第3睡 ''幼馴染''がNTRれたかも

 私には幼馴染がいた。

 

 そいつは昔から死んだ魚のような目をしてるヤツだったけど、なんとなく一緒にいるとなぜか居心地の良いヤツだった。


 話しかけても返ってくる言葉は一言二言。

 アニメとか映画も知らないから全然会話は弾まない。


 当時の私は、あいつは勉強しか取り柄のないヤツだと思ってたんだよなあ。

 

 でも今思い返してみれば全くそんな事なかった。

 少ない口数で私の話題に合わせて、かつ私が喜ぶ回答をしてくれてたんだなって高校生になってようやく気付けた。


 同い年なのにすごい人だ。

 私なんかとは全然違う。


 初めて彼のお母さんとちゃんと会ったのは、中学1年の授業参観の時。子供ながらにとても怖い人だと思った。

 それにいつも大人びていたあいつが、すっごくビクビクしてたのも印象的だった。


 その時私はちょっとかっこつけてお姉さんぶってるけど、あいつに声をかけてあげたかったんだっけ。


「いつもありがとう。勉強頑張ってて偉いぞ」


 的な。なんだろう、無性に言いたくなった。

 言ってあげなきゃあいつはどこかに行ってしまうって感じがした。


 でも、年が経つにつれどんどんとあいつの心の壁は厚くなって、結局言えずじまいになってしまった。


 そして本当にそのまま別の高校に行ってしまい疎遠に………


 なんて言わせない…!


 私は、絶対あいつに言ってやるんだから。

 感謝と、この気持ちを…!


 と思って仲良かった友達と離れ離れになって、1人暮らしをしてまでおんなじ高校に入ったのに……


「なにこれ…」


 な…なんであいつが、浅井学あさいがくが…めっちゃおっぱいおっきくて綺麗な女の人と…!


 夕方の空き教室からはだけた服とボサボサの髪の事後みたいな雰囲気で出てきてるのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??


ーーーーーー


「はっ…」


 目が覚めた。

 と同時に目の前でスヤスヤと気持ち良さそうに眠る深津ふかつレム先輩が視界に入る。


「……」


 なんと、俺の体を抱いているではないか。


「あったけ…」


 そんな先輩の体温が、布団が、全部が気持ち良い。肌に触れる空気すらなんかもう気持ち良い。

 もう一度目を閉じ、彼女の胸にハウスしようとした。


 しかし悔しくもその過程で目が冴えてしまった。これは誠に…残念である。


「………ッ!!」


 俺は勢いよく布団から抜け出し、体を起こした。

 うわ…心臓が悲鳴をあげてら。

 一体何やってるんだ俺は…自分の行動を思い返してみると恥ずかしくて死ねる。


「…ん?夕方か…?」


 さっきまでは一面澄んでいた空が、今は茜色に染まっていた。

 

 腕時計で時間を確認すると、既に17時だ。


「眠りは浅いと自負していたが…ここまでぐっすりだとは…」

「ん、んううぅん〜〜……」

「うおっ…!」


 先輩が起きた。

 ゆっくり体を起こしつつ、伸びをしている。


 そんな何気ない行動に、なぜか目が離せない。


「あれぇ…がくくん…起きてたの」

「あっはい。今起きました」

「そっかぁ。寝れた?」

「…はい。おかげさまで」

「ふふぅん良いよぉ」


 ふにゃりと笑う彼女の顔はまるで、小さい子供のようにあどけなくて、純真無垢だった。


「かわいいな…」

「え?」


 突然、俺の口から言葉が漏れた。

 思った事が、率直に。


「あ、あああああ!!??い、いやあの!なんでもないです!!」


 慌てて大声をあげて何も言ってない風を装ったが、自分でも分かる。無理があるわこれ…。


「そ、そぉ?そっかぁ…」


 先輩のまんざらでもなさそうな態度が更に俺の心を刺激した。

 い、いやまあ?女子なら可愛いって言われて嬉しがるのも当然なのか…?

 つーかもう聞こえてんのは確実だなそれじゃあ…。


「「………」」


 しばらく気まずい沈黙が流れる。

 お互いちらちらと話す機会を伺っていた。


「そ、そうだ学くん。学くんも添い寝部に入らない?」

「はい?」


 唐突にそう言われた。


「ほらぁ、部活入ってないって言ってたでしょ?許可は…あはは…取ってないけど一応は形としてあるし、ね?だめ?」

「いや、無理です」

「はやぁ!!??」


 だめ?と可愛く言われてもそんなのだめに決まってる。

 だって俺には先輩みたく人の心を支える言葉なんてかけれるわけないし。

 それに…添い寝なんて恥ずくて無理だ。


「無理ですよ。俺、先輩みたいに上手く言葉かけれるわけないですし」


 正直に話すと先輩は少し黙った。

 しばらくして、口を開く。


「私ねぇ思うんだ。''優しさ''はねぇ?''与える''ものじゃなくて、''つむぐ''ものなんだって」


「優しさを…紡ぐ…?」

「そっ。無理して考えるんじゃなくてぇ、学くんが言われたら嬉しいなぁとか私に言われて嬉しかったなぁとか的な?そんな事を側で言ってあげるだけでいいの」


 先輩がどこか遠くを見ながら言った。

 その姿はなぜか妙に大人っぽく感じる。


「ほらぁ?私も上手くやれてたでしょ?学くんが初めてで最後のお客さんだったけど」

「え?」


 違った。

 遠くを見ていたのはきっとこの事を誤魔化すためにただそっぽ向いてただけだ多分。


 先輩の顔をじっと見ると、冷や汗がたらりと流れているのが分かる。


「先輩…まさか初めてだったんですか…?」

「い、良いじゃないのぉ…!多分上手く出来てたんだしぃ!だって滅多に人来ないしさぁここ…それにみんな怪しんでどっか行っちゃうし…」


 子供のようにわあっと言い訳をする先輩。

 手をブンブンと上下に振っていてなんだか可愛い。

 あと、怪しいのはごもっともである。


「ん…?」


 まてよ、さっきなんかもっと重大な事言ってなかったか?

