ラブレターは笑わない

フラれた・・・


これで3回目だ。何がいけなかっただろう。グイグイ行き過ぎたか?ショートメールがキモ過ぎて蛙化現象してしまったか?


・・・ま、良いかまた作ればいいし






アイツ珍しく机に座ってる・・


じっとしてるのが苦手で授業が終われば直ぐにどっか行ってるのに。朝から机に座ってぼーっとしてる。


あ、女子が来た。お、男子も来て鉢合わせだ。みんなアイツと話したくてたまらないだろうな。



・・・いいご身分だ、顔が良ければ何もしなくてもこっちから来るんだから。それに比べ俺は・・・



ウァッ、キモ、

キョウモイル、

ガッコウニクンナヨ、

マジキモイ




「キモオタ!今日も学校に来れて偉いでちゅねー」


「昨日はナニで抜いた?」


「〇〇子が言ってたぜ、"席替えで隣になったらイヤ・・かな"だってさ。やばいだろ、あのクラス委員でさえ言ってたんだぞ」


いじめっ子たちだ。俺は別に軽蔑しない。クラスのみんなは自分と話す奴なんていないし、ましてイジメるなんて俺以下だと思っているし、



今日も精神的苦痛を耐えて放課後になった。こんなクラスがある癖に、高校は進学校だ。・・十年前を堺に東大京大に受かった奴はいないが、難関私大ぐらいは受かってる。


俺は馬鹿だから、文系クラスしか入れなかった。数学が壊滅的に終わってて、小学校の時、毎晩泣きながら勉強してたのに、たったの50点しかとれなかった。それ以降、数学は諦めた。高校受験はそれなりの学校を受け、落ちてたと思ったが何故か受かった。


小中学校を通して虐められていた俺にも安らぎを得たかに思ったが、前よりもさらに陰湿で、精神的にもキツイ生活が俺を待っていた。


話しかけられる事は無いが、やむを得ず話しかけるが当たり前のように無視・・・と思いきや、ちゃんと応対してくれる。親切にも丁寧でもないが応えてくれる。ただそれだけ、でも何故か俺以外のみんなとは違う。ぼっちとは違う疎外感を感じる。


そして、例の陰口だ。授業中は無いが、休憩、昼休みといった先生の監視が無い時に、耳をすませば聴こえるぐらいの声で俺を攻撃してくる。陰口の対象は解らないが、恐らく自分の事だろう。それが唯一、クラスが俺を嫌っている理由だ。


部活はやって無かったので、そのまま帰る。すると、下駄箱の靴の間に紙が挟まっていた。いつもの悪戯かと思ったら、手紙だった。


思わず驚き、慌てて手紙をリュックに入れて急いで帰宅した。


家に帰り、ドカドカと運動不足の身体を振り絞り跳ね上がるようにして階段を駆けた。


これまでの日常とは違った感覚に全身の神経が昂ぶる。汗をかいたのも久しぶりだった。


封を切る。ラブレターだった。そして女子の字だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


キモオタ君へ


いつも毎日虐められてるけど、全然キモくないよ。学校に来てるだけで偉いよ。むしろイジメてる方がキモいよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それだけだった。いかにもショートメールで送ればいいい内容だけど、理由は納得できる。グループメールだとバレるし、グループから登録して個人でやっても友達とかに見られたら終わりだし、名前も書く必要がない手紙のほうが何かと都合が良い。


何だか分からないが、スゥーと突き抜ける気分だった。人生で初めて家族以外で嬉しい気分を味わった。手紙という意外性に加え、筆跡がこんなに暖かいものだとは思わなかった。


返事を書いてみる。コピー用紙で封筒もどきを作り、またコピー用紙を使って手紙を書く。返事が来てくれると良いな、と淡い希望を抱き、長期休暇直前特有の焦れったい気持ちが湧き出た。


翌朝、手紙を受け取ってくれるのを願い、自分の下駄箱にバレないように挟み込む。そして、いつもの一日が始まった。


放課後、下駄箱を見る。手紙はあった。というよりそのままだった。


失意・・・というより半ば諦めていた。俺をからかってるだけだった。


その日は高校なのに珍しく提出型の課題があったので寝る前にやる事にした。スマホで課題を解いている時、あの手紙と似た文字があった。というか同じ字だった。しかも、〇〇子のだった。


善悪の審判を経ずに彼女の下駄箱に入れてやろうと思った。


そして翌朝、早く登校して、彼女の下駄箱に手紙を入れ、朝自習の子がいる図書室へ潜った。


いつも僕が登校する時間に教室に入ると、男女大人数が、提出課題と、・・・そしてあの手紙とで見比べしていた。


足が震え、何とか着席した。


「あ、これじゃね?」


前の男女たちが見る。そして振り返って自分を垣間見た。


しばらくの沈黙が過ぎ、



悲鳴だった。

キッモ!

マジでキモい!


自分の席の周りの男女は飛び出し、奥の方へ退避する。僕を囲む円環が形成された。


「お前の・・・字・・だよな?」


「ぼ、僕は——」


女子の悲鳴があがる。


「近づかないで!!!」


またある女子は泣き出し、周りの女子に慰められていた。


「なんで!!僕の、俺のじゃないし!!!」


また悲鳴があがる。けど男子らは冷静だった。


「みんな、落ち着いてくれ。まだコイツが犯人とは決まってない。・・・それより見てくれよ、傑作だ。今から読んでやる」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そうだね。キモオタをイジメるのは良くない。早く先生に相談するべきだ。


君の意見は参考になるよ。クラスの平穏を守るためもそういった意見は受け容れるべきだ。


毎日おかしな悪口が聴こえるし、イジメも横行してるからクラス委員の君がそう思っているなら嬉しいよ。


悪は断罪しなければならないって、とあるアニメキャラが言ってるし、僕たちも何とかしないといけない。


君のラブレターありがとう。また返事くれるといいな


名もなき男より


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



空気をつんざくような大爆笑だった。その様子に隣クラスからの野次馬が来ていた。


みんな笑っていた。


フラレていたやつも、


虐めていた奴らも、


女子も、


男子も、




〇〇子も






そして自分も

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