第十六話 無謀な計画
「でも三葉さん、たしか紹介してもらったんですよね。葬儀屋の社長を、たしか倉田……っていう人」
と湊音が鼻を啜りながら言うと倫典が反応した。
「……まじで?!」
「知らんか、まぁ知らんだろうね」
湊音が再びメガネをグイッと押し上げる。
「知らんも何も……葬儀屋の社長って、まさか……倉田だよな?」
「そう、倉田さん」
倫典はどこかがっかりした様子だ。
「うちの親、病院やってるだろ? そこと提携してるんだよ……彼の霊園」
それはそれですごい繋がりだが、湊音自身は医者でもなく後継でもないので、ほとんど関係がない。自分は遠い親戚がやっているドラッグストアの一社員にすぎないのだ。いくら大病院の三男坊とはいえ、医者でない限りほぼ勘当同然だ。
「……倉田さんと話したことはある?」
「兄貴と同じ学校で、ライバルって感じかな。まぁ倉田さんは相手にしてないけど。まぁ悪いやつじゃないって印象だ」
「そうなのね。写真やメールのやりとりからも、裏表なさそうだし、真面目そう」
三葉はスマホで検索して倉田の写真を見せてくる。スケキヨはどこかで見たことがあると感じていたが、その写真を見て確信した。テレビで見かけた顔だが、今までははっきり見ていなかった。改めて見ると、そこそこ悪くない、と勝手に品定めしていた。
一方、倫典は倉田の話になると明らかに嫉妬している。
「もう三葉さんは会ったんですか?」
「……まだメールと電話だけよ」
「んしゃっ!」
と、倫典はリアクションをする。そしてさらに三葉に質問を重ねた。
「彼とのご飯とか、予定は?」
「まぁ、近々予定を合わせてどこかに行こうかって話はしてるわ」
「じゃあ! 僕も同席していいですか?」
「え?!」
「ニャア?!」
三葉と湊音が同時に驚きの声を上げた。スケキヨも同様だ。
「……まだ倉田さんとはお付き合いしてないんですよね?」
「う、うん……まぁ、まだしっかり会って話してないし」
まさかお前……と、スケキヨは心の中で思った。高校時代に三葉に惚れていた倫典の様子がよみがえる。
「三葉さん! 僕のことは……どう思ってます?」
「ばか、倫典」
湊音は即座に突っ込んだ。
「バカじゃないよ……まだ、三葉さんから返事もらってなかった」
どうやら、倫典は三葉が教育実習に来た時に告白していたらしい。三葉は苦笑いし、湊音は呆れた表情を浮かべている。その様子をスケキヨとして見守る。
「どうって。あの時は倫典くん、まだ高校生だったじゃない」
「じゃあ、今は?」
詰め寄る倫典に、場は目も当てられない状況である。
「まぁ、まだフラットかしら。大人になった倫典くんのこと、知らないですもの」
「大人……」
三葉は悪気はないが彼女の喋りのおっとりさとニュアンスで色っぽい声も合わさると意味ありげなワードに聞こえてしまった。
「まぁ確かに最初から倉田さんと2人きりって気が引けちゃうわ。だからいいわよ」
「やった!」
「倉田さんに聞いてみないとダメだけど」
「そうだろうけど……やったあ! 湊音っ」
湊音は呆れてるが三葉はニコニコしてる。
スケキヨは覚えてる。彼女はすぐに拒否をしない。傷つけない。彼女なりの優しさを。倫典をすぐに振らなかったのも高校生だったからという理由だけではないだろうかそうなのか三葉しか知らないだろう。
『じゃあ俺の時はなんですぐ2人きりでデートしてくれたのだろうか』
スケキヨは思い返す。
「でも私は誰かと一緒にいるとか、和樹さんの代わりとかそういうのは考えてないわ」
「……そ、それはわかってます」
いや、わかってないだろとこの場の全員心の中で突っ込むところである。それくらい倫典の三葉への愛はずっと眠っていたようだ。
スケキヨもこの男……倫典がいたことをすっかり忘れていたし、ここまでまだ三葉のことを好きだったのは知らなかった。
『……結婚式呼んだのまじ申し訳なかったな』
と思いつつもそんなのは関係ないなと。まださらに残ってるゼリーの汁をペロリと舐めた。もうほぼ味はない。
「場所はどうします?」
スケキヨも是非とも倉田という男を見たい。
もし店だと無理である。そしてまだ実現はしてないが三葉と倉田と倫典の食事会も一回きりだろう。それを見届けるチャンスは。
「そりゃ社長だからいいホテルとか料亭だろ」
湊音は検索を始める。そこはもうダメだ! とスケキヨは首を振るが伝わることはない。
「いきなり高級なところはちょっと……ねぇ」
「そうだよ、湊音。僕そういうとこは苦手」
と一応病院の御曹司である倫典らしからぬセリフだ。
全員でいろいろと考えているようだ。スケキヨもうーむ、と考える。気づけば考える人ぽいポーズ。どうすれば自分も見届けることができるのだろうかと。
「もし悪くなければこの家とか?」
と三葉が手を挙げる。
おおおおっと1番のリアクションをあげたのはスケキヨである。
「あ、いきなり家? いいんですか」
「……わたしはあまり外食はこの辺でしたくなくて。行くとしても名古屋くらいだし、わざわざ名古屋に行ってもらうのもあれだし名古屋だったらそれなりのお店になるでしょ」
そういえばとスケキヨは思い出した。
三葉も一応高校に勤めているのもあり、生徒が住む地域にはあまり外食や買い物は休日にはしたくないという彼女なりのポリシーがあって2人で外でデートは少なかったことを。
「それにもし今後一緒にいるのならわたしのご飯も食べてくれるってことでしょ? もし舌に合わないようならそこまでってことだし」
何を言うっ! スケキヨは三葉の料理の腕前を知っている。外食は必要ないほどだったことを。
『ああ……俺もまた三葉のご飯食べテェや……』
さすがにねこねこゼリーだけでは腹が満たされない。横たわるスケキヨ。
「はい! もちろん三葉さんのご飯食べたいっす!! あ、湊音も一応同席して。俺の味方ー」
「はいはい、あくまでも中立の立場で……」
たのんだ、湊音と心に思うスケキヨだが……。
「でも倉田さんの返事が来てからね、詳しいことは」
そうである。
この無謀な話は実現するのだろうか。
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