 最初で.……


「最後…?」


 俺が呟くと先輩はあからさまにビクッと肩を震わせた。


「いんやぁ…だってねぇ…私もそろそろ卒業だしぃ…こうしてお客さんももてなしたしぃ…ねぇ?」

「俺1人になってしまうじゃないですか」

「そうなっちゃう…ますねぇ…。で、でもだいじょぉぶ!だって私の時も2年間だぁれも来なかったし!ね?だからほらぁ…」


 俺は立ち上がった。

 そしてわざと威圧的に先輩を見下ろす。


「つまり先輩…俺に押し付けようって事ですか?」

「ひ…ひい!」


 ゴゴゴとオノマトペがつきそうな俺に、先輩は軽く悲鳴を上げた。


「あ、あのね?すごく勝手なんだけどその…ここには思い入れがあってぇ…だから…お願い…!」


 目をうるうるさせながら俺を見上げて懇願する彼女。

 思い返せば先輩には物理的にも気持ち的にも見下ろされていたような気がするので新鮮で…いけない扉が開いてしまいそうだ。


「いや、あの…これが添い寝とかじゃなければ全然引き受けるんですけどね?その…添い寝って女子ともするんでしょ…?」


 と俺が少し恥ずかしげに言うと、先輩は泣きそうだった目に輝きを取り戻した。


「なぁんだ!そんな事か!もぉぉ、学くんは良い子だなぁ。女子と寝れるなんてラッキーじゃん!」

「先輩は…怖くないんですか…?えっと…知らない人と、俺と添い寝しても…」

「ぜんぜん?一目見た時からこの子ならだいじょーぶ!って分かったもん。だから学くんも大丈夫!上手くやれるって!」


 にぱっと笑う先輩。

 全く…どこまで楽観的なんだよ。


 しかし、無害認定されたのはとても光栄なことでもある。


 にしても、この人と喋ってると調子が狂う。

 気楽そうに言ってくれるせいで、なんかいけんじゃね?みたいに思えてきてしまったじゃないか。


「しょうがないですね…。口車に乗ってあげます」

「ほんと!ありがとー!!」


 先輩が立ち上がり、俺に勢いよく飛びついてきた。


「うぐ…苦しいです先輩…。それに時間も遅いですし帰りますよ。暗くなると危ないですし」

「ん?ああ、そうだねぇ。帰ろっか!」


 俺たちは部室(仮)の扉を開けて外に出た。


 これが…久々のシャバの空気ってやつか。

 部屋の中は暖かかった上に布団の中に入っていたので温度差が激しい。

 外はけっこう寒いな…。


 でもなんだろう。

 先輩との時間が夢のようだ。

 もう終わってしまうのだろうか。

 なんか切ないな。


「大丈夫。これでお別れじゃないよ」


 そんな俺の顔を見て察したのか、先輩が優しくそう言った。

 この人は…こう言うところはエスパーのように的確だ。


「…困ったら聞きにいきますからね」

「ふふっ。楽しみにしてるよぉ。それじゃねっ」


 そう言うと先輩は俺とは逆の方へ歩いて行った。階段から降りて行くのだろう。


 少しずつ、少しずつ先輩が遠くなって行く。

 今になって、名残惜しくなる。


「先輩!!」


 廊下に響く声で叫ぶと、先輩は振り返ってくれた。

 離れてても可愛いな。


「ありがとうございましたあ!!」


 お礼を伝える。

 何度か言ったけど、こう言うのは何回だって言って良い。


 先輩は手を振って返してくれた。

 今日出会えたこの奇跡を、目にしっかりと刻んでおいた。


 彼女も居なくなり、廊下には俺1人になる。

 とてもスッキリした気分だ。

 今まで暗い気持ちでいたのがバカみたいに清々しい。


 今ならクラスの方とも話せそうだし、何かに熱中できるかもしれない。

 そして…この『添い寝部』の件も前向きに……


「み、見損なったわよ!!!」

「っ!!??」


 突然、真後ろから女子の叫び声が聞こえた。

 な、なんだ?もしかして俺に言った?


 そう思い後ろを見てみると、廊下の壁から1人の女子が現れた。

 茶髪で、大きなツインテールの子だ。怒り?落胆?とも取れる表情をしている。


「あ…あんたが…!あんたが高校入った途端、貞操を散らすようなヤツだったなんて!!」


 …とりあえずとんでもない誤解をされているのは分かった。



ーーーあとがきーーー


 4話目も読んでいただきありがとうございます!!


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 明日の更新は19時頃となりますので良ければぜひ!!




 

 


 

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悩める美少女たちと添い寝する部活に入りましたのでぐっすり安眠させて頂きます キノ @kino52816

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