第6話 共感の輪を広げる
彼女が「チック症」と共に生きることを受け入れ始めた頃、次第に周囲の人々に対する見方も変わっていった。これまで、いじめや偏見の目を向けられるたびに心を閉ざしていた彼女だったが、ある日ふと気づいたことがあった。
「私だけじゃない。誰だって、何かを抱えてるんだ。」
この考えが芽生えたのは、ある授業中のことだった。クラスの中で一人の女の子が作文を発表していた。「自分の家族について」というテーマで、彼女は泣きながら「両親が毎日ケンカばかりしていて辛い」と語っていた。その瞬間、彼女の胸の奥に強い共感が湧いた。
「私も、自分のことで悩んでたけど、他の人にも見えない悩みがあるんだ。」
それから彼女は、周りの人々を少しずつ違う目で見るようになった。いつも自分をからかってくる男子も、実は家で親に叱られてばかりだという噂を耳にした。口数が少ない転校生の男の子も、以前の学校でいじめを受けていたことを知った。
ある日、彼女は勇気を出して、からかってくる男子にこう言った。
「私、チック症っていう病気なの。でも、それで私を変なふうに見ないでほしい。」
男子は少し驚いた顔をしたが、何も言わずに立ち去った。それでも、次の日から彼の態度は少しだけ柔らかくなった気がした。
また、転校生の男の子とも以前より深く話すようになった。
「お互いに、他の人に分からない苦しみがあるよね。でも、それを理解しようとするだけで、少し気持ちが楽になる気がする。」
彼の言葉に、彼女は深く頷いた。
共感。それは、彼女が苦しみの中から見つけた、新しい視点だった。自分の苦しみを通じて他人の痛みを想像し、寄り添おうとする気持ち。それが、彼女にとって新しい「強さ」となっていった。
もちろん、全ての人が彼女を理解してくれるわけではなかった。からかいが完全に止むこともなかった。しかし、彼女はそれを「仕方のないこと」として受け止めることができるようになっていた。
「誰もが同じじゃない。それでいいんだ。」
その気持ちが、彼女の表情を少しずつ明るくしていった。そして、そんな彼女の姿が周りの人たちの心にも少しずつ変化を与えていくのを、彼女は感じ始めていた。
※次回、第7話では、彼女がいじめや症状を乗り越えた先に見つけた「新しい夢」について描きます。
チック症の少女は、どう向き合ったか 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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