第29話 秋は乾燥芋の季節 ④

りさが甘さに寄せるブランディングをすると言っていたが、

俺はそうは思わない・・・


対抗心か?


いや、芋羊羹だって甘さ一辺倒じゃない、甘さとほっこりのバランスだと思う。


俺はそう思い、りさとは違う方策を探り始める。



としやはりさやカミーネとは違い、水戸にある農業科の高校に通っていたので、

まずはサツマイモの品種改良の経緯と現存する種類・特徴を調べた。


サツマイモは約60種類あり、茨の城領で造られているのは約10種であった。



これで、種類はだいたいわかった、その中で最高の乾燥芋を作るなら・・・

「考えるよりも食べてみるか」


俺は週末になると、領内の焼き芋カフェや専門店に足を運び値段や売れ筋を調べ、実食を繰り返しリサーチを重ねた。


これは、昨年の笠門の栗祭でボランティア活動に参加し、周辺の聞き込みを担当した経験が生かされた。


事情を話し、店員さんに話を聞くと、親切に色々と話してくれ、中には社長さんや調理長の話を聞くこともできた。


俺はそこで極めつけの話を聞くことができた。


「今、一番はあそこでしょうね」

ある焼き芋専門店の女店主が教えてくれた。

なんでも、サツマイモの管理体制が凄いらしく、一年中サツマイモを出荷しているそうだ。

その名も、


第131号・・・行方かんしょ


早速、次の週末に行方に行って、見た。

俺が驚いたのはそのブランディング力。


かんしょ=さつまいもの徹底管理、焼き芋マニュアル、同じ品種であっても、畑ごとの個性を活かし、生芋用、焼き芋用など、一本一本最適な状態を見極めてから出荷している。


「芋への愛を感じる・・・」


目から鱗が落ちる・・・俺は人生で初めてそう思った。


ウチのやり方が良いとか悪いとかじゃない・・・

そうやって守って来たのだろう。


でも、今、知った。

選択肢は無限にあると。


行方かんしょは芋の名前ではない。

芋を出荷する場所の名前だ。


それなのに一年中サツマイモを出荷して、最高の評価を得ている。


「焼き芋にするなら行方かんしょだ」と。


急にやることが脳裏に羅列されていく。


俺は携帯に片っ端からそれをメモっていく。


そして、嗤う・・・自分に対して。


「どんだけガキだったんだよ」と。


やっと少し追いついた、いや、やっと追いかけ始めたんだと。


「負けてらんねーな」


としやはそう独りごちた。

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