第4睡 勘違いで散らされた''貞操''

「あ…あんたが高校入った途端に貞操散らすようなヤツだったなんて…!!」

「は…?」


 おいおい…とんでもない誤解を受けているぞこれ。

 先輩と部屋から出てきたところを見られていたのか?


 てゆうか誰なんだこの子は。

 見た限り知り合いではなさそうだが。


 彼女は長い茶髪を腰近くまである大きなツインテールにしており、おっとりしていた深津ふかつ先輩とは対照的に眉毛を釣り上げた気の強そうな顔立ちをしている。


 ギャル、と言うヤツだろうか。

 でもその割にはなんて言ったら良いんだろ。

 なりきれてないというか、節々に育ちの良さのようなものが出ている。

 

 少なくとも俺がこの高校に入って見てきたギャルは、この子のようにちゃんとリボンは付けてないしスカートももっと短い。

 髪型なんてクルクルで自由だ。


「あ、あの。すみません、急になんでしょう?」

「何って…あんたに見損なったって言ってんの!!」

「……失礼ですけどどちら様で?」

「…ッ!?」


 彼女はひどく驚いた顔をしたと思えば、突然ものすごく悲しそうな顔をした。

 今にも泣きそうで、夜の冷たい空気を交えて俺の心をグサグサ突き刺す。


「ほ…ほんとに…本当に…覚えて…ないの…?」

「え、ええ?」


 ふらふらとこちらへやってきて、顔をぐいっと俺に見せる。


 彼女は驚くほど顔が整っていて、めちゃくちゃに可愛い。

 やはりギャルにはなりきれてない様子で、化粧も薄めだ。しかし俺はむしろナチュラルでこっちの方が好みだし、彼女の素の顔の綺麗さを物語っている。


 あの深津ふかつ先輩と肩を並べるほどかもしれない。

 

 先ほどの気の強い言動とのギャップにちょっとドキッとしてしまった自分が情けない。


 つかこの子の口ぶり的に俺たちはどこかで会った事でもあるのか…?


 いやいや本当に知らねえし…流石に昔会った事ある人とかだったらちゃんと覚えてるし…。少なくとも俺の記憶にこんな子は……


 注意深く彼女の顔をじっと見て記憶を手繰り寄せる。


「うーん…」


 もし俺が忘れてるんならそれはそれで悪いことしてるし…にしても可愛いな…。


「……ぁぅ…」


 じろじろと見たせいか彼女が小さく声を漏らして顔を手で隠した。


「……ああああ!!!!」


 その仕草を見た瞬間、俺の脳に昔の記憶がドバァッと流れ込んできた。


 あれは…小学生の頃。


 当時、やたら俺に構ってくれる女子が1人いたんだ。

 それはそれは嬉しくって。必死でそいつに喜んでもらえるように、少ないボキャブラリーを駆使して会話してたっけ。


 そんな時、なんて会話だったかは忘れたけどその子が今目の前にいる子と全くおんなじ反応をしたのだ。


 そう…名前は……


「君は…う、うたた寧々ねね…!?」

「……!!!」


 名前を言った瞬間、死んだような顔をしていた彼女は、生き返ったようにぱあっと顔を明るくして俺を見た。目にはうっすら涙すら見える。


 しかし、そんな表情隠すかのようにすぐさま最初のツリ目バージョンに戻ってしまった。


「ふん…!私の事は忘れておいて女の人と遊んでるなんて…信じらんない!」

「あ、ああ!本当にごめん。寧々にはたくさん世話になったのにな…。すまん、昔と別人と言うか、あまりに可愛くなってたもんで顔と名前が一致しなかったんだ」

「……!!」


 そう言うと、寧々は真っ赤になって目をパチクリさせた。


 そしてポカポカと俺を叩いてくる。

 なぜだ…?俺は事実を述べたまで。

 寧々は昔から可愛くてみんなの人気者。

 俺のような日陰者にも話しかけてくれる文字通りスターだった。


「わ、私をおだてても罪は消えないんだから!」

「さっきからその罪ってなんのことだよ」

「さっきの人とだよ!私見たんだからね!あんたと…おっぱいがおっきい綺麗な人と部屋から出てくんの…!もう…もぉ…確定じゃない…やっ…やや…確定じゃない…!」


 強い口調で言っていたのにどんどんと弱々しくなっていき、ついにはまた表情が暗くなってきている。

 全く…どんだけ表情筋豊かなんだ。


 それに、やはりとんでもない誤解をしているではないか。


「ちょっと待ってくれ、よーく聞いてくれよ。俺と先輩は全然そんなのじゃなくて…」

「聞きたかないわよ…!誰が幼馴染と知らない女の馴れ初めなんか聞きたいかっての…」

「いや、だから聞けよ。馴れ初めじゃねえって」

「もう!なんなのよ!」


 自暴自棄になりつつある寧々を宥めるのにかなり時間がかかったが、俺はとりあえず事の顛末を説明した。


ーーーーーー


「というわけで、俺は無罪です」

「…………ふ…ふふ……」

「ふ?」


 そろそろ帰ろうと一緒に歩きながら説明し終えた。すると寧々はなにやら怪しく『ふ』と言っている。

 それはまるで、何かを言いたそうに…


「ふ…風営法違反!!」

「うーん…デジャヴ…」


 最初の俺と全くおんなじ反応をしていた。

 まあ…確かに俺が通ってたのって頭良い小中学だったし寧々も頭は良い方だったし。

 ならこの結論に至るのも当然か。


「ほんとに…ほんとに添い寝だけ?そう言ってえ…えっちなこともしたんでしょ?」

「してないって。先輩は…そんなのじゃない」

「……」


 先輩とは、少なくとも俺はそんな安っぽい関係だとは思わない。

 たった1日の付き合いだけど、大切な恩人だ。


「ん?どうした?」


 寧々を見ると、なぜかまた寂しそうな顔をしていた。

 疑問に思い聞いてみると慌てて表情を元に戻して取り繕う。


「なんでもない…。添い寝も十分アウトだけど…まあ許してあげる」

「お、おお…慈悲深いな。よし、そんじゃそろそろ暗くなってきたし帰ろう。夜遅いと危ないからな」

「そうね」


ーーーーーー


 すっかり暗くなった街をスタスタスタ…と歩く俺。

 その横にはピッタリと寧々が付いて歩く。


「えっと…寧々も帰り道こっちなの?」

「そうよ」

「そ…そうか!なら途中まで送ってやるよ」

「ありがと」


 まあ…道が一緒ならしゃーないか。

 久々に会えたし積もる話しもある。

 それに友達と一緒に帰れるとか楽しいし嬉しい。


 そんな事を思いながら歩いていると、唐突に寧々が言った。


「今からあんたん家、行く」

「…はい?」


 なんか今日の俺、女子に振り回されてばっかな気がする。



ーーーあとがきーーー


 本日もお読み頂きありがとうございます!!


 今回出てきた寧々は、勝手に釘宮理恵さんの声で再生されている作者です!


 ☆☆☆、ブックマークをしてもらえると励みになりますのでぜひ!!


 明日もよろしくお願いします!


 


 

 


 


 

 


 

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