第2話 裏ボス

 なぜこうなった?


 俺はレベル113だ。

 S級冒険者より強いんだぞ!


 それなのに今はモンスターに見つからないようダンジョン内で息をひそめている。


 仲間は皆、殺された。

 亡骸はモンスターの腹の中。


 あいつらS級とはいかないが、のちのちS級に至るA級冒険者だ。


 クソッ!

 なんなんだよこれは!

 楽に魔王を倒して、英雄になるはずだったのに。


  ◯


「よし。いないな」


 俺はクラフトスキルでダンジョン内にカラクリを作り、身を潜めていた。


 そして近くにモンスターがいなくなると外に出て、探索を開始する。


 仲間がられ、1人になってから1週間が経つ。


 飯は料理スキルを使い、狩ったモンスターを調理。


 少しずつ、ダンジョン攻略するもなかなか進めない。


 チート能力のおかげで1人で色々出来るので問題はないが、時間と労力は大変。


 ダンジョンを攻略を諦めて、さっさと出ようとも考えた。

 けれど、その時にはもうダンジョンの中腹にいて出ようにも簡単に抜け出せない状況だった。


「はあ。今日も食材となるモンスターを狩るか」


 俺は独りごちて、モンスターを狩る。

 ここにいるモンスターは全て強い。

 弱そうに見えるからといって油断してはいけない。


「よし。帰るか」


 狩ったモンスターをその場で解体して、食べる部位を切り取って持ち帰る。


  ◯


 拠点は壁の中に作った四畳半ほどの空間。

 俺は切り取ったモンスターの肉を調理場で焼く。


「調味料も減ったな。新たに開拓を……って、何言ってんだ。ここで暮らすんじゃないんだよ」


 しかし、戻ることも難しくなった今、どうすべきか。

 このままここで暮らして骨をうずめるつもりはない。

 やはり少しずつでもいいから前を進むべきか。


  ◯


 食事のあと、俺は壁を掘った。


 進む進まないの前に食糧庫が必要だったのだ。


 ツルハシがないので剣で壁を掘り進めていると剣がすっぽりと壁にめり込んだ。


 ……硬い感触はない。

 つまり外だ。


 俺は剣を引き抜き、割れ目から外を覗き込むと、そこは暗い部屋だった。床には紫色に光る魔法陣が見える。


「ワープゾーンか!」


 しかしどうしてこんなところに?


 俺は壁を削って謎の部屋に入る。


 部屋には魔法陣以外何もない。壁に囲まれた部屋。


 壁を調べるとカラクリの壁を見つけた。

 俺の作ったカラクリの壁と同じでスライド式だった。俺じゃなきゃあ気づけないレベルのカラクリだった。


 これは俺の前に誰かが作ったとか?

 …………まあ、考えても答えは分からないから無視しよう。


 で、直前の問題として、この紫色の魔法陣はどうなっているのかということだ。


 紫色の魔法陣はワープの証。上に行くか下に行くか、それともトラップエリアに行くかのどちらかだ。


 今までこのダンジョンにはトラップはなかった。

 なら、トラップエリアには行かない可能性が高い。


 しかし、ここにきて急にトラップエリアが現れてもおかしくない。


「……どっちだ?」


 少し逡巡して俺はワープを使うことを決めた。


「やってやろうじゃないか!」


 俺は紫色の魔法陣の上に立つ。

 魔法陣は強く輝いた。


  ◯


 ワープして着いたのは四角しかくい部屋だった。

 ダンジョンとは違う材質の床と壁、そしてドア。

 ドアを開けて部屋を出ると廊下だった。


「どこかの建物か?」


 廊下を進んで行くと、ある出入り口から湿度を感じた。

 中を伺うと広い脱衣所があった。その奥にはガラス戸があり、湯気で曇っている。


「温泉か? ダンジョン内に?」


 そういえば港町を出てからずっと風呂入っていなかった。

 俺は服を脱いでスッポンポンになる。


 そしてガラス戸を開けた。


 湯気が広がり、旅館のような露天風呂が視界に現れる。


 そして──。


「きゃあーーー!」


 女性が両腕で前を隠して、悲鳴を上げた。


  ◯


 目が覚めると俺は脱衣所の椅子に寝かされていた。

 ゆっくりと上半身を起き上がらせると頭に鈍痛が。


「イタタッ」


 どうしてここに?

 確か俺は温泉を見つけて、それで──。


「女の子に──」

「目が覚めたようね」


 女の声に振り返ると黒髪の青いドレスを着た女性がいた。


「君は──さっきの」


 俺は裸体を──。


「私の裸体を思い出したら殺す」

「うん。忘れた。君に殴られて忘れた。で、ここはどこ? そして君は?」

「まず私の質問に答えなさい。あなたは誰? ここに何しに来たの?」

「俺はダニエル。冒険者さ。魔王を倒しに北西の大陸へと向かっていたらここに辿り着いた」

「はあ? どんだけ方向音痴なのよ」


 黒髪の女性は呆れたように言う。


「いやいや、ちゃんと考えてここに来たぜ。南東から進んで北西の大陸に辿り着くつもりだったんだ」

「あら? 世界が丸いとご存知なのね」

「ふっ、まあな」

「……全裸でほくそ笑みをされてもね」


 そういえば今の俺は局部にタオルを置かれただけの姿。


「で、君は誰? ここはどこ?」

「私はマナベル。裏ボスよ。そしてここは私のダンジョン」


 黒髪の女性は腰に手を当てて名乗った。

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