第9話 方針
なんでムトウが死んだのか?についてはあっさりと間違えて飲みすぎたという結論が出た。
真実は私とムイの胸の中に秘められるとして、次のリーダーをどうするかまだムトウが決めてなかったのもあって話し合いになる中、私は角に行こうとしたらムイに手を掴まれてしまった。
「ナナミも話し合おうよ?」
「そいつは零番じゃないだろ?」
「別にいいでしょ?みんなのリーダーを決める話し合いなんだしさ、別に他のリーダーが意見言うのも自由だし」
「ムイ以外が良いと思ってる奴がいるならいいんじゃないか?」
「私は山田ちゃん居てもいいと思うよ、というか零番に入っちゃえばいいのに?二十八番ってもう山田ちゃんだけでしょ?」
別に拘りとかはないのだが、私は中央に居たくない。
話しが進んでいく中、何故か私が会話に混ざることになって、知らない人物の自己紹介が始まる。
「俺はシシー、よろしくなナナミでいいんだよな?」
「はい…よろしくお願いします」
「僕はクシン」
「よろしくお願いします…」
他は知ってるので会話も特に広がることなく、足にリュックを挟んで体育座りでとりあえず居心地の悪い中央で話しに形だけ参加するつもりで聞く。
最初に言葉を出すのはタロウからのようだ。
「ククがムトウに任せるって言ったわけだけど理由覚えてる奴いるか?」
「知らなーい」
ククがいないと協調性がないのか答えるのはオクラだけ。いや、ムトウがいたなら協調性はなくても会話が広がったかもしれない。主にムイとの言い合いかもしれないが。
この状況にタロウも困った様子で頭を掻いている。
「ナナミちゃんはどう思う?ククと仲良かったよな?」
いくら困ってるからと言っても私に話題を振らないでほしい。ムイが誰をリーダーにしたいのかによっては反感を買ってしまう。
「ククは誰にでも仲良かったと思います」
「そう、だな…ムイはどうだ?ムトウと対等に話してたのってムイくらいだろ」
「私は嫌かな。それこそムトウの意見と割れてたのに私がリーダーになったら不公平でしょ?それならタロウが一番向いてるんじゃない?今も話し回してるのタロウでしょ?」
「俺はそれこそ優柔不断だから無理だろ。じゃあムトウの意見に賛成してたシシーはどうだ?」
「俺も無理かな…ムトウが頼りになるから賛成してただけだから、今は頼りにしてるのはタロウだよ」
「俺か…」
何だか知らないがタロウで話しがまとまりそうだ。私の前にいるのがタロウじゃなくなると思うと心細いが、関係ない私から見ても発言意欲だけ見たらタロウがこの中なら向いてるのかな。
楽しい雰囲気にしたいというならオクラもありだとは思うが、それならムイがリーダーをするって方が納得する。
これ以上意見が出ることも無く、タロウがリーダーという流れで終わりそうだ。
「仕方ないか…みんな!聞いてくれ、今日からリーダーを俺がするタロウだ」
全体に伝わるように言ったところで私がここにいる意味もないだろうと、立ち上がって角に行く。
あそこに止められた意味はあったのだろうか?ムイが何をしたかったのかよく分からない。
もしかして私がムトウを殺したのはムイだとばらすか試してたとか…。考えすぎか。
あれだけ一緒に殺人の算段を立てていたのに裏切るわけがない。むしろムイに私が犯人だと言われた方が周りも信じるだろう。
角に座ってオレンジを食べながら中央の様子を見るとムトウがいなくなったからか笑い声など明るい様子が見られる。
シシーという男もムトウ派だったのにあっさりとしたものだ。あとはムイが意見を通すかどうかだが、タロウが自分で優柔不断と言ってたのもあって多数決でもして二手に分かれるようにしてくれればいい。
こんな短い期間で頼りだった零番が二人も死ぬとなるとセーフルームも安全とは言い難い物を感じる。
誰かに水を渡されてもペットボトルじゃなければ信用しないようにしなければ。
五番の様子は余り落ち着いてない感じだ。セーフルームで死亡者が出たからか、はたまたリーダーが代わるのが早かったためか。
他の番号はなんというか冷めた感じだ。元々無気力な者が大半ではあるが、ムトウが人望があったのかもしくは事故死と思ってないか。
どちらにしても食料はまだあるんだ。その間までのんびり過ごせることに変わりない。いっそ一人死んだ方が食料が増えたと思えば調達の不安ばかり考えるよりも前向きになれる。
そろそろ眠ろうと思ったら今度はタロウがこっちに来る。零番は私に対して何か恨みでもあるのか。
「ナナミちゃん、寝ようとしてるところ悪いんだけどちょっと相談いいか?」
「いいですけど…」
相談と聞いて良いものが何も思い浮かばない。
「ムトウとムイが言い合ってたことなんだけど調達を二手に分かれるかクク達がやってたみたいに一列で向かうか。どっちがいいと思う?」
「なんで私に聞くんですか?」
「他のリーダーにも聞こうとは思ってたんだけど眠ろうとしてたからさ」
