第7話 シークレットディール
ムイからどうなってるのか話しが聞けて良かった。疑心暗鬼のままいるよりは状況が少しでも分かる方がまだなんとかなる。
とはいえ二十八番がこのままだと私だけになるというのは実質零番とやることが変わらない。
人数も減ったことで食料的には四日分くらいはあるだろうか。水分も多くはないが果物と併用すればマシと言える。
私は相変わらず角で座って中央でムイ達が話し合ってるのを聞いてるだけだが、今後の予定はどうするつもりなのだろう。もう少ししたら売り買いが行われると聞いていたが。
少なくとも今日は調達には行かないのだと思うが、それでも十五人で調達するとしたら四日分の食料が少なく見えて仕方ない。むしろ動ける活力があるうちに動くべきではないだろうか。
この館がどういう仕組みなのかは分からないが知ってる場所も存在するというのなら…いや徘徊する怪物もいると言ってたから結局運でしかないか。
それにしてもククがいなくなったからか中央ではあまり笑い声が聞こえない、というかなんなら少し揉めてるように小声で話し合ってる。
秘密事というと売り買いの話しに関してなのかもしれないが、現状売られるのは居残り組で女性だと言うのはムイから聞いていたから私は安心してるつもりだけど。
やがて話し合いが終わったのかムイがこっちに来る。
「ナナミの意見を聞きたいんだけど良い?」
「私の?」
「調達の探索範囲を広げようと思うの、正確に言えば二手に分かれて調達を行うってものなんだけど」
「今の人数でですか?それぞれ七人くらいになると思いますけど」
「だからこそよ、片方が不作でも片方が豊作になればなんとか食いつないで行ける。危険もその分あるのは分かってるけど今までまとまってたのはククが居たから、いなくなった今はムトウに付いていけないわ」
私としては多少気心知れてるムイの味方をしてやりたいが、片方ずつで調達を行って片方が不作だったらムイが今まとまってないって言ったみたいに争いの元になる気がする。というかなるだろう。
そうなったらそもそもリーダーがムトウというのが無理な話しなんじゃないのか。
私の意見と言われても、内部で争うほど余裕はここには無い。売り買いで人員補充すればその争いは余計激化して多勢に意見は押しつぶされるだろう。
「少し声を抑えてもらっていいですか?」
「あ、ごめん。ナナミはどう思う?」
「ムトウに付いていけないなら多分ずっと争うままだと思います。セーフルームが幾つもあるなら新しいセーフルームにお世話になる方がいいんじゃないんですか?」
「そしたら向こうも同じような意見だったらずっと危険な館を徘徊しないといけなくなるわ…」
「それじゃあ…ムトウを殺すしかないんじゃないですか?」
ムトウと同じ意見を零番がどれほど持ってるか分からないが、ムイの意見を通すならムイがリーダーをやったほうがいい。ただ殺すにしても調達の事故死をやるのは熟練の零番が早々起こすとは思えないが。
私の意見を述べたつもりだが、ムイは本気にしているのか考えている。私の事を責めるわけでもなく純粋に私が言ったことを考えている。
正直ここまで意見が対立してるならどちらかが折れるか、本当に殺すしかないのかもしれない。
「ナナミは?」
「え?」
「ナナミはどっちの味方?」
それはムイの味方って言わないと私に殺意が向くんじゃないかな。本人に自覚があるか分からないけど当人から質問されたら答えは一つしかない気がする。
「ムトウの話しを聞いてないので何とも言えませんが。零番の罠察知能力があるなら二手に分かれても良いとは思います」
「そう!じゃあ私の味方ってことね」
そうは言ってないが…。本気でやる気なのか?ただでさえ人員不足なのにここで零番のムトウが死ねば大幅に死が近づく気がする。安易に殺せば?なんて言うべきではなかったかもしれない。
今零番にいる人数は六人。ムイ、オクラ、タロウ。この三人は会話もしたことあるし覚えている。
逆に知らないのはムトウと男二人。
ムイの意見に何人が賛成なのかは分からないが、偶数なだけに意見が三対三で分かれたらもっと言い争いが苛烈になりそうだ。
お願いだから平和的解決を求める。
あとは売り買いの結果次第にもなるかもしれない。どんな人物が来るかは分からないが女を買いに来るなんて時点でまともじゃない。食料の交換とかなら理解できるが…それとも娯楽に飢えた結果なのか?
