第25話


 イケメンはやっぱり紳士でした。

 なにごともなくいつものように送ってくれました。


 「それはヘタレっていうのよ」


 青木嬢が投げやりな口調でツッコミを入れる。

 え……何それヘタレって、紳士じゃないですか!


 「何それ、口だけ男っていうのよ、あたしが男なら連れ込みますよ、がっつりいただきますね」


 ぎゃあああああ肉食女子発言キター!!

 聞きたくない聞きたくない、あたら美女からそんな生々しい発言なんて!

 ていうか、あれですよね、まだご機嫌斜めですよね。

 各務氏~頼みますよ~瀬田氏にちゃんと伝えてくださいよ~。

 

 「ま、まあ、ほら、ゆっきーは、そういうのは免疫ないから~」


 吉井嬢の発言にうんうんと頷く。


 「それでどーやって守ってあげるのよ、あのイケメンに群がる女子共からさ」

 「えっと、えっと……」

 「なりゆき上、彼女のフリすんでしょ?」

 「はい」

 「ていうか、もう彼女でしょ」

 「え……」

 「なんで『え……』なのよ」

 

 だって、だって彼女とか……いや、彼女という形を周囲に見せておかないと、いけないのですよね、躊躇ってはいけない……。

 各務氏がもういいですお役目ご苦労様でしたって言うまでが彼女(護衛)ですよ。

 うむ。前衛職は好みではありませんが、やってみないことには。

 ていうか、思いっきり壁役かっ。


 「いいじゃん、いいじゃん、そのままゴールで、あ~あ~、やっぱゆっきーみたいなタイプが結局はいい感じにおさまるのよね~」


 うっわ……青木嬢……かなりやけっぱち……。

 なんていうか、青木嬢とつきあって思うのは女子のいろいろを見せられる気がするのよね。主に恋愛観というか?

 だってさ、こんだけ美人なのに思い通りにならないっていうのが切ないよね。男の人なんてよりどりみどりだろうに。

 自分の好きな人とはうまくいかないというか……。


 「青木嬢は、瀬田氏のことをどう思ってるんですか?」

 「は? あ、あんなメガネ、な、なんとも思ってないから!」


 み……見事なツンデレっ……。ちょっと瀬田氏!! あなたツンデレ嫌いですか? わたしは大好物なんですが!! ご飯三杯いけますが!

 自覚なしっぽいところがたまらんのですが。


 「瀬田氏のことはなんとも思ってないってことですか?」

 「あ、あったりまえじゃないの」

 「瀬田氏に彼女を――というのを前提に彼の為に新たな合コンをセッティングすることもいいと、そういうことですか?」

 「あいつにはすでにそういう女がいるみたいだし……」

 「ふむ。その彼女とやらが青木嬢と瀬田氏の元同級生ってこと?」

 「そう……」

 「瀬田氏にきいたのですか?」

 「……」

 

 なんですかそれは、聞いてないってことか。

 

 「友里からはきいてる」

 「瀬田氏とつきあってるって?」

 「ていうか……相談みたいな……」

 「ほう?」

 「食事に誘われてるって」

 「で?」

 「友里にはその……好きな人がいるから……」

 「はい?」

 「同じ職場の人が友里はなんか好きみたいなんだけど」

 「瀬田氏横恋慕では?」

 「いや、あのね、瀬田もけして悪くはないとも思うのよ、お勧めといえばお勧めよ?」

  

 ここでニヤニヤしながらお勧めなのに青木嬢の好みじゃないのですか~とは言わない……言ったらあわあわするだろう、むしろそういう青木嬢も見てみたい。が、ぐっと我慢する。


 「瀬田氏がいいなと言ったから、青木嬢のほうは身を引くと」

 「……」

 「だってさ、やっぱり同窓会で再会して二次会三次会で盛り上がった末に、いきなりヤっちゃうカンジの軽い女と比べれば、そっちのほうがいいってことだもんね……」


 ……なにそれ……。


 さらっと今なんと言いました?

 既にそういう事実があったってことですか?

 あの各務氏との合コン前に既にそういう関係だったと!? おい!!

 瀬田氏、あのさ、合意とはいえ男なんだからもう少しはっきりと青木嬢に対して気持ちの所在を伝えるべきではないの?

