第6話 拝金の魔女
「この街を僕の物にしようかな」
宿に帰った僕はフィディにそう宣言した。もちろん僕のイエスマンなフィディは喜んでくれた。
「素晴らしいです。さすがレゼ様です」
「えへへ」
だんだんと僕も順応してきて、レゼの褒めを嘘っぽいではなく純粋にうれしく思えるようになってきた。
「それで聞きたいんだけど。この街を治めている騎士は拝金の魔女の騎士だって話だけど、拝金の魔女ってどんなやつなの」
「拝金の魔女はその名が表す通り、お金が大好きな魔女です。ご存じの通り魔女が騎士をつくるとき魔女の魔力総量はその分だけ低下します。そのため魔女はあまり騎士をつくりたがりません。しかし拝金の魔女は違います。金を払えば騎士にするのです」
「それじゃあ本人が弱くなってるってこと」
「そうではありません。騎士にするといっても一人一人に渡す力は他の騎士に比べると極端に少なく、魔女としても痛くもかゆくもないほどでしょう。それに拝金の魔女に騎士にしてもらった場合、最初の支払いの後にも定期的に支払いを続けなければいけなくなるため、どんな者でもそのうちに破産して捨てられます」
「つまりあの騎士たちは拝金の魔女にとってはただの金づるでしかないというわけだね」
「はい」
「よし。それなら安心してこの街を乗っ取れるよ」
そうと決まれば明日からこの街を支配するために動き出すことに決めた。今日はもうなんだかめんどくさくなってしまったので、何もしたくない。
「ほらおいで」
ベッドにもぐりこみフィディを呼んだ。嬉しそうに顔をほころばせながら僕のいるベッドの中に潜り込んでくる。
「よーしよしよしよし」
なんだか犬のように見えたので、頭と顎下をたくさん撫でてあげた。
「わふ」
期待通りの鳴き方をしてくれてとても満足だった。そういえば、フィディはいろんなことを知っているがどうしてあの施設の中にいたんだろうか。
「ねえ。フィディはどうしてあの場所にいたの?」
その質問に対してフィディは少しためらった様子を見せた。それまでなら即答していたことを考えるとこの質問はいでぃにとって答えづらいことなのだろうか。
「奴隷として買われたからです」
「なんで奴隷になったの」
「親がちょっと粗相をしてしまったので」
何とも歯がゆい。聞きたいことをきれいにすり抜けていくかのように大事な部分は話してくれない。あまり聞かれたくないことなのだろう。
ちょっと悲しそうな顔になってしまったのでいっぱい抱きしめてあげた。そのままその日は眠りについた。
次の日、起きてすぐに作戦会議を始めた。
「さてと。それじゃあどうやってこの街を支配すればいいと思う」
「街の住人の方から乞う必要があると思います」
ピンと手を伸ばしながら無茶苦茶な理論を展開してきた。でもいい意見ではある。
「確かに。魔女たる僕が支配してあげるっていうんだから向こうから乞うてくるものか」
そう口に出して呟けばなんだかそんな気がしてきた。邪魔をしてくるであろう騎士たちを殺すことは必要だろうが、それ以外はその方向でいいのではないか。
「よし。それでいこう。どうしよう、立て札でも用意した方がいいかな」
「そうですね。それを街の中央に立てておけばいいと思います」
「それじゃあまずは立て札をつくろうか」
ということで立て札づくりをすることになった。まずは手ごろな店で材料を買ってきて部屋の中で作ることにした。
「なんて書こうかな」
「魔女レゼがこの街を支配することになった。よって明日までに上納金として100,000,000シェルを用意するように。などはどうでしょうか」
「いいね。他に思いつかないしとりあえずそれでいいか」
そしていざ書き出そうとしたときに僕はこの世界の字がかけないということに気が付いた。
「やば。そういえば僕字わからないや」
「それなら私が代わりに書きますね」
「うん頼んだ。この世界の識字率ってどのくらいなの」
「40%ほどだと思います」
「おー。思ったよりもいるね」
なるほど。40%か。これでもっと少なかったなら気にしないのだが、そんなにいるのならけないことが少し恥ずかしくなってきた。せっかく魔女になったのだから、すごい魔法の力とかで字が分かるようになったりはしないだろうか。
「今度さ、字教えてね」
「はい」
書き終わった看板を見ても字のうまさは良く分からなかったが、一応いい字だねと褒めておいた。案の定、フィディは喜んでいた。
出来上がった看板をもって都市の中央にある広場に立てることにした。立てるときに物珍しそうに見ていた人たちは、僕たちがいなくなった後に看板の内容を確認しだし軽い騒ぎを起こしていた。
そんな様子を僕は影から見てほくそ笑んでいた。騒ぎを聞きつけたからか偉そうなやつが現れて僕の立て札を見ると怒りながら引き抜こうとしだしてしまった。
仕方がないので見せしめもかねてその男の頭を吹き飛ばしてやると、場はさらに騒然として大混乱が起こっていた。そこで僕は立て札に上納金の受け渡し場所を書くのを忘れていたことを思い出した。でもまあ何とかなるかと思い、その日はそのまま宿に帰ることにした。
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