第26話


 しかし高本さんが集めたメンツ。

 また違った意味でいいカンジの方々です。かつて引き立て役として出席してた合コンのメンバーを比較しても、何コレって思うのです。

 というか印象がいい。

 いままで出席してた合コンの男性陣は「あ~キタコレ外れが!」的な視線をあからさまに投げてよこしてきたのですが、そういうのがない。

 これはあれですか、青木嬢たちによる雪村美幸改造計画ビフォー・アフターまあなんということでしょうのなせるワザなのか。

 それとも……男性に免疫がついたのか。

 各務氏と一緒にでかけるようになってから、男性に対して構えることがなくなったというか。

 それまでのわたしだったら、男性ってだけで緊張して、会話とかも全然つながらなかった。

 自分がぼっちで地味で女子としてあまり魅力がないっていうのは自覚してたし、そういうのが表面にでていたのもなんとなくわかっている。

 男性に対しても青木嬢のような女性に対しても、こうコンプレックス丸出し的な状態が多分現在のわたしにはないと思う。(少しはあるかもしれないけれど)

 やっぱりそういう状態って、受け取る側というか……対面する側も感じるのかもしれないのかも……かつてのように、ないがしろ的な扱いは表立ってありません。

 だからといって、ほいほい気軽にメール交換なんてしませんよ。

 ていうかそこは考えすぎでした! 

 やっぱりわたしにはそんな声はかかりませんね!!

 当然です!

 この合コン引き立て役歴8年、そこの雰囲気を読む力はばっちりです、男性陣気持ちはみなさん一緒。

 わたしの隣に座ってるこの青木嬢一択ですよ。

 あれでしょ、自分の魅力再発見って、青木嬢……言ったじゃないですか、充分モテルって!

 

 「でも、青木さんみたいな女性に彼氏がいないなんてねー」


 男性陣で青木嬢の対面に座ってる人がのたまう。

 そうだ! 疑え!! この美女がフリーだなんて、あるわけないでしょう。いますからねっ! ちゃんといますから。

 騙されないでくださいよ!


 「え……やだ~藤井さんたら~口上手いんだから~モテませんよ~」


 青木嬢は謙遜と照れと親しみやすさを足して3で割るという小技を繰り広げた。

 この受け答え、この仕草、わたしが男なら、カワイイ~~とか思う。

 いえ、女性であるけどこれは可愛い……否定する奴は前にでろ、断固抗議する。

 さすが……これは……騙される……。

 というか……何その気にさせてんの青木嬢!!

 

 「ではそろそろこの辺で、どうする? このあと二次会いく?」


 今回の幹事高本氏がそろそろ一次会お開きの発言をしたところで、ブルブルとバッグのなかの携帯がお知らせを……。

 幹事に今回の会費を渡して化粧室(作戦会議室)へ……。




 「青木……あんたの本気を久々に見たわ……」

 がっくりとうな垂れる吉井嬢。

 「一本釣りどころじゃないわ、網投げして大漁っていうのアレ?」

 吉井嬢は多分、青木嬢が瀬田氏へのあてつけ合コンと踏んで、手ぬきしたけど青木嬢がまさかのガチで総浚いするとは思ってなかったんだろうな。

 いやいや、青木嬢は元がいいからポテンシャル高いからこれぐらいはあっても当然かもしれませんが。

 さっきからブルブルしてる携帯を見てわたしはそれを手にする。

 

 「も……もしもし…」

 「美幸?」

  

 メールでもラインでもなく直接電話の各務氏。

 その声は幾分不機嫌そうな印象です。

 「はい、雪村です」

 「……傍に誰かいるの?」

 「青木嬢と吉井嬢がおりますです」

 「各務さん?」

 青木嬢が声をかける。

 その声は各務氏にも聞こえた模様です。

 「何、迎えにきてんの?」

 あなたの瀬田氏もお迎えに参上してるはずですよ!

 「何その手もだしてないくせに束縛はすると、面倒臭い男だね。ゆっきー切っちゃいな電話」 

 はう! それは無理!!

 「ゆっきーもなんとも思ってないなら切れるよね!」

 巻き込むなー! 八つ当たりだー!!

 「切るなよ、美幸」

 切りませんよ。

 「各務氏、瀬田氏は?」

 「一緒」

 安心の溜息をこぼしたら、青木嬢は「瀬田氏」という言葉を耳にしたらしい。

 「ゆっきー……どういうこと?」

 ぞくっと悪寒が走り抜ける。

 美人が怒ると怖いわ。

 「いま!! すぐ!! そちらに参ります!!」

 「なっ!!」


 わたしは電話を切らずそのまま化粧室のドアをあけて、店を出る。店は事前に各務氏に連絡済みでしたので、店の外には各務氏がスマホ片手にわたしを見てる。

 その隣には瀬田氏もいる。

 プチっと電源をオフにして、各務氏に寄ると彼は手を伸ばしてわたしを引き寄せた。

 こういうのなんていうか……手をつないだり、いつぞやみたいなハグだったり、そういうスキンシップにも慣れたのか、この人からそういうことをされるのに変な安心感というか、ドキドキしてくすぐったいけど……居心地の良さというか、そういうのがあって、一緒にいたいなとか……傍にいてくれて、嬉しいなとか思っていたりするのです。

 こういうのって……こういうのって……。

 


 好きって……ことかな……。  



 なんとも思ってないなら、切れるよね!ってさっき青木嬢に言われたけれど、各務氏のことは、なんとも思ってないって……言い切れない。

 再会当初なら全力で言い切れたかもしれないけれど、今はもうそんなことはできない気がする。

  

 

 「誰にも誘われたりしてない?」

 各務氏がわたしの頬を片手で触れる。

 コクコクとわたしは首を縦に振る。

 「でも……」

 「でも?」

 「青木嬢は……がっつり……」

 瀬田氏にそう告げたその瞬間、店から、ヒールの音をカツンと高らかに鳴らして、青木嬢が出てくる。

 わたしは各務氏と瀬田氏と青木嬢の順番に視線を走らせた。

 店から高本さんと今回の合コンメンバーがでてくる。

 

 「あっれ……瀬田? と、各務さん?」

 

 今回の幹事の高本さんは瀬田氏と青木嬢を見比べる。

 小原嬢は高本氏に詳細まで話していないのか。


 「うちのを迎えにきました」


 各務氏がそう言う。

 うちのって発言がなんか、あれ、彼女というか妻というか、そういう響きを連想させるではないですか。

 

 「え~雪村さんそういうこと?」

 

 そういうことがどうういうことかわかりませんが、人数合わせという参加スタンスなんですそこは間違いありませんよ。


 「てことは、青木さんも?」


 今回の参加男性陣の顔色がさっと変わる。


 「あたしは違う」


 きっぱりと否定する青木嬢。


 「行きましょうか、二次会」

 

 にっこりと華やかな笑顔を参加男性陣にむけると、彼らは安堵とやる気で攻めの姿勢に。青木嬢をとりかこむ。


 「行こう行こう」

 「ほら、吉井も小原も行こう?」


 こらこら! なぜそこで二次会に!?


 「青木」


 瀬田氏が離れようとする彼女の手首をつかむ。

 よし! いいぞそのまま青木嬢とこの場を離れてしまうのです。BGMはサイモン&ガーファンクルで!!

 だが、青木嬢の気の強さは筋金入りでした。

 パシっと手首を振り払う。

 ゾクっとするような殺気にも似た視線も向ける。


 「瀬田君も参加する? どっちでもいいけど。あたしには関係ないし。あっちフラフラこっちフラフラしてると本命に逃げられるわよ」


 なんでアンタがこんなところにいんのよ、まったく関係ないでしょう的な、突放した言い方。

 あーあー何故~!!

 何故そこで、拒否るのか!?

 迎えにきてくれた時点で察してもいいのでは? わたしよりそういうところは勘がいいと思うのですよ!! 

 青木嬢、瀬田氏の事好きなんでしょ? 違うの?

 何故!?


 「ゆっきーはお迎えきちゃったので不参加だけど残りは参加よ。藤井さん木原さん遠藤さん行こう~」

 

 男性陣が青木嬢獲得できた状態と把握したのか、小さく拳をにぎっている。

 まさに逆ハー状態だ。

 嬉々として青木嬢に付き従って行く。

 リアルではじめて見たわ。

 ていうか! 追いかけなさいよ!! なに呆然と突っ立ってんですか!? 

 瀬田氏!!


 「……瀬田?」

 

 わたしと各務氏が瀬田氏を覗き込むと、瀬田氏は呆然と立ちすくんでるだけです。


 「……おい」

 「青木って……もしかして……」

 「なんですか?」

 「結構いい女なの?」

 「かなりいい女ですよ!」

 「なにあれ。乙女ゲー逆ハー状態もいいとこじゃね?」

 「リアルで逆ハーですよ!!」

 「……」

 「追いかけて捕まえないと!」

 「いや……無理」




 何が、無理だこのヘタレ――!!



 

 お前が言うなとツッコミは今日ばかりは完全スルーですよ!


 

 

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