まともの基準がここでは狂ってる。追及しても仕方ないが平気で仲間と言ってた人を殺すし、思えばククも無理に協力しなくてもいいとか言って協力しないと食事抜きとかほぼ強制するようなことを言っていた。
ここに来てから何度零したか分からない溜息を吐いて、中央の様子を見るがククがいた時と違って殺伐としている。
そんな中、トイチ…確か九番だったか、トイチがこちらに来る。
「よっ」
「どうも」
「ハチロウだっけか?死んじまったな」
「そうですね…ククを巻き込んで死んだと聞きましたけど?」
「あぁ…ありゃ酷かったな。今回は寝床に怪物が寝てたんだがそれ見て発狂しやがってよ、ククに詰め寄って怪物もどうなってるのか分かんねえ状況でククが大きな声で怪物を誘導したんだよ。結果的に俺らは飯を奪えたが、クク一人なら逃げれたかもしれねえけどしがみつかれて動きづらい状況で最後まで抵抗して千切られて食われた…もう言った後だけど言って良かったか?辛いなら悪いな?」
「知りたかったのでむしろ良かったです」
「冷めてるよなあナナミちゃんはさ…まぁ、だからここに来たんだけどよ」
だからここに来た?ムイの次はトイチがなんの話があるのか。というか九番だから零番とは関係ないから別の話しか?
「ここから出て行かねえか?」
「は?」
「まぁ聞いてくれ。ナナミちゃんは知らねえかもしれないが、他にもセーフルームがあるんだよ。そこで食料も豊富、人員も豊富な奴らがここに商売に来るんだ。女を買いにな?それに付いて行かねえか?」
それはつまり私を売ってこいつが安全なところに行きたいだけでは?いやそれなら最初から騙すつもりで女を買いに来るなんて言い方するか?
「それなら最初からみんなで行けば良くないですか?」
「それが向こうも受け入れは基本的に拒否してんのよ、女だけは買うらしいが俺とカップルってことなら付いていっても多分文句は言われねえと思ってな」
「余計分からないです。あそこの壊れた女と恋人ごっこすればいいのに」
「零番からしたら二十八番はナナミちゃん以外は売りもんだよ。だからこそ向こうと交渉できるってわけだ」
話しがややこしくなってきたというか不穏になってきた。これを断ったらトイチから反感を買って恨みを貰うことになるし、承諾すれば向こうで私がどういう扱いされるのか分からない上に断られた時ムイから恨みを買うことになる。
どっちにしてもこの話が出た時点で誰かから恨みを買ってしまうし、私が安全な保証なんてどこにもない。素直な気持ちで断るか。
「それは商人?も女を買えればいいので恋人ごっこをしても私の扱いがどうなるかわからないじゃないですか」
「だめか?俺がなんとか説得してみるからさ」
「折角ここの人達が少しずつ分かってきたのに、誰も信用できない所には行きたくないです。ここも似たようなものですけど、女を買いに来る人達をまともとは思えません」
「そっかぁ…じゃあ悪いな聞かなかったことにしてくれや」
出来る限り穏便に断ったつもりだがやけにあっさり引き下がったな。
私が頷くと何故思ったのか。それとも私が学生の格好だから騙されやすいとでも思っていたとか?
零番だけでなく調達するグループからもこのセーフルームから離れたがってる者がいる時点で崩壊寸前なのかもしれない。
まだ来たばかりで数日しか経ってないのにどいつもまともじゃない。
二十八番の女性陣は何も知らない顔をしているが売られる予定だと知ったらどうなることやら。
私はオレンジの皮を剥いて口に入れると、そろそろ固形物というか。果物じゃなくてジャンクな食べ物が恋しい。食べられるとは思わないが、調理器具があれば調達の際に肉があったからタンパク質を確保できる。
私はハンカチを目元に置いて横になり、今日が過ぎるのを待つ。
____________________
床が固いせいか、安眠とはほど遠いと結構な時間を寝たつもりでも疲れは取れないし寝れたと思えない。
体が固くなりすぎてる気がして軽い柔軟を座ったまましていると誰も出てないはずなのに扉が開く。
そこから入ってくるのは男性が二十人程、しかもリュックなどを背負っている。ショルダーバッグでいいから欲しいと思える。裕福な感じだ。
トイチが私に言ってくるのも理解できる。見ただけで栄養を取れてそうな奴らだ。
扉を閉めた後に喋り始めて。ちゃんと館のセーフルームがどういうものか理解しているのも見て取れる。
「ククはどうした?」
「あいつなら死んだ」
「はあ?まあいいや、どいつが交渉してくれるんだ?」
「俺が交渉する、ムトウだ。今回はどんな交渉をしてくれるんだ?」
「一応持ってきたのは食料だな。日持ちするのは乾パンくらいだが、あとは果物が大半だ。って言っても見た感じ困ってるのは人間か?」
「予め相談はしてある。乾パンと水を交換したい、それと人間もだ。女性を三人匿ってもらいたい」
「三人?あそこの寝そべってるのは分かるが残り二人は…あのちびっ子なら歓迎だが」
物は言い様だなと思う。実際は売り買いしてるだけなのに匿ってもらうとか言って適当に濁している。
ただちびっ子と言われ指を差される。私が学生服だからなのか注目を浴びやすいらしい。
「あれは戦力だ。あっちの二人で固まってる方だ」
「そうか。まあ戦力なら仕方ないわな」
「それと子供も匿ってもらいたいがどうする?」
「子供ねぇ…」
居残り組でなんだかんだ調達もしてない寝転んでる子供だが、パッと見男女両方いる。
やはり女しか買わないのだろうかと様子を見てみるが、じろじろ細かく見た後に喜んだ声を出す。
「いいね!匿うぜ。ただ人員に関してはろくなのがいねえし今回は危険な道だから全員連れてくる保証ができねえ。それを踏まえて果物で渡していいか?乾パンも今回は大目に渡す」
「気前がいいな…」
「うろうろしてんのよ怪物が。どういうわけか知らんが今日は特に多い。連れてこれるのは二十人だが減るかもしれないことを先に言っとく」
「そうか…食料はこちらで点検する」
何故リュックを誰も欲しがらないのだろうか?あれがあれば少人数でも今よりは楽が出来そうなのに。
それとも非売品なのか?
