第10話 支え合いの本質
高校2年生になった彼女は、学校生活の中で「支え合うこと」の本当の意味に気づき始めていた。最初は、自分が誰かに支えられることばかりを意識していた。しかし、福祉の授業や実習を通じて、「支える側」と「支えられる側」の境界が曖昧であることに気づいたのだ。
彼女がその思いを強くしたのは、介護施設でのボランティア実習のときだった。施設の利用者たちは、高齢や障害によって日常生活に支援を必要としていたが、その一人一人が驚くほど多くのことを彼女たちに教えてくれた。
ある日、彼女は車椅子を利用しているおばあさんのお手伝いをしていた。手を取りながら、彼女が「大丈夫ですか?」と声をかけると、おばあさんは微笑んでこう言った。
「あなたのその声、素敵ね。きっと人を元気にする力があるわ。」
彼女は驚いた。「その声」と言われた瞬間、自分のチック症による声のことを指摘されたのかと思った。しかし、おばあさんは続けた。
「どんな声でも、それが誰かに届く限り、価値があるのよ。」
その言葉に、彼女は目頭が熱くなるのを感じた。ずっと「問題」だと思っていた自分の声が、誰かにとって「力」になれるという視点を持てたのは、その瞬間が初めてだった。
また、クラスでのグループ活動を通じても、支え合う瞬間を感じることが増えた。学習発表会で「違いを認め合う社会」をテーマにした劇を作ることになったとき、彼女の経験が大いに役立った。
「私たちはみんな違う。それを受け入れ合うにはどうすればいいだろう?」
その問いを彼女が投げかけると、クラスメイトたちは真剣に考え、それぞれの意見を出し合った。そして、劇の中で「違いを持つキャラクター」が、自分の個性を肯定するシーンを描いた。
発表会の日、彼女はその劇の最後に登場し、クラス全員の前でこう語った。
「私はチック症を持っています。でも、それは私が私である証です。私たちはみんな違うけれど、その違いが集まって社会を豊かにしているんです。」
会場からは大きな拍手が湧き上がり、彼女はその中で初めて「支えられるだけでなく、自分も誰かを支えている」と実感した。
「支え合い」とは、誰か一方的に助けることではなく、お互いに力を分け合いながら成長していくこと。それが彼女の中で、確かな信念として根付いていった。
学校生活も残り少なくなり、彼女は夢に向かって確実に進んでいた。そして何より、自分を肯定し、誰かと共に歩む力を身につけたことが、彼女の一番の財産となった。
※次回、第11話では、彼女が高校卒業後、夢に向かってさらに歩みを進める姿を描きます。
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