「そうですか……私は二手に分かれてもいいのかなと思います。理由は零番が罠や怪物に一番詳しいですが、それを見ることもできずに死ぬ後方がいるからです」
「そっか…ムイも同じようなことを言ってたよ。それじゃあ調達に行く頻度についてはどう思う?」
「頻度?」
「今は交渉もあって食料に余裕はあるけど、毎日でも行くべきか俺は迷ってる。また二十八番みたいにやってくる人たちがいないとも限らないから食料が今足りてもまた足りなくなるかもしれない」
「扉は毎日確認するべきだとは思いますけど。知ってる場所に出るかもしれませんし…。私達が取ってくる食料って怪物が貯めこんでいるのを奪ってるんですよね?それなら果樹園のような場所があると思うのでそこさえみつければ腐らない程度であれば結構な量は大分助かるかなぁとは思います」
自分なりに思ったことを垂れ流してるだけだが、それで満足してくれたのかタロウはひとしきり頷いて私に。
「ありがとうね。睡眠の邪魔してごめん助かったよ」
何かの参考になったならいいけど調達のやり方についてだけは何とも言えない。
ムイがリーダーをタロウにしたかったということは、ムイがタロウのいる方に行きたいのか、それとも別働で動きたいかで私の位置も変わりそうだ。
それからタロウが私に言ってた通り各番号のリーダーに意見を聞きに行ってるので、最終的にどうなるかは決まったら発表されるだろう。それまでは寝て過ごす。
起きればムイが隣で眠っていて、少し驚いたがどうしたのだろうか。
中央を見ればムイ以外の連中は集まっている。私の近くで眠るなんて何か用事があったのか。起きるまで時計を見ながら待って、ムイが起きると私の方を見て微笑む。
「おはようナナミ」
「…おはようございます」
「なんか寝付きが悪くてね、邪魔じゃなかった?」
「大丈夫ですけど、珍しいですね。零番で固まったほうが安全だと思いますけど」
「なんかさぁ…私があそこにいると周りがどう思ってるのか気になって落ち着かないんだよね。調達でもないのにムトウが死んでも事故で済ましてるの最高にイカれてるわ」
殺した張本人の言葉なら格別にイカれてることだろう。罪悪感でもあるのか味方かどうか不安になってるのかもしれない。
「実際中央より角の方が落ち着きますからね」
「あはっ、そうだね。ただ調達を何度もやってると壁際って怖く感じるものなんだよ。ナナミはまだ大丈夫そうだね」
そう言われて納得する。なんで零番が中央にいるのか単純にリーダーシップを取りやすい体と思っていたが館の廊下を何度も経験していれば壁際に何か仕込まれていたり、絵画なんかも大抵は壁だ。
もう少し心情を察してあげたらどういう理由で行動したがってるのか分かるのかもしれない。
「聞いていいのか分かりませんが、ムイは…零番はこの館に結構長くいるんですよね?」
「そうだね。って言ってもナナミが知ってる人なら一番長かったのはククだと思うけど。私だって半年程度だよ。もっと前からいた人らはその間に死んでいったし知ってることだけを残していった。最低なやつもいたし、最高なやつもいた。売り買いは一カ月に一回の頻度で来るし、迷い人も一カ月に一回程度のペースで来る。私が来てから迷い人でまともだったのはナナミくらいだから、ナナミの時にはもう迷い人を匿うのはやめようって言ってたんだけどね」
少しずつ語られていくが、一カ月に一回迷い人が来るというのだけは気になる。
そう考えるなら部屋の移動が一カ月周期でサイクルしているのではと考えるが、それならもっと早くに気づきそうだ。仮説が間違っていてもそれに近い形で部屋が移動してるのだとしたら人数を無理に増やさずある程度犠牲を承知で整えていたら生きることは可能なのか。
いや、ククが死んだ件を考えるなら最悪の形で道連れが起こるから確実性はないのか。
内部で争った現状も好ましくはない。
もし殺害したとなればムイが追放されるのは構わないが、それぞれが疑心暗鬼になって誰も協力しなくなるかもしれない。
ムイの話しを聞いていると、中央の零番が起きたのかそれを皮切りに眠っていた連中も起きはじめたりして、タロウが立ち上がる。
「みんな聞いてくれ、色んな意見を聞いて回ったが。これからの調達は二手に分かれて行うことにする。そして分かれ方だが零番の方で指名していくからそれについていってほしい。そしてもう一つ。調達に関して次の新参者が来るまでにある程度余裕を持って食料を確保して迎えれるようにしたい。まだ先の話しだがそれができれば下手な混乱を避けれるはずだ」
ムイの案が採用されたわけだ。
調達に関しては少し曖昧に聞こえるが、私がここへ来たときのことを考えたらあと三週間程度先の話しだろうか。
日にち間隔も狂ってるが、それを確認する方法があるわけでもないし、零番に任せよう。
「ムイ、こっちへ来てくれ。次の調達日と指名をやっていこう」
「はーい。またねナナミ」
