第7睡 友達と家で''映画''が観たい
「ちょ、まさか…ほ、本当に買う気…!?」
「おおお俺だってビビってるさ…。で、でも…あったら良いんだよな…!?い、いくぞ!?いっちまうぞ…!?」
家電量販店にやってきた俺たちは、ある物を見て震え上がっていた。
あまりの動揺ぶりに、俺たちに解説をしてくれていた店員さんも「このガキども…買う気も金もねえくせにうるせえな…」と思ってることだろう。
しかし寧々と店員さんの心配をよそに俺は決心をする。
そう…それが一体なにか、そしてどうしてこうなったのかというと……
ーーーーーー
「なあ、
「んー…そうだなあ…」
まず最初に何を買うか考えていたが、全くピンとこない。
まあ…必要だと思った事ないから家が空っぽなワケだしな…。
あまり知識のない俺が考えるよりもここはやはり有識者の寧々に聞いた方が早いと思い、尋ねる。
「ねぇ…言ってもその…バカにしたりしない?」
「え?するワケねえだろ俺から聞いてんだし」
手を後ろに組んでもじもじしながら言った。
なんの心配か知らないが、バカにしたりするはずないだろ。
「私はやっぱり…テレビとソファかな…?」
「ほう…その心は…?」
「だ…だらだらできるから」
「なるほどだらだらか…」
だらだらか…良いかもしれない。
つまりだらだらとは、おとといに
確かにあれは心地良かった…。
ただ何もせず時間を浪費する、というのはかつての母が居た生活では完全悪として滅されてきたが、今は晴れて自由の身。
だらだらに興じるのもまた乙というものだろう。
「よし、じゃあまずはテレビを見に行こう」
「う、うん。てゆーか今ので参考になった?」
「無論だ。しっかり者の寧々も家ではそうやってプライベートを楽しんでるのか…良いな!」
「うるさいわね!」
と言うわけで俺たちは近くの家電量販店へと向かった。
ーーーーーー
「はえええ…テレビつってもやっぱ色んなのがあんだな…」
生まれて初めて来たかもしれない家電量販店『エリオン』。
店内は白一色に統一されており、展示されているテレビたちはまるで夜空に輝く星々のように主張し、力を誇示している。
ふむ…選びがいがあるではないか。
「うお、これなんかもう映像が綺麗すぎて本物だぞ本物!すっげえ!しかも超でっけえ!」
「あんまりはしゃぎすぎないでよ…他の人見てるわよ…」
「これがはしゃいでいられずにおれるか!人生初のテレビだぞ!幸せの絶頂は今のことだ!」
「あっ……ごめん……」
寧々がしまった、という顔をした。
oh…俺も心の中でしまった、と思った。
つい楽しすぎて忘れていたが寧々はこう言うことをめちゃくちゃ気にしてる。
多分今も心の中で自分を責めてるだろう。
俺も不用意な発言には注意しないとな…。
「す、すまん、ハメを外しすぎた。なあ、参考程度にまた聞きたいんだけど」
「え?な、なに?」
「寧々はテレビで何を見てる?」
そう、俺はずっとテレビはニュースとかを見る物だと思っていた。
それだけならスマホで事足りるし正直必要性を感じていないのが現状だ。
「そりゃアニメとか映画観るよ?あとは配信されてる動画見たり…」
「あ、アニメ!?映画!?」
「うわっ…びっくりした」
再び俺のテンションが最高潮へと到達する。
''アニメ''、''映画''。子供の頃から喉から目が出るほどずっと見たかったものたち。
あまりに長い間触れずにきたので忘れていたが、見れる…今の俺なら見れるぞ…!
「こ、このテレビなら映像もめちゃくちゃ綺麗だしサイズもめちゃくちゃデカいし!申し分ないんじゃないか!?」
「アホ。値段、値段みてみなさいよ」
「値段?」
寧々が呆れた顔で下についている値札を指差した。
やれやれ…今更値段ぐらいでは俺の気持ちはブレないぞ…今の俺は財力とドーパミン共に最大出力フルマックスなのだ。
だが致し方あるまい、心が揺らぐことはないが見てやろ………。
「ぶっっっっ…よ、よよよよ40ま……っっ!?」
「そうそう。それが正常な反応よ」
よ、40万だと……。
なんだこの高さ、これをポンと買える人間なんて存在するのか…?
確かに今の俺なら買える。だが…なんて言えば良いのだろうか。金があっても即決できないのだ。これは…俺には似合わぬ物だッ……!!
