第12睡眠 あの''ダダダダーン''で有名な

「えっと…竹本たけもとさんその手は…?」

「ベートーヴェンの交響曲第5番運命っす。ほら、あの''ダダダダーン''で有名な」

「あ、あー…」


 空にピアノを弾く姿勢をとる彼女。

 実物がなくても流石とも言える指のスピードで''エアー運命''を弾いている。


 とりあえず…竹本さんがピアノの人なのはよく分かった。


ーーーーーー


「さっきの浅井あさいくんの言葉、あたしには『運命』並の衝撃だったんす」

「…俺、そんな大したこと言ったっけ」

「んふふ」


 敷いてある布団に2人で腰を下ろし、話していると、竹本さんが軽く微笑む。


 元々可愛らしい顔立ちをしているのに、いつもどこか緊張してるというか、強張っていた竹本さん。

 だが、今こうして話している時はリラックスしてくれているのか、いつもより表情豊かだ。


 笑ってる時なんて、糸目がふにゃっと動いていて、ずっと見ていられる癒され系の可愛さがある。


「んじゃあお言葉に甘えて…ちょっとだけきいてもらっても良いすか…?」

「もちろん」

「…ふへ…ありがとうございます」


 力なく笑った後、竹本さんは大きく深呼吸をし、話し始めた。


「あたしのこれまでの人生って…一言で言ってしまえばぜええんぶピアノなんす。親がピアニストってのもあって、ちっちゃい頃からすごく練習してきました」

「へえ…すごいね」

「んで…小6の頃、コンクールで一番上の賞が獲れたのを境に…どんどんヒートアップしていって…」

「…うん」

「今では睡眠時間を削ってまで練習させられてて…なので友達と遊んだり、趣味を見つけたりしたいんすけど…」

「………」

「家帰りたくないなあーって学校で徘徊してたらここ添い寝部を見つけて…それで使わせてもらってたんす。ほら、唯一休まる場所が学校ですし…」


 彼女の話を聞き終えた時、俺は涙を堪えるのに必死だった。


 あまりにも…あまりにも俺と竹本さんは境遇が似すぎている…。


 彼女はちょっと前までの俺だ。

 母に全てを決められ、自由のなかった頃の。


 そう思うと、どうにかしてでも彼女の力になりたくなった。


「竹本さん…その気持ち、めっちゃくちゃ分かるよ…」

「え?」

「実は俺も……」


 とりあえず、俺の昔の話もする事にした。


ーーーーーー


「とまあ、こんなワケなんだ」

「…本当っすね…!ピアノが勉強に変わっただけで、あたしとそっくりっす!びっくりっす!」


 話し終えると、竹本さんの雰囲気が少し和らいでいる気がした。

 同じ過去を持つ人間として、少しは心を許してもらえたのかもしれない。


「お互い…親で苦労してるね…」

「っすねぇ…」

「「はあ……」」


 2人で大きなため息をつく。

 なんだか、既に長年の友達って感じがする。


 彼女の1つ1つの言葉の全てに共感できてしまう。


「でも…」


 竹本さんが小さく呟く。


「あたしは…浅井くんみたいに行動できないっすよ…」

「……」


 そう、俺と彼女には決定的な違いがある。


 今なお親のもとで支配を受けているか否かだ。

 竹本さんがどれだけ辛いかは、痛いほど分かる。力になりたいとも思っている。


 しかし、親が絡んでくるせいで、下手な事をすると竹本さんに被害が及ぶ可能性が高い。

 迂闊には動けないのだ。


「学校にいる間はここ、いつでも好きなように使ってくれて良いよ。何かあれば俺も力になるし」

「ありがとうございます。なんか、話聞いてもらうと楽になるっていうか、良いっすね!」

「…やっぱりこう言うことは人に言いづらいよな」

「そっすね…。浅井くんぐらいっすよ、ピアノのせいで疲れてるなんて言う人は」

「はは、だってそう見えたんだし」

「ふふ…んでもでも、似た境遇の人に出会えてすっごく嬉しいっす〜!やっぱお互い色々と理解出来るのって良いっすね…」

「おう、なんでも聞いてくれな」


 そう言う竹本さんの顔は出会った頃よりは明るくなっていた。

 しかし、まだ俺にはそう振る舞っているように見える。


 精神的、肉体的疲労はもちろん残ったまま。


 今や俺はこの竹本千花ちかという子に激しく感情移入していた。


 なんとかして…少しでも彼女の力になれることはないだろうか…。



ーーーあとがきーーー


 みなさま…本日もお読み頂きありがとうございます…!!!


 良ければ☆☆☆やブックマーク、ぜひいただけますと…本当に嬉しいです…!!


 よろしくお願いします!!!

 

 

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寝不足少女と添い寝クラブ〜美少女たちと一緒に''寝る''だけのどう見ても法に触れそうな部活で毎日なかよししちゃってます〜 キノ @kino52816

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