第9睡 私と添い寝して

「まってくれ…」

「?」


 テレビに流れるエンディング曲から目を離さずに呟く。

 俺は今、ある1つの答えに辿り着いていた。


「全人類…ハンターハンターを見て学んだ方が良いんじゃないか…?」

「うーん…極論だけど一理あるわね」


 つまり、絶賛ハマっているんです。


ーーーーーー


「いやー…現実にあってもおかしくないぐらいリアルで緻密な世界観、作り込まれた能力とそれを駆使した戦闘…全てが素晴らしい…」

「でしょ。がくなら絶対ハマると思ったんだよね。私も好きだし」


 寧々ねねが誇らしげに言った。

 彼女の眼は本当に流石だ。この一言に尽きる。


 昔から思っていたが、寧々は人をよく見てると思う。

 その人の良いところ、好きな物とかを的確に理解し、それらを踏まえた上で会話をする。

 だから誰からも好かれる人気者なのだ。


 まさにコミュ力の化身、権化。

 同い年ながら敬意を表する。


ーーーーーー


「寧々は昔から変わってねえな」

「え、急になによ」

「いや、良いやつのままだなって」

「良いやつって…えらく抽象的ね。あんたは随分トゲトゲしたんじゃない?」


 俺の髪をツンツンしながら寧々が言った。

 そう、俺の髪は言うなればまさにキルアのようにツンツンヘアーになっている。

 いや…俺の容姿ではウニが妥当か…。


 以前は、真面目に七三分けのメガネやってたわけだしまずは外見から、って思い切ってこうしたんだ。

 そしたらこっちでも俺みたいなやつはあんま居なくてちょっと浮いてる。恥ずかしい。


「はは。ささやかな抵抗だよ。母さんへのな」

「なにそれ。んでもその割にはメガネは外さないのね?」

「ああ、これか?」


 このメガネは俺の私物の中で唯一、母から買ってもらったもの。

 視力はずっと変わってないし、中学の頃から使い続けている。


 まあ…それだけが理由じゃないけどな。


「…こっちの高校に入っていろんな人を見た。寧々も驚いたろ?」

「ま、まあね…」

「だろ。中学までは真面目なやつばっかだったからさ。もちろん良い人もいるけど、そうじゃない人もいる。でもよ、その人たちと生まれ育ちが一緒なら俺もああなってたんだと思う。でも俺がそうはならずに人並みに普通でいられるのって…厳しく育ててくれた母さんのおかげだなって分かったんだ」

「…そっか」

「だから今は、多少は感謝してるんだぜ。メガネこれはそのあらわれだな」

「そう…」


 寧々が優しく微笑んだ。

 

 高校に入ってすぐ、むしゃくしゃしてメガネを変えようとした時が何度もあった。

 でも…変えなくて良かった。


 俺をこうして、ちょっとだけ成長させてくれたから。


ーーーーーー


「それはそれとして…っ!」

「い、いっ!?」


 寧々が俺の脇腹を足で小突いてくる。

 足の指をぐりぐり動かして押してくるので、痛いやらくすぐったいやらで顔がムズムズする。


「なっ…なんだ……よっ!うぐっ…くすぐってえな…!」

「ふんっ。美少女の足で踏まれるなんてご褒美よ、ごほーび!」

「ご、ご褒美って……俺に…んな趣味は…ね、ねえよ!」


 確かに、今彼女は靴下を履いておらず、素足の感触が服越しに伝わってくる。

 少しあたたかく、ふにゃふにゃとしていて柔らかい。

 まずい…このまま猛攻を許していては、確実に変な扉が開いてしまいそうだ。


「あんた…ほんとに添い寝部…?やるつもり、なの?」

「ほえ?」


 やめさせようと正面を向き、反撃の狼煙をあげようとしたが、唐突な質問をされたがために思わずバカっぽい声が出てしまった。

 それに、寧々の攻撃はもう止んでいた。


「言ってたじゃない。先輩から頼まれたって」

「あ、ああ〜…」


 正直言うと、すっかり忘れてた。

 最近、寧々と遊ぶのがあまりにも楽しかったため、頭ん中から完全に消えてたな…いかんいかん…。


「まあできる範囲ではやろうと思ってる」

「正気なの…?知らない人と添い寝するなんて…なんて言うか…変だよ!」

「うーん…ごもっとも」


 至極当然の事すぎてぐうの音も出ない。

 俺も以前は…寧々と同じ事思ってたもんな。


「先輩に…やるって言っちまったからな」


 あの日、先輩との事を思いながら言う。


 すると、寧々はみるみると眉毛が吊り上がっていき、一気に機嫌悪モードへとなってしまっていた。

 こ、これはまずい…なんで怒ってるのかは分からないが、とりあえず顔色を伺いつつ、なんとか機嫌を戻さねば…。


「あのー…寧々さん…?……ど、どう———」

「先輩先輩って…。あの人が何をしたの…?」

「え、先輩が…?」


 何を言われるかと思えば…深津ふかつ先輩のこと…?

 一体なぜ先輩が出てくるのか皆目見当がつかないが、ここは嘘偽りなく話した方が良さそうなのはなんとなく察しがつく。


「先輩、あ、深津レム先輩は学校の空き教室で会った人なんだけど、初めて俺を肯定してくれた人なんだ。初めて母さんの話を打ち明けて、初めて''頑張ったね''、''偉いよ''って、励ましてくれたんだ。彼女は…うん、紛れもない恩人だ、頼みぐらいは聞いて………って寧々!?」


 泣いている。

 目の前で、体を小さく震わせて。


「お、おい!どうしたん———っ」


 トンッ


 肩に小さな衝撃を感じた瞬間、気づいたら正面に天井のライトが見える。

 それに後頭部や体から感じるこの感触、いつのまにかソファに倒れてるのか…?


 ギィ……


 ソファが軋む音がする。


 かろうじて顔を上げると、ショートパンツを穿いた寧々の白くて綺麗な太ももが、俺の方へとじわじわと近づいてきて、ついには体の上にまたがってしまった。


「ね、寧々?なにやって……」

「学」


 俺の顔を上から見下ろしていた彼女の顔が一気に近づく。


 鼻と鼻がくっついてしまう距離…。

 先ほどの涙で、まつ毛がキラキラと光っているのすら見えてしまう。


 それに髪が、寧々のツインテールが体をくすぐり、俺の五感を更に刺激する。


 ドキドキしていると、彼女の口がゆっくりと動いた。


「私と添い寝して」


ーーー寧々視点ーーー


 彼の部屋が私の趣味のものでいっぱいになった時、すごくドキドキしたしちょっと恥ずかしかった。


 彼がメガネの話をしてる時、''ああ…やっぱりこの人を好きになって良かった…''と思った。


 彼が先輩の話をしてる時、私は私が嫌になった。

 ''ああ…なんでもっと早く行動しなかったんだろう…''って。

 一番最初に彼を肯定して、甘やかして、''頑張ったね''って言ってあげれるのは…私だったのに……。


 自分が悪いのに、学にあたってる自分が嫌だ…。本当は…大好きなのに…。


 でも今はただ…彼の腕に抱かれたい…。



ーーーあとがきーーー


 本日も読んでいただき、ありがとうございました!


 9睡と書かれていますが、厳密に言えばもう10話まできてしまいました…。

 みなさま、引き続き『添い寝クラブ』を楽しんでもらえると、とても嬉しいです!


 そのついでに…☆☆☆やブックマークも頂けると励みになります…お願いします!!


 ではまた明日の更新で!

 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る