第8睡 好きな人の部屋ごとマーキングする''あざとい''女の子

ーーー寧々視点ーーー


 がくと買い物に行ってから1週間ぐらいが経った頃、ついに荷物が全て届いたと連絡が来た。


 あいつの家具を買いに行くという名目だったけど、当の本人が「寧々ねねはどれが良い?」とか「寧々が良いと思うやつで!」って言うもんだからほぼほぼ私の好みのものになっている。


 だからちょっと楽しみでウキウキしてるんだあ。

 私の部屋がもう一つ増えるみたいでさ!


 ………って甘いこと考えてるピュアな時期が私にもありました……。


ーーーーーー


「さあ見てくれ!生まれ変わった我がマイルームを!!」

「どれどれぇ…………っっ!!!」


 学の部屋を一目見た時、私は自分のしでかしてしまった事の重大さに気づいてしまった。


 あ…これまずいかも…。


 好きな人が、自分好みの物で統一された部屋でこうして生活してるのって…。


 想像以上にえっちだ……。


 何も知らない彼を『私』で侵食し、人が生活していく上で必要な『衣食住』のうちの『住』を染め上げてしまっている。


 彼を…自分のものなんだってマーキングしちゃってるんだ。


「………ふっ…」


 ダメ…いけないコトしてるのに…学に謝らないといけないのに……。


ドクンドクンドクン……


 胸の高鳴りが、顔に浮かぶ笑みが…とめられない…!!


「寧々?」

「……はっ…!」


 学に声をかけられて正気に戻った。


 い、いけないいけない…私としたことが…妄想の世界へどっぷり浸かりこんじゃってたみたいだ…。


「大丈夫か?ぼーっとしてたし顔も熱っぽいぞ…?」

「あ、あーいや!大丈夫!大丈夫だから!」


 心配そうに学が私を見つめ、おずおずと手を空に止めていた。

 きっと熱があるかもと思っておでこで測ろうとしてくれたんだけど、前会った時、テンパって触っちゃダメ!って言ったのを覚えててくれてるんだ。


 本当は全然触って良いのに…。むしろ触って欲しいのに…。

 でも今触られちゃったらきっと歯止めが効かなくなるし…やっぱダメダメ…。


 ああ…かわいい…ほんと優しくて好……


 じゃなくて!


「そうか!大丈夫なら良かったよ。じゃあなんだよ、この部屋の素晴らしさに感動してたのか?だろ?そうなんだろ?」


 子供のように生まれ変わった部屋を自慢する学。

 私は、一度部屋全体を見渡した。

 

 以前はほんとに何もなくて、まるで映画『マトリックス』に出てきた真っ白な空間のようだった。

 しかし、今ではソファも、テレビも、ご飯を食べるテーブルと椅子も、食器にカーテン、全て揃っている。


 種類とかデザインは大体私の趣味だけど…。


 でも、ようやく学の住む場所を『普通』にしてあげられた気がする。

 ずっと1人で勉強を頑張ってて、『普通』を知らない彼に、私が、これからできる友達が、もっともっと彼に『普通』で幸せな生活を教えてあげれたら嬉しい。


 この部屋は…買い物一緒に行ってあげた私へのささやかなご褒美ってことで…私の心うちは黙っておこう…。


「ええそうね。ほんと、良い部屋よ!」


 笑顔で答えた。


ーーーーーーー


「そうだ」


 新しく買った木のテーブルのフレッシュな自然の匂いを堪能しつつ、2人でご飯を食べていると、学がもじもじしながら言った。


「俺さあ…アニメとか映画を観てえんだけど…」

「ああ、そのことね。いいよ、食べて片付け終わったら一緒に設定しよっか」

「よっしゃあ!んじゃ皿洗いは俺に任せてくれ」

「お、良い心がけだわ」


 学校が終わって、家で一緒に夜ご飯を食べて、皿洗いのことで盛り上がったり……。


 ああ…幸せだなあ…。


 話しかける勇気が出なくてうじうじしていた2年間がほんっとうにバカみたい…。

 学の様子を見れば、いつでもウェルカムだっただろうに…。


 あの日、先生にみんなの課題を持っていくのを頼まれててよかったあ…。


ーーーーーー


「えーーっと…パスワード入れた…っと」


 片付けも終わり、2人でソファに座りながら超巨大なテレビと向き合っていた。


 うん、やっぱり圧がすごいなあ。

 サイズなんて言ってたっけ。

 これなら本当に学がやりたがってたミニ映画館とかもやれそう。


 私としては…ずっと2人で観てたいけどさ。


「これでよし。はい、これね好きなのみれるよ」

「おおおおマジか!!」


 リモコンを渡すと、子供のようにボタンをポチポチ連打して、画面をスクロールしている。


 ふふっ…学といると何気ない日常が新鮮に感じで、毎日がすっごく楽しい。


「いんやー…こんな膨大な量の作品が全て無料だとは…すごいな、メトフリ。しかしこれ…得はあるのか…?」

「んーん?月額料金はちゃんとあるの?あんたのは私の家族共有アカウントで入れただけ」

「え。そうだったのか!?それはその…ご家族には良いのか…?」

「いいわよ。お姉ちゃんは大学で遊びまくってるし、パパとママも最近はほぼ見てないもん。だから使ってるの私ぐらいだし…………はっ」


 まって、私、学を家族アカウントに入れたんだ…!うちでパスワード入れる時にいつもこのアカウントでやってたからついついやっちゃったけど…!


 か…家族かあ…。


 その響きで自然と口角が上がる。


 ふふっ…なんだか今日は物理的にも気持ち的にも近づけたような気がして…すごく嬉しい。


「ならよかった!じゃあ早速だけどオススメを教えてくれ!」

「オッケー!まずは何にしよっかなー」


 待ちきれない、という顔の学と一緒に、私は時間を忘れてアニメを見た。



ーーーあとがきーーー


 みなさまお待たせしました!

 ついに次回の話で添い寝します!!

 お楽しみに!


 ではでは…本日もお読み頂きありがとうございました!


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 よろしくお願いします!

 

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