第四話 墓はいらない

 大島には妹のナミがいるが結婚をして北海道で農業をしているのと、持病があってなかなかこちらにくることできないが三葉との仲は良好でありお金なことなども弁護士が仲介に入り穏便に進んでいる。


 また大島は妹家族以外の身寄りがなく、三葉も両親共に数年前に亡くなっている。

「ナミさんが墓はどんなのがいいか私に任せるって言うけど……悩むわ」


 何枚かの墓のチラシを見ている三葉。墓地は近くの天狗山麓の霊園が空いているため、あとは墓石だけだ。


 駅からは遠いが車を使えばここからは行ける距離。若い人たちで整備をしているらしくとても綺麗だと三葉は先日家に尋ねてきた墓石業者から聞き、値段はそこそこするが予約をしたのだ。


 スケキヨは三葉と寄り添って聞いていたわけだが、マンションを選ぶ際は頑固な彼のせいか、やや時間がかかった。

 しかし三葉だけだと意外とあっさりと決まってしまった。

 もし自分が生きていたら少しでも安いところで……なんぞ言ってかなり決断も遅いのであろう。


 そんな感じで墓も簡単に決まってしまうのだろうか、スケキヨもすっと寄り添ってチラシを覗き込む。そしてクイッと引き寄せて見る。


『高すぎる……あんな石っころ買わなくてもいい……こんな立派な仏壇あるのに』

 仏壇にはまだ大島の骨壷が置いてある。チラシを三葉に取り上げられた。


「スケキヨったらチラシもおもちゃにしちゃうのね……もぉ」

「ニャー!」


 大島はニャーとしか言えない自分が悔しくなる。そんな彼が猫の体でできることは……。

「ニャー!」

「スケキヨ!」

 スケキヨの身体能力はとてつもないものだとスケキヨはびっくりしているがジャンプして三葉が取り上げた墓屋のチラシを取り上げてビリビリに持っている爪で破り出した。



「スケキヨ! なにしてんのよ!」

三葉が驚いてスケキヨを抱き上げる。


「にゃー!」

と抵抗するものの、スケキヨはなす術なく彼女の腕の中に収まる。

 だが心の中は、複雑な感情で満ちていた。あのチラシを見て、彼は改めて自分の死という現実を思い知らされる。自分の墓が建つことを、猫の姿でありながら目の当たりにしなければならないのだ。



「もう……イタズラが過ぎるわよ。かまってちゃんかしら。酔っ払った時の和樹さんみたい」

 三葉は困っている。

『今はシラフだ……てか酔った時そんなにかまってちゃんになってたのか? 俺』

 彼女の優しい声を聞き、生前の頃の会話のやりとりを思い出してじんわりくる。


『いや、三葉。お前に負担をかけたくないんだ……』


 だが、それを伝える術はない。彼は猫であり、人間の言葉を失っている。無力さに心が痛むが、三葉の温もりを感じるたびに、彼女がまだ自分の近くにいてくれることに感謝せずにはいられなかった。


 三葉はスケキヨを抱きかかえた。

「またちらしもらってこなきゃね。今度は邪魔はダメよー」


『わかってるよぉ』

というもののニャアってしか言えない。


「ナミさん、あなたのこと本当に心配してくれてるわよね……」

 三葉は大島の遺影を見ながらそう呟き、スケキヨを撫でる。


 大島はナミのことを思い浮かべる。

 両親を失ってからは、喧嘩も減り兄妹で互いに支え合い、特に大島にとってナミはかけがえのない存在だった。

 北海道に嫁ぐことになった際には大泣きで父親の代わりに挨拶をしたくらいである。


 今こうして三葉とナミが自分の死後も支え合っていることに、心のどこかでほっとしている大島。


 三葉は破れたチラシを片付けながら、小さくため息をついた。

「もう、墓のことなんて後回しにしようかな……だって……」


 三葉の声がかすかに震えている。


「……お墓に骨入れちゃったら……一人ぼっちになっちゃうじゃない、この家」


 彼女の悲しみが、痛いほど伝わってくる。彼は猫の身体で、ただ黙って三葉の膝の上に座るしかできなかった。


 三葉はスケキヨの柔らかい毛を撫でながら、静かに涙を拭った。

 

「スケキヨ。そうか、あなたも家族の1人よね、ごめんごめん。いつまでも……一緒にいてね」


『三葉、俺はずっとお前のそばにいるよ……』


 彼が猫であることにどんな理由があろうと、彼は今、三葉とともにいる。


 しかしそれは伝わらない。

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