集中しすぎて河をほとんど見てないな。ペンチャンどころか、両面の待ちが全部捨てられているのに、気付かず両面ターツを持ち続けている。両面は一番強くて最優先すべきだと言ったが、待ちが全て捨てられているのなら話は別だ。もうその両面ターツは捨てるしかない」
「ちょっと! その場で教えてよね! 恥ずかしいじゃない! 待ちの牌が全て捨てられるのに、待ち続けてたなんて」
「集中してたから声をかけづらくてな。どういう打牌をするのかも興味深かったし」
「それと、河だけでなく鳴きも見ないといけない」
「鳴き」
「孤立牌の切り順で、一九牌は真っ先に切るって話をしたけど、そうすると一九牌は河にほとんど切られて、待ちとしてなくなっていることが多い」
「うん。それが鳴きとどう関係あるの?」
「その状態で四とか六がカンされたらどうなる?」
「あ……待ちの牌が全部なくなっちゃう」
「そう。だから河だけでなく、他家の鳴きも良く見ていないといけない」
「わかった。これから気をつける」
今ならパッと見て自分の待ちが何枚あるかわかるけど、俺も昔は手牌に集中しすぎて河なんて見ていなかった。牌譜検討の時に兄貴から指摘されて、既に待ちの牌がなくなっていることに気付かされた。
河も他家の鳴きもまったく無視していたあの頃が妙に懐かしく感じたのである。
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麻雀基本ルール・用語解説
流局(誰もアガれなかった)時の処理
テンパイ アガりまであと一牌の状態で流局を迎える。
形式テンパイ(ケイテン) 役無しの状態でテンパイする。
ノーテン 流局までテンパイ出来ない状態
ノーテン罰符 流局時にノーテンのプレイヤーはテンパイしたプレイヤーに罰符を払う。
一人だけがテンパイなら、ノーテンのプレイヤーはテンパイしたプレイヤーに1000ずつ点棒を払う。
二人なら1500ずつ、三人ならノーテンのプレイヤーは、テンパイしたプレイヤーに1000点ずつ払う。
全員ノーテンなら点棒移動無し。
形式テンパイでもノーテン罰符はもらうことが出来る。
親がテンパイしていたら、親継続する。
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