第11話 未来への歩み
高校を卒業した春、彼女は新たなステージに進むための一歩を踏み出した。進学先は、福祉と心理学を学べる専門学校だった。高校での学びや経験をさらに深め、同じように悩みを抱える人々を支えるスキルを磨く場所だった。
入学式の日、彼女は一人校門をくぐりながら心の中でつぶやいた。
「私はここからもっと成長する。」
専門学校では、これまで以上に具体的な知識と技術を学ぶ必要があった。カウンセリングの基本、福祉の現場でのマナー、障害の特性や支援方法など、多岐にわたる内容に最初は戸惑った。しかし、彼女には強い動機があった。「自分の経験を活かして誰かの力になる」という信念が、彼女の背中を押していた。
授業の中で特に彼女が興味を持ったのは、心理学の講義だった。人の心の動きや感情に寄り添う方法を学ぶ中で、自分自身の過去の経験とも向き合う時間が増えていった。ある講義で、講師がこう言った。
「人を支えるには、まず自分自身を理解し、受け入れることが必要です。」
その言葉に、彼女は自分のこれまでの道のりを振り返った。チック症を抱え、いじめや偏見に苦しんだ日々。誰にも頼れず、孤独を感じていたあの頃。けれども、その経験があったからこそ、彼女は他人の痛みに寄り添える自分になれたのだ。
学校での実習では、彼女は子どもたちを支援する施設での研修を選んだ。そこには、彼女と同じようにチック症や発達障害など、特性を抱えた子どもたちが通っていた。彼女はその中の一人、小さな男の子と深く関わることになる。
その子は、人と目を合わせるのが苦手で、声をあげることが少ない子だった。最初は彼女にも心を開こうとしなかったが、ある日、彼が何かを言いたそうに彼女を見つめた瞬間があった。彼女はそっと「大丈夫、ゆっくりでいいよ」と声をかけた。
すると、その子は震える声でこう言った。
「僕、変じゃない?」
彼女は少し驚きながらも、静かに微笑んで答えた。
「変じゃないよ。それは君の大事な個性だよ。」
その言葉に男の子が小さく頷いたとき、彼女は自分の中で何かが確かに変わったのを感じた。「支える」ということは、相手に寄り添い、安心を与えることなのだと実感した瞬間だった。
彼女の夢は少しずつ形を成し始めていた。専門学校での学びを終えた後、彼女は子どもたちを支える福祉の現場で働くことを決めた。これまでの経験や学びを活かし、同じように苦しむ人々に「安心できる居場所」を届けたいと思ったのだ。
卒業式の日、彼女は先生や仲間たちにこう言った。
「私は、自分の過去を隠すのではなく、それを強みにして生きていきます。そして、私と同じように苦しんでいる人たちの希望になりたいです。」
未来はまだ始まったばかりだった。しかし、彼女の中には確かな光があった。それは、過去の痛みや苦しみがもたらしてくれたもの。そして、それがこれからの彼女を照らし続けるのだろう。
これで彼女の物語は一区切りを迎えますが、彼女の歩みはまだ続きます。彼女がこれから出会う人々とともに、新たな物語が紡がれていくことでしょう。
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