 それともこういうのがいまどきのスタンダードとでもいうのか? わたしが古すぎるのか? ああそうなんですね古すぎるんですね……。


 「年上として真っ当なアドバイスをあげることができなくてまことに申し訳ございません」

 「ぶっ」

 「どうしてそこでゆっきーが謝罪?」

 

 年下の職場の女子にいろいろ相談にのってあげる頼もしい先輩社員のポジションはわたしには遠い……これも長年ぼっちの弊害なのか。

 歯がゆいし、心苦しい。

 なんとかしてあげたいんだけどな……。

 青木嬢、絶対瀬田氏のこと好きですよね……。

 以前言ってたじゃないですか、二股かけてたら別れさすって。

 強気にでれないのは瀬田氏がよほど好きだからか、もしくは、その瀬田氏が誘っている元同級生がやっぱ青木嬢の親友だからか?

 二人の良さを知っているから普段の自信はどこへやら、自己評価低めにならざるをえないということかな……。


 「青木嬢は自信持っていいと思うけどな」

 「……え?」

 「わたしが男だったら青木嬢は高嶺の花ですけどね、憧れるし、そう思ってる人もいると思うんだけど」

 

 瀬田氏も含む。


 「そう思う?」

 「うん」

 「よっしゃ! 小原!!」

 「ハイ!!」

 「高本さんに連絡してNKフーズの男性社員との合コンをセッティングするように!!」 「はいいいいい!?」

 「ハイ!!」


 いやまて小原嬢、何故そこで勢い良く返事をするの!?

 そして青木嬢どうしてそこで合コンに走るの!?


 「自信もっていいのよね!? ゆっきー」

 「自信もっていいけど何故そこで合コンなのですか?」

 「あたしをいいと思ってくれる男がいるって確認したいのよ!」


 いや確認することないと思うけど?

 

 「確認しないと! このまま彼氏いない暦2年になるじゃないのよ

 

 ……彼氏いない暦28年のわたしに言える言葉は「リア充爆発しろ」ですよ。

 2年ごときで何焦ちゃってんですか!?

 

 「すぐにできるわけないのよ、すぐにできてたらいない暦2年のわけないじゃないの! そこまでモテるわけがないのよ、下手な鉄砲数撃ちゃあたるって言うでしょ!」


 「寝クソいやがって寝ションベン掴むって言葉もあるんですよ!」


 「ゆっきー……何それ」

 「母の名言。姉もそれはそれはモテる人でした、彼氏を選り好みする姉に対して言った言葉です」

 「……」

 「すごい名言だわ……」

 「ゆっきーママ……」

 

 二の句を継げなくなった青木嬢の変わりに吉井嬢と小原嬢が呟く。


 「いやでも、合コンありかもしれない」


 吉井嬢が呟く。

 なんですと!?


 「要は、青木の魅力の再発見を青木自身が確認したいだけなら合コンはあり。ついでにあたしも新たな出会いにありつける」


 吉井嬢の発言に青木嬢は彼女に右手を差し出し二人はがっちりと握手する。

 吉井嬢!! それはないでしょう!?


 「監視の目的でゆっきーも一緒ならいいでしょ?」


 ――いいわけあるかああ!?

 合コンはわたしにとって難解クエストだとあれほどいってんでしょうが!!

 各務氏!!

 はやく瀬田氏をなんとかしてくれ!!

 このお嬢さん達を止めてっ!!


 「瀬田さんだけが男じゃないっしょ?」

 「そうよね? 吉井もそう思うよね!?」

 「青木ならイケるって~~」


 わたしは協定を結んだ二人に背をむけて、各務氏に必死にメールを送る。

 青木嬢が新たに合コンをすると、吉井嬢も意気込んでると。

 小原嬢はテレテレしながら高本さんに連絡とってるし――!!

 メールを送ったら各務氏から即効電話がきた。


 「で、美幸も参加なわけ」


 うっわ、めっちゃ声が不機嫌ではないですか。


 「美幸の立ち位置はわかってるよね?」

 

 うぐ。


 「か……壁役」

 「は?」

 「各務氏のガード」

 「……まあいい……この際、それでも」

 「だって、誰がこの暴走を止めるのですか」

 「お前に止められるとも思えないけど」


 ぐさああああ。

 キタコレ。的確なツッコミ。 


 「迎えにいくから日程場所、決定したら知らせなさい」

 「はい」


 ついでに瀬田氏も連れてきて青木嬢を持ち帰ってほしいのですが。

 

 「瀬田もつれていくから」


 わたしはぐっと拳を握る。


 「そうしてください是非」

 

 とめろ瀬田氏。ていうか是非、射止めろ、青木嬢を。

 

  

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