私がじっと入ってきた連中を見ていると気になったのかこちらに男が一人来る。
「どうした?匿ってほしいのか?」
「いえ、リュックは非売品なのかなと思いまして」
「リュック…?リーダー!リュックって売ってるんでしたっけ?」
「あぁ?売っちゃいねえが…ちびっ子が欲しがってんならお前のくれてやれ」
「だ、そうだ?いるか?」
「いいんですか?払えるものないですよ?」
「こっちで作れるからなぁ…なによりリュックなんて背負ってると死にやすくなるだけだぞ?」
向こうのリーダーの話しだと売ってないと言っていたし貰えるなら貰った方がいいだろう。死にやすくなることについては後で考えればいい。
「欲しいです」
「荷物整理するから待ってな」
そう言うと、ムトウの所にいって果物などをリュックから取り出していく。
向こうのリーダーと話し合いながら荷物の中身を話し合った後こちらに戻ってきてリュックを普通にくれた。
案外悪い奴ではないのかもしれないが、作れると言ってた辺りここと向こうでは相当文化的な差がありそうだ…。
「中身サービスな。ちゃんと生きろよ」
そう言って渡されると中身を見たら乾パンが入ってる。喉が渇くから良いのか悪いのか困るが、貰えるなら助かる。
「ありがとうございますお兄さん」
「いいよ、帰りが楽になるしな」
集団の中に戻っていって、私は改めてリュックを見るがファスナーではなく紐で縛るタイプのリュックみたいだ。素材はしっかりしているが布製なところを見るにこの館に来て死んだ人の服を使っているのかもしれない。
あまり縁起の良いものではないが作りはしっかりしているので今後が楽になる。
大事に抱えると、なんだか生暖かい目で見られてる気がして大人しくやりとりを眺めていると、ムトウ達が女性や子供に向こうの方が安全だからと説明して付いていくように言う。
実際見た目だけなら向こうの方が裕福だからそれを信じて女性たちは付いていこうとする。
ただ二十八番のワンピースを来ていた女性がこちらに来てカーディガンをくれた。
「ごめんね…何もしてあげられなかったのに私達だけ逃げて」
「いえ…貰っていいんですか?」
「こんなものしかあげれないけど、お礼だから…」
騙されてますよなんて言い出せないが、私の手元にどんどんククのハンカチやら遺留品で作られたリュックや、これからどうなるか分からない女性のカーディガンとかどんどん縁起が悪い物で溢れていく。
折角なので羽織ってからお別れを告げておく。
「どうかお元気で」
「ありがとうね。ごめんね」
子供達は男たちが抱っこするか背負って連れて行くらしい、その際に狂った女もだが目隠しと口を布で塞いでいる。
女性二人には怪物に見つからないためとにかく喋らないように告げてセーフルームから出て行って。
残った私達はかなり少ない人数になった。二十八番も私だけ。
零番の六人と九番のトイチ。残りは何番か分からないが男性が八人ほど。
合計でも十六人…貰った食料を合わせたらかなりの日数立て籠れるだろう。だが取引がちゃんと上手くいけば二十人追加されるからやはり心もとない食料かもしれない。
ムイがこちらに来てから頭を撫でてくる。
「よくやった!遺品はうちらは扱わないようにしてるけどリュックはでかいわ」
「非売品って言ってたので助かりますね」
やっぱり零番の連中もリュックみたいな物は欲しかったようで、ムイが相当喜んでいるからねだって見て良かった。
話してる感じだけならまともなのに。この生活にあんなに順応してるなんて凄いな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます