第9話 新しい環境での試練
福祉系の高校に入学した彼女は、新しい環境に胸を躍らせながらも、心の奥には小さな不安を抱えていた。「またチック症のことをどう説明すればいいのか」「新しい友達に受け入れてもらえるのか」そんな思いが頭をよぎるたび、彼女は深呼吸を繰り返した。
入学して最初の数週間は緊張の連続だった。自己紹介で声が漏れたとき、クラスメイトの中には驚いた顔をする人もいた。しかし、彼女は少しだけ勇気を振り絞り、「私、チック症という症状があります。時々声や動きが出るけれど、気にしないでください」と短く伝えた。
その言葉に教室は一瞬静まり返ったが、一人の女の子が手を挙げて言った。
「そうなんだ。じゃあ気にせず一緒に頑張ろうね。」
その何気ない言葉に、彼女の胸の中に暖かい光が灯った。
しかし、全てが順調というわけではなかった。授業中に声が漏れると、時折クラスメイトが振り返ることがあり、その視線に冷や汗をかくこともあった。体育の時間では体が動いてしまうことがあり、ペアを組むのを躊躇されることもあった。
ある日、クラスで行われたグループディスカッション中、彼女の症状がきっかけで話し合いが一時中断したことがあった。そのとき、リーダー役の男の子がこう言った。
「別に気にしなくていいよ。それより、君の意見を教えてほしい。」
彼のその一言に救われ、彼女は少しずつ自分の意見を言うことにも慣れていった。
学校生活の中で彼女が感じたのは、「理解しようとしてくれる人がいる」ということだった。以前のようにいじめられることはなくなり、むしろ時折「チック症って何?」と興味を持って聞いてくれるクラスメイトも増えた。そのたびに彼女は、自分の症状を隠さず説明することの大切さを実感していた。
また、福祉を学ぶ授業の中で、障害や特性を持つ人々の生き方や支援のあり方について学ぶたびに、彼女は自分の経験が無駄ではないことを確信した。先生から「君の話を授業でしてくれない?」と頼まれたときには、一瞬戸惑ったものの、「これも誰かのためになるなら」と思い切って話すことを決めた。
その日、彼女はクラスメイトの前でこう語った。
「私はチック症を持っています。でも、それは私の個性の一部だと思っています。誰にでも違いがあって、それを認め合える社会を作りたいです。」
発表が終わると、教室に拍手が湧き上がり、彼女は初めて心の底から「自分がここにいていいんだ」と思える瞬間を味わった。
新しい環境での試練を乗り越える中で、彼女は少しずつ自分の力を実感し始めていた。それは、彼女の夢への確かな一歩だった。
※次回、第10話では、彼女が学校生活を通じて見つけた「支え合いの本質」について描きます。
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