第3話 システム
「裏ボス? なるほど。だから
「あんたは魔王を倒したら勇者には見えないよね」
「魔王倒してないよ」
「そうだった。てか、魔王倒してないのに、よくこのダンジョンを攻略したよね」
「まあね」
まさかチート能力で何もせずにレベルアップしたとは言えん。
「てか、なんで露天風呂にまで?」
「それはワープの魔法陣を見つけて」
俺はここに来たいきさつを答える。
「ああ! そういえばあったわ。……あの魔法陣か」
マナベルはしまったと額に手を当てる。
「裏ボスもおっちょこちょいだな」
「あれを作ったのは前任者よ」
「前任者?」
◯
服を着た俺は廊下に出るとマナベルに「ついて来い」と言われた。
「ここはダンジョンとは違う構造のようだけど?」
廊下を歩きつつ俺はマナベルに問う。
「ここは移住区よ」
「ここに暮らしているのか?」
「そりゃあ、ダンジョンの主だからね」
「ダンジョンの主ねぇ……それにしてはボスっぽくないというか、えらく人間的だな」
「そりゃあ、
「ええっ!?」
人間ぽいと思ったら元人間だった!?
「待った待った、人間って、どういうこと? なんで裏ボスが人間?」
「知らないでここまで来たの……って、そうよね。あなたは何も知らずにここまで来たんだっけ」
「それでどうして裏ボスに?」
「私、元は魔王を倒した賢者なのよ」
「ええっ!?」
さらなる衝撃事実。
賢者!?
というか魔王を倒した!?
「全然意味わからない。魔王を倒した? でも魔王いるんだけど」
「それは別の魔王よ。魔王って、定期的に現れるのよ。で、勇者とか賢者が魔王を倒すの」
「それがどうして裏ボスに?」
マナベルは息を吐く。
何か想うことがあるのだろうか。
「魔王を倒すと勇者や賢者って、初めはちやほやされるけど、次第に煙たがれるのよ。王様とかに至っては怖がって暗殺とかしだすし」
「あ、暗殺!?」
「裏ボスはそういった勇者や賢者のための救済措置みたいなものよ」
とあるドアの前でマナベルは立ち止まる。
そしてドアを開けて、中に入る。ドアの向こうはリビングだった。
「敵になることが救済? 復讐とかそういうこと?」
「復讐じゃないよ。ここでのんびり暮らすのよ。そして次世代の勇者が来たらバトンタッチ」
マナベルは俺に椅子に座れと手で指し示す。
椅子に座るとマナベルはキッチンに向かった。
改めて部屋の中を伺う。床も壁、天井も白い部屋。シンプルな木製の家具、壁には風景画、本棚には革張りの本が4冊。少しもの寂しい部屋だった。そんなことを考えているとマナベルがカップを2つ載せたお盆を持って戻ってきた。
1つを俺に差し出し、マナベルは席に座り、自分のカップに淹れたコーヒーを飲む。
「勇者はどうやってここを知るんだ?」
「神の啓示よ」
「それで裏ボスは勇者や賢者と戦い、勝った者は裏ボスとして君臨するということか」
「そういうこと」
「お前は自分を殺してくれる勇者を待っているということか?」
「違うわよ。塔の加護のおかげで死なないわよ。倒されたら向こうが裏ボスになるの。そして私は解放」
「なるほど」
「それなのに魔王も倒されていないのにあんたが来るんだから」
「この場合はどうなる?」
まさか俺がマナベルと戦って裏ボス化?
「普通に帰りなさいよ」
「ん? 戦わないのか?」
「魔王を倒した者のみが挑戦権があるの。あんたが私に勝っても私は解放されないわよ」
ま、あんたなんかに負けないけどねとマナベルは付け足した。
◯
一晩、ホテルのような客室で泊まることになった。飯はシチューとパン、そしてサラダだった。
朝になればマナベルの魔法陣で外へワープ。それで俺はまた魔王を倒す旅に。
まずは仲間達はダンジョンのモンスターにやられてしまったから、もう一度パーティーを作らないといけない。
ちなみにダンジョンのモンスターが強いのは、間違って人がやってきた際、この場所を話されては困るからだとか。それとかつての勇者や賢者を倒しに軍が派遣された時の対策であるとか。つまり勇者や賢者のための護衛措置だった。
なら、勇者や賢者はこの塔に来たらどうなるのかというと魔法により、一気に最上階へと移動させられるようになっている。
◯
俺は眠れずにいたためベランダに出て、夜風に当たることにした。
星空と海。
それ以外、何もない。
「救済というより牢獄だな」
魔王は倒しても、新たな魔王が生まれると言う。けれどおいそれとすぐには生まれない。
たぶん長い年月がかかるのだろう。
そしてその魔王を倒す者もまた現れるのに時間がかかるはず。
そうなるとかなりの年月をここで過ごすことになる。
「寂しいな」
「何? ホームシック?」
驚いて声の方を向くと、隣のベランダにマナベルがいた。
「なんだいたのか」
「あんたの独り言がうるさいからよ」
「独り言なんてしてないぞ」
「今、言ってたじゃん」
「それだけだし」
「で、ホームシックなわけ?」
俺はやれやれと首を振る。
「違うよ。お前がずっとここに独りだと言うなら、寂しいのかなと思ってな」
「そういうこと」
「で、実際どうなの?」
「ん〜」
マナベルは海の方は向き、悩み声を出す。
「独りってわけではないのよね。精霊もいるし」
「精霊?」
「そう。7人の精霊がね。だから話し相手や雑用にも問題はないわ」
「なら、さっきはどうして?」
「怪しい奴に手の内を見せると?」
「怪しいか?」
「全裸覗き魔は怪しわよ」
俺はマナベルとの邂逅を思──。
「思い出したら殺すわよ」
「思い出さない。俺は忘れている。うん」
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