第7話 支配

 話はその日のうちに街中を駆け巡ったようだった。僕たちの話でいっぱいだ。その時には僕は宿に戻って外から聞こえる喧騒を聞きながら休んでいた。


「でも1日で100,000,000シェルなんて集まるの」


「このくらいの規模の街なら大丈夫です。そもそもそれは最初の手付金のようなものなので、今度はもう少し期限を設けてから要求します」


「ふーん。そういうものか」


 お金は大丈夫そうではある。あとは騎士がどの程度いるかということだけだ。別に障害になるとは思っていないが、もし金を持ち逃げされたりでもしたら面倒である。


「今から騎士たちを殺して回った方がいいかな」


「大丈夫でしょう。そもそもあまり金を持っていそうなやつらではないので、いたとしてもあと1人か2人程度でしょう。問題は必ず裏がいるということです」


「裏って拝金の魔女がちょっかいかけてくるってこと」


「そうではありません。先ほども言ったようにあの者たちに騎士の座が買えるほどの金を持っているとは到底思えませんので、この都市を支配したい何者かが送り込んでいると推測します」


 なるほど。確かにあまりよさそうな感じではなかった。しかし僕にはその相手は全くわからない。そもそも僕はこの世界に来たばかりで常識というものが分かっていないことも多い。元の世界との常識の差異を学んでいた方がいいのではないかと思う。しかしその都度フィディに聞くのもいいと思う。説明してくれる時の自信ありげな顔がかわいいのだ。



 翌日になり、僕はフィディを連れて広場に来ていた。そこには大勢の住人が遠巻きに見ている。


「レゼ様を待たせるなんて許せません」


「まあまあ」


 そう。僕たちは今待たされている。時間にして30分ほどだろう。これは時間の指定も満足にしていなかったこちらに非がある気もしなくもないため、そのまま待っている。


 しばらくすると一人の老人がやってきた。腰も曲がって杖を突きながら歩いてくる。


「あなたが魔女様でしょうか」


「そうだよ。君が拝金の騎士かい」


「違います。まあ、この街の顔役のようなものです」


「残りの騎士はどうしたんだい」


「どうやら逃げ出したようです。この街に騎士は3人いたのですが昨日までにそのうちの2人が殺され怖くなってしまったようです。」


「ふーん。で、金は」


「こちらに」


 老人が差し出してきた入れ物は100枚の金貨であった。


「これであってる?」


「はい。確かに。しかしあなたは本当にこれでいいと思っているのですか」


 圧を発しながらフィディが問いただした。昨日のうちに聞いた話では、この世界のお金はシェルであらわされて、それぞれ

 半銅貨1シェル

 銅貨10シェル

 大銅貨100シェル

 半銀貨1,000シェル

 銀貨10,000シェル

 大銀貨100,000シェル

 金貨1,000,000シェル

 大金貨10,000,000シェル

 白金貨100,000,000シェルとなるらしい。


 それならば金貨100枚で100,000,000シェル。あっているように思える。


「なにがおかしんだい」


「これはシレスト金貨です。確かに昨日お教えした貨幣の価値ならばこれで正しいでしょう。しかしそれは現在この大陸で広く使われているフェーレス金貨の場合です。これは巧妙に偽装していますが、間違いなくシレスト金貨。シレスト金貨の質の悪さは有名で、価値はフェーレス金貨の100分の1ほどになるかと」


「100分の1ってそれじゃあ1,000,000シェルにしかならないじゃないか」


「はい。ですのでこうして問い詰めているのです。あなたはレゼ様に抗うものかと」


 老人からは冷や汗が滝のように流れ出ている。よほど動揺しているのだろう。フィディの宣言に周りで見ている者たちもざわめきを大きくしている。


「今、この街にはその金貨しかありません。それどころか、現在この国アルタサ王国で流通しているものの大半はシレスト金貨になります。」


「どういうことですか」


「なにがなんやら私共のような下々には見当も付かず。ただ流れてくる金貨の質がどんどんと悪くなっていくのです」


「それはいつごろからですか」


「半年ほど前からにございます。ちょうど拝金様の騎士がこの街をお治めになり始めたころからです。」


 これは仕組まれていたとみるべきか。それともただ単純にタイミングがかぶってしまっただけか。


「どういたしますか」


 フィディが僕に聞いてくる。このままこの金貨で受け取るか、それとも突き返してしっかりとフェーレス金貨で支払わせるかということだろう。正直金に執着はあまりないのでこのまままでもいい気はする。が、かといってそれでなめられたりされたら癪だ。ここはくぎを刺したりしなければいけないだろう。


「これが真意ということでいいのかな」


「とんでもございません」


 老人は頭を地面にこすりつける勢いだ。この地域に土下座の文化があるのかは知らないがあってもなくても相当な屈辱だろう。


「今回はこれでいいだろう」


「あ、ありがt」


「ただし、1週間だ。1週間以内に再び上納金1,000,000,000シェルを集めてこい」


「い、1週間でございますか」


「そうだ、それもすべてフェーレス金貨で受け付ける」


「そ、それだけはご勘弁をお願いしまう。今この街にフェーレス金貨はないのでございます」


「それって僕に関係あるかな」


 少し魔力を放出しながら言う。ざわめいていた周りの連中も押し黙った。静寂の中老人は苦渋の決断を迫られている。呻く声がしばらく続き、老人は答えた。


「ご用意いたします」

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