世界が丸いと知っている俺は最短航路で魔王城を目指すが、先に裏ボスがいる塔に辿り着いてしまった。
赤城ハル
第1話 謎の塔
「ねえ、ダニエル? 本当にこの航路で大丈夫なの?」
女魔法使いアリーゼが心配そうに聞く。
彼らもまた俺の言葉を待っているらしい。
「なーに、大丈夫さ。世界は丸いんだ。このまま南東を進めば北西に辿り着く」
俺は地図を出して彼らの前に広がる。そして南東へ指を動かし、南東の角に着くと反対の北西の角を指す。
「南東の角から北西の角に」
「……地図の端は大瀑布なのよ。大きな崖があり、海は全て落ちるのよ」
俺は心の中で溜息をつく。
もうこの話は何回目だろうか。
彼らは世界は真っ平で世界の端は崖になっていると考えている。
だから怖いのだ。このまま大瀑布に落ちて死んでしまうのではないかと。
「南東の大陸で1番高い山は?」
「……チャモランマン」
「そう。空より高いと言われるチャモランマン。なら、どうしてその山は見えない? 空より高いんだろ?」
俺はチョモランマンがあるだろう方角を指す。
だが、そこには何もない。空はただ青いだけ。
「……知らない」
アリーゼは三角帽子の鍔を下げて表情を隠す。そして俺に背を向ける。
「というわけだ。世界は丸い。だから心配するな。このまま地図の端を進めば別の端に辿り着くのさ」
俺はアリーゼから航海士兼アイテム鑑定士マンゼンに向けて言う。
「あのさ、世界が丸いって言うなら、その地図で球が出来るだろ?」
「これはメルカトル……つまり、真横の経線と縦線の緯線が直角で交わるように出来ているからさ」
「ケイセン? イセン?」
「えーと、航海用としてはこういう地図は完璧だが、実際は地図の上部と下部は小さいのさ」
「……そうか」
全然わかっていない顔でマルゼンは頷いた。
しまったな。そういえば地図には経線や緯線が記されていない。もしかしたら、この世界ではまだ経線や緯線という概念は存在していないのかな?
「そもそもどうして大瀑布があると信じているんだ? 実際に誰かが見たのか?」
「そうじゃないけど、昔からよく聞くし。それに教会の絵画とかで大瀑布の絵があるし」
マルゼンは困ったように言う。
その絵は俺もジャスミンと共に見たことがある。
「そうか。しかし、大瀑布があるというならどうして海は静かなんだ?」
正直、本当に海は静かだった。波も風もまったくなく、魔法を使わないと進んでくれないほどだ。
彼らの言うことが真実なら海はその大瀑布に向けて流れているはず。
「ま、いいんじゃないかしら? 彼は何もしないでここまで強くなったのよ。きっと私達の預かり知らぬ何かを持っているのよ」
女僧侶ジャスミンが間に入って言う。
「本当よ。何もしないでここまで強くなったなんてどういうことよ? ついこの間まで雑用しかしてなかったくせに」
アリーゼが俺に聞く。
「能ある鷹は爪を隠すのさ」
「いつもそうやってさ!」
「ハッハッハー」
こればかりは誤魔化すしかない。
まさか異世界転生特有のチート能力で強くなったとは言えない。
気になる方のために話すと俺のチート能力は経験値分配機能だ。
パーティーメンバーが経験値を獲得すると俺に譲渡される。つまり、俺個人が何もしなくても譲渡されるというもの。
しかも一度、パーティーメンバーになればこちらが切らないまでずっと経験値を得られるというチート能力。
チート能力の発動条件はS級パーティーや軍隊、ギルドなどでちょっとでも雑用の仕事をすればいいだけ。窓拭き、馬の世話、荷物持ち、たったそれだけ。
あとはグウタラしているだけでどんどんレベルアップ。今ではレベル113だ。100が上限と思いきや、その上限を越えてしまった。
しかもこの世界はレベル以外にも職業レベル、スキルレベルがあり、俺は何もしなくても勝手に色んな職業とスキルを手にした。
もうこの世界の全ての職業技術を持ち、あらゆることに対応できることになった。
「ダニエル! 何か見えてきた!」
アリーゼが南東の方角を指す。
「ん? もう北西の大陸か?」
「違う! あそこは南東の角だよ」
マルゼンが地図を見て言う。
「じゃあ? なんだ?」
近づくにつれてはっきりとしてきた。
それは塔だった。
「どうするの?」
アリーゼが俺に問う。
「確かめよう」
塔には停泊場があり、そこへ船を停泊させ俺達は塔のへと進む。
塔は太く、そして高い。
東京タワーくらいかな?
「入るのか?」
マルゼンが少し腰が引けていた。
「おいおい、怖いのか?」
「そりゃあ、地図の角にこんなものがあったら君悪いだろ?」
「天国に通じてるとか言わないよね?」
アリーゼが呟く。
「塔のてっぺんが天国か? だとしたらずいぶん低いんだな」
「フフッ、もしくは地獄かもよ」
ジャスミンが意地悪そうに言う。
「ちょっとやめてよ!」
「アリーゼ、そんなに心配するなよ」
俺は歩を進めて、内部へ通じるドアを押し開けて中へと進む。
中は暗いため魔法で灯りを作る。
「ダンジョンか」
塔の中は迷路だった。
俺はてっきり広いフロアがあり、フロアボスを倒すと階段が現れるというイメージをしていた。
「ダンジョン? こんな辺境で?」
後から続いたアリーゼが塔内部を見て言う。
「魔王の前に前哨戦か」
◯
この時の俺は意気揚々としてダンジョン攻略に向かった。
誰もこの俺の快進撃を止めるものはいないとたかを括っていた。
けれど──。
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