また。ということはムイは私を指名するつもりなのか。
派閥的な話しでいくならムイ、オクラ、クシンだが、今零番は奇数だ。三人いる方が明らかに有利になる気がする。
そこの辺りはどう妥協点を作るつもりなのかタロウ次第だな。
シャワー室で水を飲んだり、時間を潰していると話しが終わったのか。再度タロウが全員に聞こえるように喋りだす。
「零番から毎回四名を選出して進んでもらう、一人は食料の管理だ。五番は多くいるから居残りが残った零番の指示に従うこと。あとは各番号のリーダー達には都度いつものように前後の確認をしてもらうようにする」
休み役が出てくるのか。たしかに五番が現在半分を占めているこのセーフルームだと信じれないか…。
「調達は明日から再開していこう。食料もそうだが、人数が増えることを想定していくから優先するのは水分、果物という風にしていこう」
ククの時とは違って予め連絡してもらえると助かるが、水の隠された場所が都合よく出てくればいいが。
前回は私が参加してないから場所は知らないし、今後も見つかる機会に巡り合えたなら覚えておきたい。
ムトウの件があってからどうなることかと思ったがタロウが前もって連絡をすることでみんなも幾分か空気は変わっていって、安堵する。
五番のリーダー三人だけは不満があり気だが、もしかしたら何か意見を出して却下されたか、単純に調達に行きたくないだけかもしれない。
話しは終わったと思い、明日に備えてすることもないし、中央で配給だけもらったら角に戻るのだが今回もムイが一緒に付いてくる。
「どうしたんですか?」
「一緒にいたいだけじゃだめ?ナナミは一人が好きなの?」
「そういうわけでは…」
「じゃあ一緒にいようよ。それと明日だけど私とクシン、タロウとシシーが調達ね。オクラなら五番とも仲良くできるだろうって考えらしいよ、心配だけどセーフルームで問題を起こせば追放だしね。何事も無いと思うけど」
別に聞いたわけでもないのに教えてくれるのは仲間意識からだろうか。零番の思惑を私に伝えても仕方ないとは思うが。
「明日は私が最初に指名してみせるから安心してね。クシンもあんまり喋らないやつだけど罠とかそういうのすぐ気付く奴だから大丈夫だし、生きて帰れるから」
そう言いながら私の手に指を絡ませてくる。
期待はしているんだがそこまでしなくても向こうにはタロウがいるからどっちになっても大丈夫だとは思う。
「ナナミ?」
「えっと、ありがとうございます」
「ナナミは私と一緒の方がいいよね?」
「そうですね。知ってる人がいると不安は紛れますから」
「違うんだよなぁ。けどナナミがそういうドライな性格してるから良いのかな。オレンジ今食べるの?皮剥いてあげるよ」
今食べるつもりではなかったのに勝手にオレンジの皮を剥いて私に食べさせてくれる。
何かしたわけではないがやたらと好感度が高く感じるのは気のせいではないだろう。
オレンジを食べ終わればすぐに手を繋いで来て寝ようとすれば、一緒に横になる。
いつもはハンカチで目を隠しているのにナナミが前で寝転がるためそれが出来ずに目蓋を閉じても少し眩しい感じがあり休んだ気がしないまま時間を一緒に過ごしていく。
私達が一緒に寝てることで、まだあまり時間が経ってないがオクラがこちらに来たのか、呆れた声で喋りだす。
「ムイはまた山田ちゃんと一緒なんだね。山田ちゃん邪魔なら追い払ってもいいんだよ?」
「いえ、別に。誰かが一緒にいてくれる分には心強いので」
「冷めた意見だね…仲良いとか寂しいとかそういう言い方の方がしっくりくるよ。いいけどさ。ムイは反応してないけど寝てるのかな?ムイが気に入ってるっぽいし出来れば死なないでね」
「善処します」
中央に戻っていくのを見て、何しに来たのか分からない…。ただ励ましに来たのかな。
それからはひたすら眠るか起き上がってもムイが隣にいて話しかけてくるのだが、私が寝辛いだけで過ごしてしまう。
時間も過ぎてもうすぐ日の変わり目になるというところで零番が集合してからどちらが先にメンバーを決めるかという話し合いが始まる。どちらもクシンが先頭なのか、クシンとシシーがじゃんけんを始めてシシーが勝つ。
じゃんけんで決めるならもっと早くから決めればいいのにそうしない理由とかあったのだろうか。
「俺は最初にナナミを選ぶ」
「はあ?シシーもタロウもなんでナナミを選ぶの?お前たち仲良かったわけでもないのに」
「何怒ってんだよ…タロウと話し合った結果だよ、リュックを持ってるのはナナミだし普通だろ」
リュックを持ってると死にやすいそうなので守ってくれればどっちでもいいけど変に喧嘩を売って空気を悪くしないでほしいムイ。別に誰を選んでも特に変わらない気がするし。
帰った後にムイが生きていたらまた密着されるのかと思うと今から気が思いやられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます