金の秋刀魚
第23話 金の秋刀魚 ①
それは本当に金に輝く秋刀魚だった。
秋も深まるある日、漁港を歩くカミーネはおじいさんに変わった秋刀魚を見せられた。
立派に丸々と太った、青黒い背中と銀ピカに輝く腹。そして、
腹びれから尾びれにかけて金色の飴でも貼り付けてあるかのような様だった。
おじいさんはそれをわたしに託し、
「焼いても良い、刺身でもタタキでも良いから食べてみてくれ」
そう言って去っていた。
爺にその秋刀魚を見せたら、
「金の秋刀魚!これは珍しい!近年はとんと見なくなりましたのじゃ!」
そう言って、何処からか七輪を引っ張り出し、炭を起こして焼き始めた。
託された秋刀魚は3本。
2本は塩焼きにして、1本は刺身で頂きましょう。
爺は七輪からかなり離して網をセットする。
「どうしてそんなに火から離すの?」
カミーネが聞くと、
「この秋刀魚は脂がとても多いのですじゃ、直火で焼くと脂が垂れて火達磨になりますぞ!
なので遠火でじっくりと焼きますのじゃ」
七輪から10センチ以上も離して焼けるのかしら・・・
カミーネの心配も余所に網に乗せるとすぐに秋刀魚から脂が垂れ始め、
七輪では炎が上がっている。
遠火でじっくりと焼き上げる・・・
爺は言葉通り、慌てることなくじっくりと片面を焼き、ひっくり返す。
秋刀魚の皮に綺麗な焼き色が付き、焼き面はジジーっとシズル感を誘う音を立てていた。
「爺、焼くの上手~」
「昔は秋になれば、毎日のように秋刀魚を食べてましたからな」
爺の話では当時は獲れすぎた日などは100円で獲り放題なんかも当たり前だったとか・・・
携帯で調べたら、この金の秋刀魚は1本一万円以上するらしい。
「なんで、こうなっちゃったの?」
「まあ、難しい話は後にして・・・・焼けましたぞい」
裏面は焼く時間を短めにするのが美味しく焼くコツですじゃ・・・
爺はそう言いながら秋刀魚を長い皿に盛り付け、大根おろしを添える。
秋刀魚の質量感が凄い!カミーネがたまに食べる秋刀魚の2倍以上の重さがありそうで、
今でもジジジーと脂が弾ける音がしていて・・・
早く食べて!そう言っている気がした。
「いただきます!」
カミーネは両手を合わせていつものように集中していく。
頭の付け根の部分から箸で身をほぐすと、
湯気が立ち上がり、熱が内包されていたことがわかる。
身は白身の外側に脂の層があり、豚肉のロースのように全身が脂の層に包まれている。
その身を口に運ぶ。
パリッと焼けた皮の香と塩味、甘い脂の旨味、ふっくらした身は健康な引き締まった海の味がする気がした。
これが・・・脂がのる・・・旬の味・・・
カミーネの言語への理解が深まる瞬間だった。
醤油を掛けた大根おろしをのせて秋刀魚と一緒に食べる。
口の中の脂がすっきりとして、秋刀魚が食べやすくなり、次々と口に運んでしまう。
腹皮の内側にも脂の層があり、内臓も他の秋刀魚と違い、リアルに形状が残されている。
ただ、それはカミーネにとって美味しそうにしか見えない。
頭と骨を外して、今度は内臓と一緒に身を食べると、ほろ苦くも、複雑な味がして、脳が食べることを欲していることが本能的にわかる。
昔の人が、旬のものを食べると寿命が延びるって言うのもわかるわ・・・
カミーネが食べ終わった皿には頭と骨、そして尻尾の僅かな部分しか残らなかった。
「ご馳走様でした」
人ではなく秋刀魚に対しカミーネは心からそう言った。
そこに、秋刀魚の刺身と叩きが運ばれてきた。
カミーネも何度か秋刀魚の刺身を食べた経験はあったが、
今まで見たそれとは明らかに一線を画していた。
脂の層があるのだ。
刺身は皮を引かれることにより、身と皮の間にあった脂の層が鮮明になった。
大き目のささがきのように並ぶ秋刀魚の切り身。
その一切れを箸で醤油に着けると醤油に油膜が広がる。
一息吐き、舌の上に秋刀魚の切り身をのせると、舌の熱で脂が溶けだしたかのように旨味が広がり、秋刀魚の身を包みこんでいく。
とろける様な食感に魚の新鮮な風味が混ざり込んでくる。
これは秋刀魚の大トロ・・・
カミーネのこころの声が漏れていたのか、
「爺もそう思いますじゃ、しかし、姫さま・・・食べっぷりが上がりましたな」
爺が共感と変なところに感心している。
秋刀魚のタタキは刻まれた秋刀魚の身にネギとおろしショウガが乗っている。
カミーネはたまらなくなり、ご飯を茶碗によそって持ってくる。
そして、大トロ秋刀魚のタタキをご飯と共に掻っ込むように食べた。
「これは・・・・本物だわ!どうして本物がこんなに少なくなっちゃったの?」
「姫さま!それは・・・・次回に続きますのじゃ!」
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