「どうされましたか、お客様?」
「ひっ…!?」
突然背後から何者かに話しかけられた。
急いで振り返ると、そこにいたのは気の良さそうな男の店員さんだった。
「いやあの…このテレビ…いかにしてここまで高いんですか?」
「ああ、こちらは8kのものになっておりまして、ご覧の通りひっじょおおに画質が良いんです。それに加えてこのサイズなので自然とお値段も高くなってしまうんですよ」
「ああ…なるほど…」
やはり画質は最高クラスでサイズも申し分ないのか…いやしかし値段が…。
「ね、そんな高いやつじゃなくても良いのいっぱいあるよ?」
「いやしかし…」
「気に入ったの?」
「はい…」
初のテレビだからせっかくだし良いものにしたいし、後々後悔したくない。
なんかこう、決定打はないものか。
「なあ、寧々…決心するために何かこのテレビがあるチョー最大のメリットを言ってくれないか…?」
「え、本当に買う気…!?」
「おおお俺だってビビってるさ…でも…」
名残惜しそうにテレビを見つめる俺を見て、寧々が腕を組んで考えた。
その間1分ほど。店員さんの顔に疑念が混ざり始めた時、ついに寧々が口を開いた。
「友達を家に呼んで…みんなでわいわい映画観れる…とか?」
「買いまああああああああすす!!!」
即決した。
ーーーーーー
その後、残った予算で諸々必要な物を買い終え、帰路に着く俺たち。
買った物のリストを見て思わず笑みが出る。
「大きめのソファ買ったし…ちょっと気がかりだが『人をダメにする』というクッションも買った…。ダメにされたら困るが楽しみだな」
「
「そうかあ?もう十分ダメな気がするけど」
「あんたがダメならみんなダメよ…」
しばらくの間、心地よい沈黙が流れる。
これはきっと余韻だ。
今日というめちゃくちゃ楽しかった日の。
結局、テレビ以外は全部寧々に決めてもらった気がする。
だってさあ…さっぱり分かんねえし。
「どれが良いと思う?」「これは?」とか聞きまくった記憶しかない。
さぞ迷惑だっただろうに、寧々は嫌な顔一つせず一緒に選んでくれたのだ。
その優しさたるはまさに聖母のよう。
時代が時代ならきっと崇められ、人々の信仰の中心になっていたかもしれない。
「てゆーかさあ、
「え?来てくれよ」
「え?」
寧々がきょとんとした顔でいる。
俺としては彼女が言ったことはとんでもなく魅力的で、かなり嬉しいことなのだ。
それはなぜか…
「寧々がいる方が楽しいしさあ。つーか俺、操作とか映画も何見たら良いかとかさっぱりだし。居てくれると助かるけど」
「……!!」
根本的にテレビの扱いと何みりゃ良いかが分からないからだ。
しかしまあ、そこはスマホで調べればなんとかなるところだけど、せっかくこんなに良い友達がいるんだから一緒に見なきゃ損だろ。
「と…言うのが俺の意見なんだけど…」
チラッと隣を見て顔色を伺う。
すると、寧々はカーディガンの袖で顔を思いっきり隠していた。
それになぜか寧々付近の表面温度が高くなっている気がする。
ん…?これはどういう反応だ…?YESなのか、NOなのか…!?
「き…気が向いたら…」
「ん?」
蚊の鳴くような弱々しい声で呟く。
一体なんて言ったんだ…?
「気が向いたら、行ってあげる」
「おお!」
今度は俺にも聞こえる声で言ってくれた。
それに、返事はYESだ!バンザイ!
「寧々さま!寧々さまバンザイ!寧々イズ女神!!」
「ば、バカなこと言ってんじゃないの!ほら、駅もう着いたから!」
そう言われ、前を見てみると、本当だ。
もう駅に着いてる。
一気に名残惜しい気分になってきた。
あーあ。もう終わっちまったのかよ。
昔、毎日が勉強だった頃はあんなにも一日が無限にあるかのように思えたのに。
楽しい時間というのは一瞬にして過ぎてしまうものなのか。
「もぉ…そんな残念そうな顔しないの。荷物、多分1週間ぐらいで搬入されると思うから。そしたらまた連絡して。ちゃーんと行ってあげるから」
「おう…」
残念がる俺の頭を寧々がポンっと撫でる。
そんな彼女の顔は、とても優しかった。
「それじゃまた明日学校でね!ちゃんと来なさいよ!」
「当たり前だ。今日はありがとな!」
駅の中へ消えていく寧々を、手を振って見送った。
なんだろう…この気持ち…。
寧々って…本当に理想の母親みたいだな…。
同い年で同級生の幼馴染に母性を感じでしまった、ヤバい男の姿がそこにはあった。
ーーーあとがきーーー
本日もありがとうございます!
なんと今日は2話更新しますので、ぜひ20時5分更新の第8睡もどうぞ!
そして☆☆☆、ブックマークも頂けますと励みになりますので良ければぜひ!
それではよろしくお願いします!
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